その39の3『世界の終わりの話』
すぐには行けない遠くのことを話すよりも現実的な話をしようと、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは実際に行けそうな場所について検討します。お父さんの部屋には風景の写真を集めた写真集が並んでいて、そのタイトルを流し見ていきます。
「勝手に見ていいの?」
「写真は見ていいって言ってたの」
写真集は好きに見ていいと前にお父さんから言われたので、亜理紗ちゃんは本棚から2冊だけ本を引き抜きました。それは山の景色を写した本と、海の景色を写した本でした。
「ちーちゃん。山と海だと、どっちがいい?」
「山は虫がいそうだから、海がいい」
亜理紗ちゃんは山の写真集を棚に戻して、海の写真集を広げます。写真集の中には近場では見た事もない白い砂浜や、青く透き通った海が紙いっぱいに広がっています。それが非常にキレイな風景だったので、どこの国の写真なのかと知恵ちゃんは気にしています。
「どこの国?」
「……」
亜理紗ちゃんが本をたたんで、表紙に書かれている文字から場所をつきとめます。
「……おき……なわ?」
「日本だ……」
遠い国じゃなくても美しい世界があると解り、亜理紗ちゃんは沖縄への行き方などを思案しています。一方、知恵ちゃんは行くのにかかる金額などを考えていました。写真の中にいる魚は色とりどりで体も大きく、水族館に行かないと見られないような姿をしています。それを見て、亜理紗ちゃんは魚の味を想像しています。一方、知恵ちゃんは魚の金額などを考えています。
「ちーちゃんって、泳げるんだっけ?」
「ちょっとだけ」
「ちーちゃんの水着、かわいかった」
知恵ちゃんの水着は長めのスカートがついている花柄のもので、一緒にプールに行った時に亜理紗ちゃんは一度だけ見た事があります。逆に亜理紗ちゃんの水着は黒くて地味な色のものでしたが、あまり本人はファッションに頓着がないので、自分の水着自体に不満はありません。
「山も見てみよう」
海の写真がキレイだったので、亜理紗ちゃんは山の写真集も見てみる事にしました。山の写真集はめくってもめくっても木が並んでいて、木の見過ぎで幹や葉の模様が目に焼き付きます。あまりにも見所がないので、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも次第に飽きてきました。
「ちーちゃん。山って木だ」
「木しかない」
木をながめるのに疲れてきた写真集も中盤のあたりで、山の葉は赤や黄に色づき始めました。代わり映えしなかった景色が美しく変化し、2人は閉じかけていたまぶたを開きました。秋の山は燃えるような色に染まっていて、それが青い空と重なるまで続いています。
徐々に亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも、山の良さや見所が解ってきました。亜理紗ちゃんが写真集を次のページへ次のページへとめくり、今度は白い風景になったの見て声に出します。
「冬になった」
山の写真集も終盤へ差し掛かり、木々も雪化粧に身を包みます。重たげに雪を持った枝がしなり、土の色も覆い隠しています。一面、誰も手の触れていない雪景色を知恵ちゃんは真剣に見つめています。
「雪の山はキレイ」
「じゃあ、山に行くなら冬がいい?」
「寒くてイヤそう……」
山の写真集を最後まで堪能し、それも亜理紗ちゃんは本棚へと戻します。そして、その隣にあった黒い本をふと手に取りました。
「アリサちゃん。なにそれ?」
「えっと……宇宙の本」
その39の4へ続く






