その39の5『世界の終わりの話』
亜理紗ちゃんの言う、宇宙の向こうまで見える視力については、もはや知恵ちゃんには想像すらつきません。でも、すぐ隣に寝ている亜理紗ちゃんが、暗闇の中でパッチリと目を開いているのは想像できました。知恵ちゃんは天井の星空へと意識を戻し、知っている星座などを探し始めました。
「アリサちゃん。あれ、北斗七星でしょ?」
「どれ?」
「あの、7つ並んでるの」
大きな星の並びを見つけ、知恵ちゃんは北斗七星の場所を指さしました。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの言う北斗七星を探し、あれが有名な北斗七星かと納得のうなり声を出しました。
「おお……ちーちゃん。もしかして、あれも北斗七星?」
「どれ?」
暗い部屋の中で亜理紗ちゃんの手が動いて、知恵ちゃんの指し示した方とは別の星に指先が向きました。そこには北斗七星のような、でも少し違うような並びの星があります。北斗七星が1つしかないのか、いくつももあるのか、それを知恵ちゃんは詳しく知りません。
「う~ん……じゃあ、あれも北斗七星かもしれない」
「あれもじゃないの?」
「んん?」
亜理紗ちゃんが次々と北斗七星を見つける中、知恵ちゃんはプラネタリウムの映し出す星に異変を見つけました。白い点の集まりだった星空は奥行きを得て、遠くの遠くまで星々が続いています。土星のような輪っかをつけた星や、赤い星や青い星も浮かんでいます。それは実際の星空と見間違えるくらい現実的で、知恵ちゃんも星空の向こうへと、ぼやけていた焦点をあわせていきます。
「……アリサちゃん。ここ、宇宙?」
「……あれ?」
知恵ちゃんに言われて、亜理紗ちゃんもプラネタリウムの星が夜空へと変化している事に気づきました。ベッドから立ち上がってみると天井はなくなっていて、部屋の上にはポッカリと宇宙が広がっています。カーテンを開けてもみますが、窓から見えるのは果てしない星の海です。窓を開いた亜理紗ちゃんに対して、知恵ちゃんは空気があるかと聞きました。
「……息できる?」
「なんで?」
「宇宙って息できないんだよ」
「う……そうなの?でも、できる」
息はできます。異常な寒さも、激しい熱さもありません。ただひたすらに、亜理紗ちゃんの部屋は宇宙船のように、ぐんぐんと宇宙空間を飛んでいきます。太陽らしき星の近くを通り過ぎて、すでに地球も遥か彼方です。
「よーし!進め!宇宙船、私の部屋号!」
「どこに行くの?」
「わかんないけど、どこか遠く」
太陽から離れれば離れる程、周りの星々は光を失って見えなくなっていきます。試しに知恵ちゃんが部屋の入口の戸を開けてみますが、戸の向こうは普段と変わらない家に繋がっています。戸を閉めてベッドに座り、2人は一緒に星空を見上げていました。もう太陽の光は届かなくなり、周囲は黒一色となってしまいます。
「何も見えないね」
「電気、つけてみる?」
亜理紗ちゃんが部屋の電気をつけます。テーブルの上でプラネタリウムの機械が光っています。部屋に近い場所で星々が姿を現し、後ろへ通り過ぎると暗さを取り戻して消えていきます。その行き先に予想がつき、またしても亜理紗ちゃんは立ち上がりました。
「これ、宇宙の終わりまで行けるんじゃない?」
「え……」
亜理紗ちゃんの部屋が進むスピードは、知恵ちゃんたちには車のスピードほどに感じられます。ですが、周りに光る星々は視界に入ったと同時に背後へ消えていき、実際には新幹線とも比べ物にならない速さで進んでいきます。亜理紗ちゃんはドキドキした表情で知恵ちゃんに尋ねました。
「ちーちゃん。宇宙の終わりまで行ったら、なにする?」
「なにするって言われても……なにするの?」
「う~ん……」
世界の終わりに何が待っているのか見当もつかないので、何がしたいかも解りません。知恵ちゃんから聞き返されますが、亜理紗ちゃんも考え込んだ末に答えを出しました。
「とりあえず、一番遠い星を持って帰る。ちーちゃんも欲しい?」
「持って帰っても置き場に困るの……」
その39の6へ続く






