その36の2『ブラックホールの話』
結局は凛ちゃんも一緒に消しゴムを探したのですが、どこを探しても知恵ちゃんの消しゴムは見つかりません。あまり帰りが遅くなるのもよくないと考え、今日のところは消しゴムを諦めて知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家へと帰ることにしました。下校中、亜理紗ちゃんが消しゴムの行方について予想を立てています。
「掃除時間に捨てられちゃったんじゃないの?」
「あんなに大きいのに、捨てるかな……」
知恵ちゃんの消しゴムは机とイスを全て移動しても見つからなかったものであり、他の生徒が勝手に持って帰ってしまう心配もないような無骨な消しゴムです。消しゴムが消えていった場所の目星すら立たず、2人は家へと到着してしまいます。
「この後、ちーちゃん家に行っていい?」
「なにするの?」
「消しゴムを探す」
「消しゴムは学校でなくしたけど……」
「前に、家でもなくしたって言ってたし。そっち」
知恵ちゃんは部屋で失くしたものが幾つもあるので、それを知恵ちゃんの部屋から探し出すのが今日の亜理紗ちゃんのミッションです。亜理紗ちゃんと別れた知恵ちゃんは自宅に入り、洗濯機の近くにお母さんの姿を見つけて、今から亜理紗ちゃんが遊びに来ると伝えます。
「ただいま。今から、亜理紗ちゃん来るんだけど」
「おかえり。さっき、パウンドケーキ焼いたから、あとで持って行ってあげる」
すぐに亜理紗ちゃんが家に来ると解っているので、ランドセルを持ったまま知恵ちゃんは玄関の近くで待っています。すぐにインターホンが鳴り、知恵ちゃんのお母さんが亜理紗ちゃんを家に招き入れます。2人は手洗いなどを済ませてから、2階にある知恵ちゃんの部屋へと行きました。
「ちーちゃんの消しゴム、どんななの?」
「大きくて白いやつ」
「そればっかり持ってるんだ……」
知恵ちゃんの文房具選びの好みが理解できたところで、それが落ちていそうな場所を亜理紗ちゃんは立ったまま、ながめ始めます。知恵ちゃんの部屋は片付け自体はされており、そこまで見通しは悪くありません。まず、亜理紗ちゃんは手始めに勉強机の近くへと視線を向けました。
「消しゴムは机で使うと思うから、このあたりでしょ?」
「たまにベッドでも使う」
「なんで……」
半信半疑で亜理紗ちゃんがベッドの下をのぞきこんでみます。ベッド下には何年も前に購入した雑誌が積まれていて、それを指でグッと押して寄せてみます。雑誌の後ろに何かを見つけ、亜理紗ちゃんは指でつまみ上げました。
「……ちーちゃん。なんか、シール落ちてるんだけど」
「シール?」
亜理紗ちゃんがベッドの下から取り出したものは、小さな犬のシールがたくさん貼られている台紙で、何枚かは使われているようで台紙に空きがあります。
「ウメ助シールだ」
「ウメ助シール?」
「結構、前になくなったやつだ」
知恵ちゃんはシールをもらって机の引き出しに入れつつ、机の本棚に差し込んであるメモ帳を取りだしました。それには細かな文字と数字が並んでいます。その中にある『ウメ助シール』という文字と、330円という数に2重線を引いて消します。
「なにそれ?」
「なくしものメモ」
「何ページもある……しかも細かい」
なくしものメモが文字も満載に4ページほどもあり、それぞれ品物名の横には買った値段まで書いてあるのを見て、亜理紗ちゃんは何秒か絶句しました。
その36の3へ続く






