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その39の6『世界の終わりの話』

 もう5分ほど、亜理紗ちゃんは代わり映えのしない星空を観察し続けていて、まだまだ宇宙は奥へ奥へと続いています。時たまに、亜理紗ちゃんは変な形の星を発見すると、眠そうにしている知恵ちゃんに教えてあげます。


 「あれ、いくらみたいじゃない?」

 「どれ?」

 「あれ」


 亜理紗ちゃんの指さした方には赤くてつるつるした星があり、その見た目がお寿司などに乗っているイクラに似ていると言います。知恵ちゃんも似ているとは思ったようですが、その興味よりも眠さが勝って、まぶたが落ちてきてしまいます。


 「アリサちゃん……着いたら起こしてもらっていい?」

 「おっけー」


 亜理紗ちゃんに断りを得て知恵ちゃんはベッドに横になり、そのまま目をつむってしまいました。夢も見ない内に亜理紗ちゃんの声がして、知恵ちゃんは部屋の電気に目をくらませながらも瞳を開きました。


 「ちーちゃん。起きて」

 「……あれ……着いたの?」

 「着いたっていうか……なんか止まった」


 ぽっかりと一面が開いている天井から外を見ても、岩のカタマリが黒い壁に集まっている様子しかうかがえません。亜理紗ちゃんの部屋は進むのをやめていて、たくさんの岩のカタマリや、いびつな黒い壁の前で止まっています。


 黒い壁は光沢もなく、亜理紗ちゃんたちの行く手をはばんでいます。そんな壁に貼り付き、岩は少しずつ回りながら互いを削っています。ギリリと音を立てた次の瞬間、岩のカタマリは白い光を放って弾けました。


 「……!」


 岩のカタマリが集っていた場所には白いカケラが飛び散り、黒い壁の削れた部分には、ぼんやりとした空間が広がりました。壁に出来た空間は、照明の光を受けて揺らいでいます。でも、どこにも星は見えません。キラキラと光っていた白いカケラは自由に飛び散り、宇宙の黒色へと貼り付きました。


 「……そうだった。ちーちゃん。さっきね。キャベツみたいな星があったんだ」

 「え?」

 「もう見えなくなったけど、たくさん変な星があったの」


 知恵ちゃんが眠っている間に、亜理紗ちゃんはキャベツのような星を見つけたのを思い出しました。ですが、もう遠く通り過ぎてしまったので、キャベツのような星を見せてあげることはできません。それも気にはなる様子でしたが、知恵ちゃんは黒い壁と岩のカタマリの方が不思議でなりません。


 「アリサちゃん……あれは、なんなんだろう」

 「う~ん……」

 

 部屋の外では別のところでも岩のカタマリが集まっていて、また光っては黒い壁を砕き、そこに貼り付いて宇宙を広げます。すると、少しだけ亜理紗ちゃんの部屋も先へと進みます。窓からながめてみても、周りでは同じことが繰り返されていて、岩の弾けた光がパチパチと、遠く近くで光り輝いていました。


 「ちーちゃん……これ、工事なんじゃないの?」

 「え……工事?」

 「パチパチってして、パッてするでしょ?」


 暗闇の中に空間ができ、そこに星々が居場所を作ります。何度も繰り返されます。それを見て、亜理紗ちゃんは岩のカタマリが宇宙を工事して、行ける場所を広げているのだと考えました。


 「それでね。壁が壊れたら、ちょっとだけ部屋が、また進むの」

 

 この広大な宇宙のはしっこで、岩のカタマリが集まってはぶつかって光り、新しい宇宙を作っています。今はまだ、ここまでしか進めません。でも、時間が経てば、また少しだけ先に進めます。一生懸命、岩のカタマリが新しい場所を求めて、今まで行かなかった場所を作っていきます。


 「ちーちゃん。私ね。宇宙の最後まで来てよかった」

 「え……なんで?」

 「最後まで行ったら終わりだと思ってたけど、違ってたからよかった」


 世界の終わりでは今も岩のカタマリが工事を行っていて、それが続く限り世界は広がっていきます。それを知って、亜理紗ちゃんは安心したようにベッドへ寝転がりました。そのまま2人は、窓の外に地球の夜空が現れるまで、岩の弾ける光を静かに見守っていました。


                                   その40へ続く


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