その35の4『ホットケーキの話』
知恵ちゃんが意外とワガママなことが発覚した横で、亜理紗ちゃんはホットケーキへ乗せたハチミツをフォークで薄くのばしています。そして、半円のホットケーキを折りたたもうとフォークで持ち上げた際、何かに気づいて亜理紗ちゃんはホットケーキの裏をのぞきこみました。
「ちーちゃん。裏に何か隠れているぞ」
「なにが?」
フォークをさしてホットケーキを持ち上げ、その裏側を知恵ちゃんも見せてもらいます。表のキレイな茶色とは違い、裏は焼き目がばらついていて、白い部分と焼けた部分がまばらとなっていました。それを見つめ、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの疑問に答えました。
「裏はキリンの模様になってる」
「ちょっと似てる」
「少し油を入れすぎちゃった。次は大丈夫」
そう伝えながら、お母さんは焼き上がったホットケーキを持ってきて、また半分に切って知恵ちゃんと亜理紗ちゃんのお皿の開いているところへと置いてくれます。あつあつのホットケーキの湯気を吸いこみつつ、亜理紗ちゃんは新しいホットケーキの裏も怪しんでいます。
「また何か隠れてるかもしれない……」
ジャムやハチミツをつける前に、亜理紗ちゃんは温かいホットケーキをひっくり返しました。今度は所々に穴は開いていますが、キレイな薄茶色に焼き上がっています。
「今度は何もいない」
焼き目の中に動物を見つけられず、残念そうに亜理紗ちゃんはめくったホットケーキを戻します。知恵ちゃんはホットケーキにマーマレードをぬっており、亜理紗ちゃんも温かいホットケーキに同じくマーマレードをつけます。普通のジャムと違って、中にオレンジの皮が入っているのを亜理紗ちゃんは発見しました。
「ちーちゃん。皮が入ってるジャムだ」
「そういうジャムなの」
「うちの目玉焼きにも、たまにカラが入ってる」
「それは、そういう目玉焼きじゃないと思うの」
お腹が空いている2人なので、すぐにホットケーキの半分は食べ終わってしまいます。マーマレードに入っているオレンジの皮が少し苦みを含んでいて、それを噛みしめるようにして亜理紗ちゃんは口をとがらせていました。
「ちーちゃん。あと半分は、何で食べるの?」
「マーマレード」
知恵ちゃんは気に入ったものが見つかると、そればかりになってしまう傾向にあります。色々と悩んでいたのがウソのように、もう半分のホットケーキにもマーマレードをぬっていきます。知恵ちゃんのお母さんは紅茶をかき混ぜるのに使うような、小さなスプーンをたくさんテーブルに置いてくれます。
「スプーン洗うのなんて大変じゃないんだから、好きに使いなさい」
「じゃあ、次は別のを塗って食べる」
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが食べ終わる頃には、あと2枚のホットケーキも焼き上がっていました。今度は1人1枚ずつもらい、最後のホットケーキに何を塗るか考え始めます。
「……」
また恐る恐る、亜理紗ちゃんがホットケーキをめくります。でも、やっぱり動物は隠れてはいないようです。そんな薄茶色に焼けたキレイなホットケーキの裏を見ている内に何かひらめいたらしく、亜理紗ちゃんはホットケーキをフォークで裏返しにしました。そして、嬉しそうにトッピングを選びます。
「何かいたの?」
「まだ教えない」
亜理紗ちゃんはスプーンを1つ借りて、チョコクリームをホットケーキに塗っていきます。一方、知恵ちゃんは最後のホットケーキを何味にするのか、まだ決めかねているようです。
自分用のホットケーキを焼き終わったお母さんが、それをお皿に乗せてテーブルへとやってきました。亜理紗ちゃんがホットケーキへ丁寧に色をつけているのを見て、知恵ちゃんのお母さんは絵を描いているようだと例えます。
「アリサちゃんのホットケーキ、画用紙みたいだね」
「はい」
「私もチョコにしようかな……」
ホットケーキにチョコクリームで絵を描いている亜理紗ちゃんを見つめながら、知恵ちゃんも同じものを塗ろうかと悩んでいます。塗り終わったチョコクリームを知恵ちゃんに手渡し、亜理紗ちゃんはチョコスプレーを手に取り取って言います。
「最後だから、味も豪華にするんだ」
「そうなの?」
「うん」
そんな亜理紗ちゃんの言葉を受けて、知恵ちゃんは良い事を思いついたとばかりに立ち上がりました。お母さんもホットケーキにハチミツをかけつつ、知恵ちゃんの行方を目で追っています。すると、知恵ちゃんはフルーツバスケットの中からバナナを取り出しました。
「お母さん。これ、もらっていい?」
「いいけど?どうするの?」
「はさむ」
ホットケーキを2枚までにされた為、知恵ちゃんは具を増やす作戦に出ました。しかし、バナナがホットケーキの枚数に入らないのは許されましたが、さすがに2本も入れるのはお母さんに止められました。
その35の5へ続く






