プロローグ 『騎士団長死す』
俺は、姫が指輪を忘れたのでとってきて欲しいと言うので祝宴会を一度抜けて王族の住まう屋敷へ来ていた。指輪ぐらいいいじゃないかと言ったが、わがまま姫は言うことを聞かなかった。本当なら使用人か誰かが取りに行くべきなのだろうがなんせ彼女は天下一のわがまま姫。少しでもはやく指輪をつけたいのだとか。そして、使用人達よりもはやく取りに行ける俺が取りに返されたのだった。
「指輪なんてあってもなくてもそんなに変わんないだろ。なんでせっかくの祝宴会を抜け出してまで俺が取りに行かなきゃ行けないんだよ。全く、騎士団長の地位がきいて呆れるぜ。」
玄関まで来て扉を叩いて中の人に呼びかける。
「すいませーん、姫の使いでやって来た御巫慧翔と言うものです。決して怪しいものではありません。姫の指輪を取りに来ました。」
慧翔のだらしなく、とても王族の屋敷に似合わない態度で呼びかけた。しかし、いくら待っても中からは反応が全くない。それどころか、この大きな屋敷からは物音ひとつせずただただ静けさが支配していた。
「あれー、おかいしな。姫の話だと留守番の使用人に言えばすぐに指輪を貰えるはずなんだけどなぁ。まさか、主人がいないことをいい事にさぼって眠りこけてるんじゃないだろうな」
慧翔は、その後10分ぐらい待ち続けて、とうとう無断で入ることを決心した。
「誰も居ないんならしょうがないよな。失礼しまーす」
大きな扉を開き明かりのないくらい屋内へと入っていった。
「本当に誰もいないな。鍵もかかってなかったしこれじゃ泥棒にどうぞお好きに盗みをしてってくださいって言ってるようなもんだろ。仮にも王族なんだからもう少しそこのところしっかりしてもらはないと困るよな。」
少し進んだ時、慧翔は自分に対して発せられた複数の殺気に気がついた。
すると、次の瞬間、あらかじめ仕掛けられていたであろう数々の罠が発動した。降りかかる矢の雨、壁から姿をあらわす刃、そして呪力による火焔の海が周りを囲む。だが、騎士団長を務める彼に、この程度の罠は通用はずもなかった。
「いたずらにしては少しやりすぎじゃあないか?今すぐに降伏するのならこの場では命までは奪いはしない。死にたくなかったら俺の気が変わらないうちに出てくるんだな。」
襲いかかる矢と刃を所持していた剣でさばき、浄化の力で火焔を打ち消した。すると、タイミングを見計らって山に潜んでいた伏兵達が次々に風の如く慧翔への攻撃を開始した。だが、それは圧倒的な強さを誇る慧翔によって速やかに鎮圧された。だが、その中手強い二人がいた。お互いがお互いの隙をカバーする形で片方が攻撃しては、すぐさまもう片方が追撃するという洗練された連携技だった。剣と剣の打ち合いをしている最中窓から差し込む月明かりで一瞬敵の一人の姿が見えた。服装は、騎士団のものではない見たことのないものではあったものの、彼の手にしていた武器は、双剣は、見覚えのあるものだった。この双剣を使っている人間なんて慧翔には一人しか思いつかなかった。そして、その人物が思い違いであって欲しいと願いながら恐る恐る顔を確認した。だが、願い通りにはいかなかった。それは騎士団の一員、それも幹部である騎士団唯一の双剣の使い手 遊馬昴であった。慧翔は、込み上げてくる怒りと絶望と悲しみとを必死に押さえ込みながら問いかける。
「昴、一体どういうことだ?自分が何をしているのかわかっているのか⁉︎」
「ええ、もちろんわかってますよ、団長。正気を失っているわけでも洗脳されているわけでもありません。自分の意思であなたを殺そうとしています。」
「なぜこんなことをする。俺になにか恨みでもあるのか?」
「恨みですか…確かに恨みみたいな感情もありますがどちらかといえばそれは嫉妬に近い感情ですね。」
「できればお前を殺したくはない。今からでもまだ間に合う。こんな戦いもうやめよう。」
「こんな状況でも人の命を心配するなんて流石団長は優しいお方ですね。けど、残念ながらあなたはもう終わりです。これも全部あの方の命令なんで仕方ないんですよ。では、さよなら。」
昴が最も得意とする回転を生かした攻撃により、慧翔は少し後ずさりした。その一瞬の隙を見逃さまいと待ち続けていたもう一人の人間が戦いに終止符を打った。慧翔の首の近くに炎があがりそのまま一気に収束して慧翔の首を焼き切った。それは、痛みを感じる暇さえ与えない達人技だった。切り離された頭は虚しく冷たい床に落ちるとそれに続いて体も床に崩れ落ちた。
昴は、念には念を入れて倒れた慧翔の体をバラバラに切り裂くと、もう一人がさらに慧翔と屋敷に火を放った。
ーー 十二月三日
御巫 慧翔 ここに死す




