その37『あっという間の話』
「ちーちゃん。今日、なんかあった?」
「……特には」
夏のある日のことです。学校の帰り道、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに今日一日の感想を求めました。でも、亜理紗ちゃんに話すほどのことは特になくて、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに同じ質問を投げかけます。
「アリサちゃん。なんかあった?」
「……別になかった気がする」
どちらも今日は特別なことがなく、そうでなくても毎日のように会ってお話をしている為、それ以上は話題も浮かびません。照りつける日光の熱さだけが足を急がせ、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは気がつけば家の前に到着していました。
「ちーちゃん。このあと、遊ぶ?」
「……」
「ちーちゃん?どうしたの?」
「……あれ?こんなに家って近かったっけ?」
2人の家は学校の窓から見えるほどに近く、距離も長くないので歩いても時間はかかりません。それにしても、学校からの帰り道が異様に短く感じられ、知恵ちゃんは来た道を振り返りました。
天気は雲一つなく、熱気で空気がゆがんで見えます。それ以外は至って気になる部分もなく、知恵ちゃんは再び家の玄関へと向き直りました。帰り道に面白いものがあったのか考え、亜理紗ちゃんは道を戻ろうか知恵ちゃんに聞いています。
「戻ってみる?」
「……いいや。外は熱いから」
「だよね」
体が溶けてしまいそうな熱さなので、亜理紗ちゃんも家に帰ってジュースを飲みたい気持ちです。汗ばんで肌にひっついたシャツをパタパタさせたりしながら、2人は家の前で別れて玄関へと向かいました。でも、家に入る直前で亜理紗ちゃんが戻ってきて、知恵ちゃんを買い物に誘いました。
「ちーちゃん。このあと、そこの自動販売機にジュース買いに行かない?」
「家にジュースあると思うけど……」
「そうだけど、出かけたいの」
「……うん」
できれば、亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも、もう家からは出たくなくなるくらい外は気温を上げています。なのに、2人は一緒にジュースを買いに行く約束をして家へと入りました。近所の自動販売機にジュースを買いに行く。それだけの事で、あっという間に終わりそうだった2人の今日が、ちょっとした気持ちの分だけ、少し長くなりました。
その38へ続く






