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番外編の1『ちーちゃんクエスト(海と空と大地のケモノたち)』

 (おきて。知恵ちゃん。おきて)

 「……んん?」


 クラスメイトの百合ちゃんの声に呼ばれ、どこかの暗い場所で知恵ちゃんは目をさましました。知恵ちゃんが体を起こして辺りを見ると、そこは床に水のはられている神殿のような場所の中で、部屋の中央に造られている台座の上に知恵ちゃんは眠っていました。


 「……百合ちゃん?」

 (私は今、魔王の城にいるの。1人ではムリそうなの。だから、知恵ちゃん……お願い。ここまで来て)

 「……夢か」


 百合ちゃんの姿は近くになく、声は頭の中へと直接、エコーをかけて届きます。これが夢だと解ったので、知恵ちゃんは現実に戻ろうとしますが、二度寝しようにも台座は寝心地がよくありません。仕方ないので知恵ちゃんは台座から降りて、部屋の真ん中に通っている水のない細い道を進みました。


 (外には獣たちがいるからね。街で何か買っておいてね)

 「お金ないけど……」

 (そこの宝箱を開けてちょうだい)


 百合ちゃんの的確なナビゲートを受けて、知恵ちゃんはドアの近くにあった宝箱を開けます。その中には石で作られたカードが1枚だけ入っていて、カードの表面には見慣れない文字が刻まれています。


 「百合ちゃん。これ、なに?」

 (電子マネーだよ~。チャージしてある分までなら、いくらでも買い物ができるの)

 「ふーん……」


 電子マネーという言葉をテレビで聞いた事はあっても、実際に知恵ちゃんは見た事がない為、そういうものかと納得してパジャマのポケットに入れました。お金の工面ができたところで、知恵ちゃんは神殿のドアをグッと押します。暗い神殿の中に、太陽の光が差し込んできました。


 「あ、勇者ちーちゃん様。目が覚めたの?」

 「アリサちゃん……なに、その格好」


 神殿から出た先は街の中で、神殿の前で待っていた亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの元へと走ってきました。亜理紗ちゃんの服装は魔法使いのような黒いドレスなのですが、手に持っているのは猫じゃらしです。亜理紗ちゃんに続いて、桜ちゃんと凛ちゃんもやってきました。


 「寝てたところ、ごめんね。知恵。百合姫が魔王城で苦戦してるらしいから、助けに行くよ」

 「チエきちが行くって聞いたから、しょうがなく私も行くわよ」

 「佐藤さん……私、行くなんて言ってないけど」

 「えっ!」


 桜ちゃんは軽いヨロイのようなものを身につけていますが、手にしているのは剣ではなく、先の方を玉結びにしているロープです。凛ちゃんの方は使用人の服を着ており、武器らしきものは何も持っておりません。そもそも行くつもりがない知恵ちゃんを冒険に誘う為、ひとまず桜ちゃんは買い物に行こうと提案します。


 「多分、助けに行かなくても百合なら1人でなんとかすると思うけど、とりあえず買い物に行ってみる?」

 「これ、使っていいの?」

 「百合がいいって言ってたし、いいんじゃないの?中に500円しか入ってないはずだけど」


 電子マネーの中にお金が大して入っていないことを知り、知恵ちゃんは500円で何が買えるのかと考え込みながらもお店に向かいました。お店の店員さんは知恵ちゃんのお母さんで、知恵ちゃんの姿を見ると注意するように言います。


 「ほら、知恵。これから出かけるんだから、ちゃんとした服を着ていきなさいよ」

 「ちゃんとした服って?」

 「これとか」


 お母さんは壁にかけてある白いネコの着ぐるみを指さし、それに着替えるよう知恵ちゃんに勧めます。他の服も見てみますが、お店には上下一体型の着ぐるみしか置いていません。それでもパジャマよりはいいと考え、知恵ちゃんは白ネコの着ぐるみに着替えてきます。


 「知恵。他にも何か必要?」

 「……あれ?お母さん。お金は?」

 「いいよ。知恵だし」

 「お店なんだから、はらわないとダメだと思うの」

 「そう?じゃあ、カード貸して」


 電子マネーから200円を引いて、お母さんはカードを知恵ちゃんに返します。思ったよりも服が安かったことに驚きつつも、お店に並んでいる他の商品も見物してみます。並んでいるものに武器などはなく、ほとんどは猫じゃらしなどのオモチャや、ドッグフードなどです。


 「お母さん……ここ、なんのお店なの?」

 「ケモノと戦う準備のお店だけど」


 よく解らないまま知恵ちゃんはドッグフードとヌイグルミを買い、チャージ金額が0円になったカードをしまいながらお店を出ました。装備が整ったところで、桜ちゃんは街の外に出る門を指さします。


 「それじゃあ、出発でいい?」

 「勇者ちーちゃん様。行く?」

 「危なくないなら行く」

 「危ないことは絶対ないと思う」


 桜ちゃんに危険ではないと聞き、知恵ちゃんも旅立ちに了承しました。みんなは門の下をくぐります。街の外には馬車が待っており、その前で桜ちゃんは凛ちゃんに告げました。


 「佐藤さんは戦う技がないから、馬車で待ってることになるけど……いい?」

 「えっ!」


 やや腑に落ちないといった様子でしたが、しぶしぶ凛ちゃんは馬車に乗り込んでいきました。知恵ちゃんも馬車の入り口に足をかけますが、こちらも桜ちゃんに呼び止められます。


 「馬車は後ろをついてくるから、私たちは歩きになっちゃうんだけど……いい?」

 「え……なんで」


                                 番外編の2へ続く

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