その36の3『ブラックホールの話』
「ありがとうございました」
「知恵さん……」
シールを見つけてもらったお礼として、知恵ちゃんは大人がするような丁寧なお礼を亜理紗ちゃんにお返ししました。1つ手柄を立てた事で気分がよくなり、亜理紗ちゃんは再び知恵ちゃんのなくしものを探すべくベッドの下をのぞきこみます。すると、知恵ちゃんの部屋のドアをノックする音が聞こえ、お母さんの声がが耳に届きました。
「ケーキと牛乳、持ってきたから食べて」
「ありがとうございます」
お母さんがテーブルに山型のケーキと、牛乳の入ったコップを置いていってくれました。亜理紗ちゃんは部屋を出ていくお母さんに丁寧なお礼の言葉を返し、ありがたく手作りのパウンドケーキをいただきます。
「ちーちゃん。ケーキの中に何か入ってるけど」
「バナナのパウンドケーキって言ってた」
「バウンドケーキ?」
「バウンドはしない……」
はずむケーキではないと説明しながら、知恵ちゃんはケーキの一切れをすぐに食べ終わりました。亜理紗ちゃんが口の中にあるケーキを牛乳でくずしていると、ベッドの下で何かの転がる音がコロンと音がしました。
「ちーちゃん。ベッドの下で、なんか音しなかった?」
「虫?やだぁ……」
虫がいると嫌なので、ケーキを食べ終えた亜理紗ちゃんが代わりにベッドの下をのぞきます。亜理紗ちゃんがベッドの下へとのばした手には消しゴムが握られており、それを亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに手渡しました。でも、まだベッドの下に何かあるらしく、亜理紗ちゃんは目を細めながら知恵ちゃんに言います。
「穴がある」
「穴?ベッドに?」
「じゅうたんに」
亜理紗ちゃんの言う穴の正体が想像できず、恐る恐る知恵ちゃんもベッドの下をのぞきます。そこにはキラキラとした光の粒を吐き出している白い穴があり、穴の姿を見ても尚、それがなんなのか解らずに知恵ちゃんは首をかしげました。
「……なにこれ」
「ちーちゃん。その消しゴムって、なくしたやつ?」
「そうだけど」
その内、ベッドの下にある白い穴が強く輝き、その中からピョンと10円玉が飛び出してきました。知恵ちゃんは机から持ってきたメモを見て、そこに書いてある『消しゴム』と『10円』という文字にペンで線を引いて消しました。10円玉も知恵ちゃんがなくしたものだと解り、亜理紗ちゃんは白い穴の役割を知りました。
「あれは、ちーちゃんホワイトホールだ!」
「ホワイトホール!」
「じゃあ、どっかにブラックホールもある!」
物を吐き出しているホワイトホールがある事から推察して、亜理紗ちゃんは物を吸い込むブラックホールもあると考えました。試しに部屋の中を探してみます。机の周りにはないと解り、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの部屋の押し入れを開けていいかと聞きます。
「たぶん、他のところにはないから、ここにあると思うんだ。開けていい?」
「開けていいけど」
「じゃあ、開けるけど」
亜理紗ちゃんが頑張って押し入れを開きます。押し入れの上側には布団や毛布、下には段ボールなどが隙間なく入っていました。本当に隙間の1つも残っていない、その完璧な収納テクニックを見て、亜理紗ちゃんは感動したように言いました。
「優秀ブラックホールだ……」
その36の4へ続く






