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その40の3『怖かった話』

 「ただいま」

 「おかえり。そうそう。桃のお茶もらったけど、飲む?」

 「うん」


 お母さんが入れてくれたのは水だしのピーチティーで、コップに入っている氷のヒビには、しっとりと紅茶がしみ込んでいます。コップを手に持つと柔らかな香りが広がり、お茶を口に含めばほのかな甘みがノドを触ります。ジュースほど甘すぎず、お茶の風味を残した爽やかな後味です。

 

 「もう1個、飲んでいい?」

 「あんまり飲むと夜、寝れなくなるよ。他のにしておいたら?」

 「……」


 ピーチティーのおかわりをお願いしますが、お母さんからは夜に眠れなくなると言われてしまいました。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんや桜ちゃんの話を思い出し、眠れなくなったら困ると考えて2杯目は諦めました。いつもは午後5時頃になると昼寝をしてしまう知恵ちゃんも、今日は寝るのを我慢しています。


 その後、居眠りせず無事に宿題も済ませ、ごはんも食べて、夜に知恵ちゃんはテレビを見ていました。時刻が9時になるとテレビドラマが始まり、そろそろ寝ないのかとお父さんが知恵ちゃんに聞きます。


 「今日は、まだ寝ないんだ?」

 「早く寝たら夜に起きちゃう……あと10分、がんばる」


 宣言した通りに10分だけ頑張りましたが、そこで限界を迎えて知恵ちゃんは歯みがきに行きます。リビングを出て洗面所へ入ります。すると、洗面所にあるタオルなどが入っている収納ボックスの下から、何か視線のようなものを感じました。


 「……?」


 しゃがみ込んでのぞいてみますが、やっぱり何もありません。そのまま歯みがきをして、知恵ちゃんは部屋でパジャマに着替えます。


 「おやすみなさい」


 お母さんとお父さんに声をかけてから、知恵ちゃんは自分の部屋へと向かいます。今日は気温が高いので、ちょっとだけ水を飲んでから部屋に戻りました。布団をかぶると熱かったので毛布だけ引っ張って、部屋の電気を全て消してから目を閉じます。


 「……」


 眠るのを辛抱していた知恵ちゃんなので、ベッドに入るとすぐに眠りにつくことができました。しかし、ふと途中で目がさめてしまいます。時計の文字は深夜の3時を告げていて、もう6時間ほどは寝たのが解ります。


 「……ううん」


 毛布を口元まで引き上げて、再び眠りにつこうとしますが、お手洗いに行きたい気持ちから知恵ちゃんはベッドを出ました。部屋の電気をつけ、ろうかの照明をつけて、1階へと降りていきます。


 「……?」


 途中、ろうかに置いてある戸棚の下に、ぼんやりと何かいるような雰囲気を感じます。でも、下校途中の車の下にも、洗面所の収納ボックスの下にも、何もいませんでした。きっと何もいないのだろうと、知恵ちゃんが戸棚の下を見つめています。そんな中、風の吹く音が家の外で鳴りました。


 「……ッ!」


 知恵ちゃんの視線を感じ取り、急に戸棚の下がパッと光りました。まるで、何もいませんと言っているように謎の光は戸棚の下を照らすと、次第に輝きをおさえていきます。なにもいなかったことは解りましたが、それよりもライトすらない場所が光ったことにビックリして、わずかに知恵ちゃんは足を後ろに下げました。


 「……ッ!」


 気にしない素振りで歩き出しますが、今度は電気をつけていない玄関近くの通路が気になります。すると、またしてもスイッチも押していないのに、その通路がパッと明るくなりました。ろうかの灯りが消えていくのを見ながら歩いていきます。


 それからも、知恵ちゃんが目を向けた暗闇は、次々と謎の光を放ちます。知恵ちゃんは困惑ながらも、そんな何もないばかりの場所を通り抜けていきます。


 「……わわっ!」


 光に目を奪われながら歩いていくと、目の前に誰か出てきました。知恵ちゃんは驚いて声をあげますが、それがお母さんだと解ると、すぐに胸の辺りをなでました。


 「お母さん……」

 「あ、ごめんなさいね。先に入っていいよ」


 お母さんもお手洗いに来たようで、先をゆずってもらって用を済ませました。知恵ちゃんは電気を消しながら部屋に戻ります。でも、それから1時間ほどは眠れず、時計に表示されている時間ばかり見てしまいます。時計の方を見るたびに時計の上がパッと光るので、それの方が気になって、なかなか知恵ちゃんの夜は終わりませんでした。


 「あれ……ちーちゃん?」

 「……んんん?」


 次の朝、亜理紗ちゃんが家に迎えに来て、一緒に学校へと歩き出します。昨日とは違い、今日は知恵ちゃんの方が眠たそうな顔をしていて、どうしたのかと亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに尋ねました。


 「もしかして、ちーちゃんも暗くて寝れなかったの?」

 「そうじゃないけど……」

 「……?」


 知恵ちゃんは近くにある暗闇を見つめ、そこが光らないことを確認しつつも答えました。


 「……暗いところが親切で寝れなかったの」

 「……んん?」


                             その41へ続く



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