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その36の5『ブラックホールの話』

 「服、汚れない?」

 「全然」


 なかなか知恵ちゃんが入ってこないので、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの部屋に戻ってきました。ブラックホールを通り抜ける感触はのれんをくぐる感覚に似ていて、服が汚れたりしないなどを含めて亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに教えています。


 「カーテンの下を通る感じだよ」

 「そうなんだ」


 問題なく戻って来られることを知り、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒にブラックホールの向こうへと入りました。ブラックホールの先には白い砂だらけとなっている遺跡のような部屋があり、くつした越しに砂の細かな柔らかさが伝わります。目で見て解らないほどの遅さで床の砂は流れていて、少しずつ次の部屋へと移動していきます。


 「何か落ちてる」

 

 砂に流されている物を発見し、亜理紗ちゃんが近くまで歩いていき拾い上げました。それは薄くて黄色いもので、砂から取り出しても不思議と砂の一つもついていません。その代わり、緑色の海苔がところどころについています。


 「ちーちゃん。これも、なくしもの?」

 「それはポテトチップス」


 じゅうたんに落としたポテトチップスがブラックホールに回収されており、ちょっと恥ずかしそうに知恵ちゃんは受け取りました。湿気は帯びていないものの、さすがに食べるのは気が引けたのか、知恵ちゃんはポテトチップスを指先につまんだまま亜理紗ちゃんについていきます。


 砂は次の部屋へと続いていて、隣の部屋は更に広い部屋でした。そちらの部屋も足場が全て砂で埋め尽くされており、砂は渦を描くようにして中央部分へと流れています。砂の上には散り散りに物が落ちていて、それも知恵ちゃんの部屋からなくなったものばかりです。


 落ちている物は鉛筆に始まり、1円玉、つめきり、メダル、歌詞カード、バッジ、どうぶつの形の置物、5円玉、体温計、ハンカチ、シャープペンについている消しゴムだけ等々です。ひろいきれないほどの物が、ゆっくりゆっくりと砂の上を流されていきます。そして、部屋の真ん中には白い光を放つ穴が待ち受けていて、流され続けたなくしものは最後に白い穴へと落とされます。


 「ここから、ちーちゃんの部屋に戻れる」

 「じゃあ、そのうち出てくるんだ」


 いつかは部屋に戻ってくることが解ったので、知恵ちゃんはなくなったものを今すぐにひろわなくてもいいと思い直して足元に戻します。知恵ちゃんの部屋へと戻る前に、亜理紗ちゃんは砂ばかりの部屋を見返して、落ちている物を1つだけひろいあげました。


 「ちーちゃんのテストのプリント」

 「見ないで……」

 「79点……おしい」

 「見ないで……」


 知恵ちゃんは微妙な点数のテストだけは回収して、亜理紗ちゃんと一緒に部屋へと戻りました。ホワイトホールから出た2人はベッドの下から抜け出し、天板の裏にブラックホールが開いているテーブルをひっくり返して元に戻します。


 「ちーちゃんのなくしものが、どこに行ったか解ってよかったね」

 「でも、学校でなくした消しゴムがなかった」


 学校でなくなった消しゴムが見つからなかったことだけを心残りにしつつも、他のなくし物がどこにあるのかが判明した為、知恵ちゃんもケーキを食べる手がが進みます。テーブルの下に寝そべってブラックホールの観察などをして遊んだあと、その日は亜理紗ちゃんにお礼を言ってお別れをしました。


 次の日、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に学校へ行きます。亜理紗ちゃんと別れて知恵ちゃんが教室へ入ると、なくした消しゴムを持って百合ちゃんが走ってきました。


 「あ、知恵ちゃん。これ」

 「あったんだ。ありがとう。どこにあったの?」

 「先生の机。多分、ひろった人が置いたんだと思うの」


 無事に消しゴムが見つかったので、それをはさみでキレイな四角に切って、知恵ちゃんは桜ちゃんにお返しとして差し出しました。それから知恵ちゃんは消しゴムのカバーをはずしたりしつつ、どこかに砂の粒がついてはいないものかと、授業中も消しゴムを観察したりなどしていました。


                              その37へ続く


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