その40の1『怖かった話』
朝、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと2人で学校へ向かっていました。天気は快晴です。陽気の程度も上々で、カラッとした空気が口に入ると、まだ起きて時間も経っていないのに眠気が襲ってきます。
「眠い。今日は眠たすぎてしまう」
亜理紗ちゃんのあくびが止まらず、隣にいる知恵ちゃんにもあくびがうつります。それにしても、いつもに増して亜理紗ちゃんが眠そうなので、その理由を知恵ちゃんは歩きながら質問しました。
「なんで、そんなに眠いの?」
「夜に目が覚めて、なかなか寝れなかったの」
「そうなんだ」
亜理紗ちゃんは夜に目が覚めてしまうと、再び寝ようとしても眠れないことが、しばしばありました。それは知恵ちゃんも同じでしたが、なぜ眠れないのかといえば少し話は変わってきます。まず、知恵ちゃんが眠れなくなってしまう理由を明かしました。
「私ね。夜に起きると、なんか時計の音が気になって寝れない時がある」
「ちーちゃんの部屋の時計って、知らない内に画面のやつになったよね」
時計の針の動く音が睡眠を妨げるので、知恵ちゃんは去年の誕生日にお父さんとお母さんにお願いして、デジタル表示の時計を買ってもらいました。知恵ちゃんの眠れない理由に納得して、今度は亜理紗ちゃんが話を始めます。
「昨日ね。私、見ちゃったんだ……」
「何を?」
「怖い映画」
怖い映画と言われ、知恵ちゃんは幽霊が出てくるものや、サメや宇宙人が出てくるものを想像します。どのような映画だったのか、知恵ちゃんは詳しく内容をうかがってみます。
「なんの映画?」
「殺人事件の映画」
「……殺人事件の映画って、怖いの?」
「怖いよ……人が死ぬし」
亜理紗ちゃんは殺人事件の映画と呼んでいますが、それは知恵ちゃんの中では刑事の映画や、探偵の映画と呼ばれているものです。最後には主役がカッコよく事件を解決して終わるので、それらを知恵ちゃんは怖いとは思いません。でも、亜理紗ちゃんは人が死ぬ時点で怖いので、解決するところまで見るのも堪えられません。
「なんで見ちゃったの……」
「人が死ななさそうだったから」
亜理紗ちゃんの怖がるポイントから察するに、それならば違うものも怖いのではないかと知恵ちゃんは疑問に思います。そこで、別の映画やアニメについても聞いてみました。
「朝のアニメだって、敵がやられて死んじゃうんじゃないの?」
「あれは絵だからいいの」
「朝のヒーローマンの敵は?」
「あれはやられそうになると、自分から爆発するからいいの」
実写のスーパーヒーローの敵がやられても怖くはないですが、殺人事件の起こる映画やドラマは亜理紗ちゃんの恐怖心にふれます。またあくびをしている亜理紗ちゃんに対して、知恵ちゃんは何時まで起きていたのかと問いかけます。
「それで、何時まで起きてたの?」
「2時くらいに起きて、5時まで」
「5時って、もう朝だよね?」
「明るくなったらトイレに行けたから、そしたら寝れた」
お手洗いに行きたいのに行けなかったせいで亜理紗ちゃんは眠れなかったのだと、そこで知恵ちゃんは初めて気がつきました。そして、お手洗いに行くのを3時間も辛抱していた事実にも同時に気づきます。すると、なぜか亜理紗ちゃんは同情するような口調で話し始め、何となく知恵ちゃんの肩に手を乗せます。
「でも、ちーちゃんも大変なんだよね」
「なんで?」
「だって、ほら」
近くにあった大きな家をながめながら、亜理紗ちゃんは何か想像しつつも、その理由を述べました。
「トイレに行くのに、1階まで行かないとだし。私だったら、きっとあきらめてる……」
「あきらめないで……」
その40の2へ続く






