その39の1『世界の終わりの話』
「ちーちゃん。うちでアニメ見る?」
「うん」
学校の帰り道、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはアニメの話をしながら歩いていました。アニメというのは日曜日の朝に放送されていた女の子向けのもので、半年前に最終回を迎えて終わってしまった作品でした。その最終回を知恵ちゃんは見ていなかったので、録画したものを亜理紗ちゃんの家で見ようと相談しているのです。
「じゃあ、ランドセル置いたら亜理紗ちゃんの家に行く」
「うん」
一旦、知恵ちゃんは家に帰って部屋にランドセルを置き、お母さんに行き先を告げてから家を出ると、亜理紗ちゃんの家のインターホンを鳴らしました。玄関で亜理紗ちゃんのお母さんが出迎えてくれて、そのままリビングまで入れてもらいます。
「知恵ちゃん。鈴カステラでいい?」
「はい。ありがとうございます」
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが手を洗って来ると、いつものように鈴の形のカステラと牛乳をお母さんが用意してくれていました。亜理紗ちゃんはリモコンのボタンを押して、テレビ台の中の機械の電源を入れます。それはテレビに繋がっているレコーダーで、その中にはテレビ番組がたくさん録画されていて、好きなものを選んで見る事ができます。
「そんなに前の方にあるの?」
「半年も前のだから」
録画されている番組は日付で並んでいて、半年前の番組を探して亜理紗ちゃんは一覧をさかのぼっていきます。録画した番組一覧を15ページほど前に戻していったところで、目的のアニメのタイトルを見つけて亜理紗ちゃんは再生しました。
『あなたが、私の友達のビューテイーブラックを操っていたのね!許さない!』
『その通り!ビューテイーブラックはワガハイを倒さなければ目覚めないぞ!』
「あ……」
再生した途端、アニメは終盤から始まってしまい、もう見る必要がない程度には最後が解ってしまいました。急いで亜理紗ちゃんは巻き戻しボタンを押しますが、巻き戻されている途中の映像を見ていると更に作品の理解が深まります。
「……ちーちゃん。前に途中まで見たところから始まった」
「いいよ。最初から見よう」
せっかくなので最終回をちゃんと見ようと決め、知恵ちゃん背筋を伸ばして主題歌が流れるのを楽しみに待っています。でも、最終回だけは特別に主題歌すら流れません。意気消沈ながら、知恵ちゃんは鈴の形のカステラをつまようじに刺していただきました。
『どうして皆を傷つけるの……ビューテイーブラック!』
『そうよ!それがビューテイーブラックよ!』
操られている女の子と主人公が激突し、ついに現れた黒幕を倒して世界は救われます。特にひねりはありませんでしたが、最後の戦いで主題歌が流れた点は知恵ちゃんも評価できました。アニメが終わって、自動的に午後のニュース番組に映り替わります。天気予報にあわせて、日本地図が映し出されています。
「ねえ、ちーちゃん」
「なに?」
亜理紗ちゃんは天気予報の日本地図を見て、その左上を指さしながら知恵ちゃんに尋ねます。
「いっつも思ってたんだけど……日本の左上にある、あの細い島はなんなの?」
「……んん?」
日本地図は全て映すと縦に長いので、下の方まで一辺には表示できず、南にある島々が日本海を割って描かれています。
「……沖縄じゃないの?」
「……え?」
『週末、沖縄に台風が……』
知恵ちゃんが言ったのと同じタイミングで、天気予報士の人が島を指して沖縄と言いました。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも沖縄という漢字が読めなかったので、天気予報士の声を聞くまでは、お互いに少しだけ自信がなさそうでした。
「……ほんとだ!沖縄だ!」
「……逆に、なんだと思ってたの?」
「……まぼろし島」
「テレビに映っちゃってるのに?」
その39の2へ続く






