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純粋で誠実な俺だって妄想ぐらいいいじゃないか?  作者: 肉汁 旨杉
第一章「オンリーワン・ビギニング」
2/2

第2話「始動」

「いやぁ、やっぱ敵わねぇよなぁ」

初夏。熱い。気温は30を越え、セミの鳴き声が公園内に響いていた。

皆のお待ちかねの夏休み直前の休日。

学校近くの公園にあるバスケットボールコートで、俺と琉太は午前中から既に3時間はこの炎天下の中、ワンオンワン(1体1)。

琉太はバスケ部に所属している。レギュラーの座もこの前のランキング戦で勝ち取っている。

そんなバスケ経験者と何故俺が対峙しているのか。

俺は高校はバスケ部に所属していないものの、幼小中の8年間バスケをやっていたのだ。

中学は全中の常連である慶明中だった徹は、実際中学3年間において3回とも全中に出場している。

琉太とは中学が同じ地区で、大会では対戦確実と言ってもいい程毎回戦っていた。

中2の秋の選抜出場権をかけた地区大会では、予選トーナメント決勝で慶明中と琉太がいた大創中が戦い、延長戦まで持ち込まれたが、慶明中の5番だった俺の軌跡と言っていいブザービーターの3Pシュートで78対79という接戦で終わったのだ。

その試合の後琉太が俺に声を掛けてくれ、そのまま意気投合していき気づけば親友と言っていい程の中になっていた。

しかしその後部活中のトラブルで俺はバスケを続ける気力を失い、高校ではバスケ部には所属しなかった。

琉太はそれでも俺と一緒にプレイしたいのだろう。何回断っても琉太は根強くやめなかった。

そんなに琉太は根気強く俺に言ってくれているのに申し訳ない、と思った俺は、

とりあえず公園でするくらいなら.....という流れで今に至る。

バスケをやめて一年半近くなるが、対して俺の腕は落ちてはいなかった。

「俺は1年半のブランク持ちだぜ?お前なら俺なんてすぐぶっ倒せるって」

と口に出す。

「そう言われようにも現状がこれだと信憑性に欠けるけどな」

そういうと琉太は左のフェイントを掛けながら右へとボールを切る。

しかしそのくらいは徹には余裕で見える。

ー右。だがこれもフェイント。つまりー。

そう思った瞬間琉太はニヤっと微笑すると右のフェイントからすぐさま左へと切り替える。

ーこのボール、貰った。

琉太の手に収められているボールをカットしようとしたその刹那。

琉太は半ば無理矢理体を捻る。

ー左もフェイント?!

「ッ!」

徹を思い切り抜かした琉太はスリーポイントラインで動きを止めるとシュート態勢に入る。

琉太は遠距離から近距離まで対応できるオールラウンダー。この状況で外すわけがない。

腕を高く上げ、ボールを飛ばそうとする。ボールを飛ばすその一瞬の硬直を徹は逃さなかった。

徹も体を捻るとその場から跳ぶ。その脅威のジャンプ力が、宙へと放たれたボールへも届く。

ボールを捉えた徹の右手はそのまま反対方向へとボールを弾く。

自分の渾身のプレイおも止められた琉太は脅威の顔を浮かべ、その場に降り立つ。

ボールはバスケットコートを飛び越えグラウンドへと姿を消していった。

「おいおい、お前すごいを通り越してきめぇな....あっいやいい意味でな?」

「いやぁでも琉太すげえよ!まさか左もフェイントとはな......」

そう言うと褒められた事がよほど嬉しかったのか、清々しい顔でボールを取りに行った。

ベンチに腰をかけると、急激に疲れと、喉の渇きが襲ってくる。たまらず1リットルサイズのミネラルウォーターをラッパ飲みする。飲み終えると俺は再び立ち上がり、ボールを掴む。

この感覚。鮮明に覚えている。バスケを死ぬほど愛し、バスケだけが生きがいと感じ鬼畜ともいえたあの練習を楽しみながらこなしていたあの頃。

よくあの頃はあんなやってたなぁ、と昔の自分に感心する。

軽くゴールに向かってボールを投げる。ボールはリングに一切当たることもなく綺麗に入る。

いまだに落ちない腕が恐ろしいとも思える。

ーなぜ。なぜ忘れたくても忘れられないのだろう。なぜ、いつまでたってもバスケの腕が落ちないのだろう。

まるで、バスケが俺をバスケの世界に戻そうとして居るように。

「まったく。俺は何を考えているんだか.......」

自分に呆れるように言葉を漏らす。

瞳の奥に悲しみを潜めている彼は、寂しそうにその場に立ち尽くしていた。






その後琉太と昼食をとってから夕方まで琉太の家で遊んだ後、俺は帰宅途中に本屋によった。

寄った理由はわからない。なぜだか直感に身を任せ、本屋の奥へと歩いて行った。

最近新設された本屋で、それなりに大きい。

店員も愛想は良く、本屋に行くならここだろう。

発売仕立ての新刊コーナーの近くには人気作品が多く並べられている。

その更に奥には分類別に並べられており、化学分野系のコーナーには如何にもって感じなメガネをかけた真面目そうな男性が立ち尽くしている。

俺は、心理学の本を探している。もともと、人の心理には興味がある。

例えるなら、こうだろう。

自分で稼いだ金で買った物と他人の金で買った物とでは価値が違う、と言うが、実際の価値はどれもいっしょなのだ。

それは理屈ではないのだと思う。だからこそ、人の気持ちというに、心理という物に興味がある。

ふと前を見ると、心理学系コーナーにたどり着いていた。その中でも特に気になる一冊を取り、カウンターへと向かう。

店員に本を渡すと、なにか話していた。どうやら店員のバイト時間が終わったようで、違う店員にシフトするという。俺に「申し訳ありません。少々お待ちください。」と言うと、店員は中に入っていった。

違う店員が来るまでの間、俺は辺りを見回した。

違うカウンターも違う客ですべて埋まっており、後ろには長蛇の列ができていた。

本を買うためにこんなにも人は並ぶものなのか、と驚いていた。

そんなことを考える内に、奥から違う店員が姿を現す。

お待ちして大変申し訳ありません、と一言言うと、会計を始めた。

身長はあまり高くない。俺より低い。しかも、この声。どこかで聞いたのだ。最近。

どこだっけかな......と考える内に、店員が言葉を発した。

「532円のご会計です」

1000円札を出す。

「ポイントカードなどはお持ちですか?」

そう店員が顔を上げ俺の方を見る。それと同時に、2人に衝撃が走る。

ーこの女!この前裏山の丘で会ったアイツ!

ーこの人!裏山の綺麗な景色が見える丘で午後の授業サボろうとしていたあの人!

それと同時に、二人はまったく同じタイミングで叫ぶ。

「なんでお前がここにいる!?」

「なんで君がここにいる!?」

その2人の驚きの叫び声は店内中に響き、周りの客がなんだなんだ、とこちらに視線を向ける。

するとこの前のコイツが、店長と思しき人に話す。

「すみません店長。今日急用思い出してしまって、急ですみません!帰らせてもらえませんか!」

この状況を一刻も早く抜け出したいのか、無茶苦茶な申し出をする。

「まぁ本当は無理だが....もともと休みの人の代理で来てもらってるし、ええ、大丈夫ですよ」

店長が心優しい方でよかったな、と思いながら俺は店を出て行った。








「ちょ、ちょっとー!待ちなさいよー!」

俺が帰っていると後ろの方でさっきのアイツの声が俺を呼び止める。

「なんだよ、何か用か?」

と、静かに尋ねる。

「まっあなたとはちょっーーと話してみたかったの」

とは言いつつも、徹は内心ではコイツの行動の意味を理解していた。

ー学校の規則じゃあバイトは禁止。なのにコイツは平然とバイトするどころかオフの日までバイトを入れるという猛者だ。おまけにコイツは風紀委員。俺がこの事を本部に報告すればコイツは終わり、という事だ。

ここで俺の機嫌を取って口封じでもするつもりなのだろう。

ー簡単にお前の手に引っかかると思うなよ。

「あぁ、じゃあ、そこの公園でいいか?」



公園にたどり着き、ベンチ座ると早々俺に話しかけてくる。

「いやぁさぁ....その...」

焦り気味に俺に話しかける。

「お願いです!本部に私が「バイトしてる事言わないでください!」

ほらやっぱりな、と腹の中で笑いながら、わるふざけでもしてみる。

「しかしさすが。学校の規則を堂々と破るとは。しかもオフの日までバイト入れちゃって!」

と小馬鹿にすると、

「ち、違います。今日は同僚が体調不良で来れなくてそのために....」

そう。コイツは自白した。

「へぇ、今日以外はそうなんだな?」

さらに悪ふざけをしてみる。

「は、はい....。まったくその通りです。すみません.....。」

これ以上の言い訳が無駄と理解したのか、あっさりと自白した。

「まぁ、あれだ。本当は今すぐ本部に連絡してお前が規則破りで怒られんの見たい所だが、俺は紳士だからな。ってことで約束な」

そう言うと、不思議そうにこちらを見つける。

「約束...?」

「簡単だよ。俺はこの事を報告しないから、お前も俺の事には何も報告しない。いい案だろう?」

それを聞くと一瞬躊躇うように瞳が揺れるが、すぐに、

「わかった。それでいいよ。でも、絶対、絶対!言わないでよ」

そう言うと、彼女は、暗い夜道を歩いて帰ってしまった。

「また名前聞くの忘れた!アイツとかコイツだと呼びにくいんだよ!」

そう言いながら、徹もまた暗い夜道を歩いて行った。








ーまったくもう。なんなのよあの人。

自分のバイトの事を知り、それを逆手に取り自分の事を帳消しにしようとする彼の事を思い出すと、イライラしてくる。

とりあえずさっさと家に帰ってご飯食べて寝たい。

小走りで家へと向かっていた。いつも帰っている商店街の道もあるが、今日はもう早く帰りたいのでの駅前の道から帰ることにした。

駅の道の方が、商店街より早い。だが、商店街の道の方が明るいし、何より知り合いが多いので帰るのが楽しいのだ。

ふとそんな事を考えていて、前をよく見ていなかった。

違う通行人とぶつかってしまった。

「あっすみません」

詫びの一言を言うと、歩き出そうとした。

だがー。

突然その通行人に手を掴まれ、身動きの取れなかった。

「オィ、君可愛いねぇ。高校生だ。オーイお前らァ、見てみろよォ」

私の手を掴む男がそう言うと、後ろから十数人の男がゾロゾロと出てくる。

「オォ!こりゃぁ上玉じゃねーか!よく捕まえたなァ」

私を見て男たちはニヤニヤし始める。きっと、ナンパ集団か何かだろう。

「すみません。私早く帰らないと行けなくて、帰らせてもらえませんか」

震える声で男たちに尋ねる。だが男たちはそんな事聞いていないかの様にニヤけている。

「そんなつれねー事言わねぇでさァ、俺らの言う事聞きゃァ、いいことがあるからよォ」

男は腕を強く掴むと強引に引っ張り始めた。私をアジトに連れていくつもりだろう。

「いやっ離してっ!帰らせてっ!」

恐怖が限界を越え、悲鳴を上げる、だが聞こえてくる声は助けてくれる人の物ではなく男たちの物だけだった。

「帰らせてやるって。俺らが満足するまで君で遊んだらよォ!アヒャヒャヒャヒャ!」

いやだ。いやだ。誰か。助けて。

ついに抵抗していた足も持ち上げられ、男たちに運ばれる事しかできなくなってしまう。




ーーて。





ーーけて。




ーたすけて。



助けて!

声にならない悲鳴を口に出そうとしたその時。





「オイオイ、あんた達みたいなやつらがそんな美少女を弄ぶ権限は無いぜ」

聞いた事のある声。つい10分前程に聞いた事のある声。

彼だ。

それを聞いた男たちは動きを止め、声のする方を向く。

その声の主は、高校生だろうか。その少年は爽やかに少し微笑みながらこちらを見ていた。

「あァ?なんだテメェ?俺たちに殺されテェのかよォ?」

鬼の形相をしたリーダー格の男は、他の仲間に私を預けると少年に近づいていく。

「お前らはそこでガキが潰されんのを見学してろ」

そう言うと他の男たちは了解、と言うとその場で止まる。



「確かにィ、高校生なら授業でもう能力ぐらい使ってんだろォ?でもなぁ、俺ァ一応高校卒業はしてんだァ、お前みたいなガキとは比べ物にならねェよ。絶望と悲しみを味わいながら、地べたで這いつくばれェ!!」

そういうのと同時に、男の手から炎が生み出される。

火属性能力者。

炎を作り出し、自在にできる存在。

「さっさと燃え尽きて灰になれやガキィ!」

炎が一段大きくなり、目の前の少年に降りかかる。

少年は灰になるまで焼き尽くされてー。

その、刹那。

炎はみるみる内に消えていく。数秒もたてば跡形もなく消え去った。

「炎が消えた?水属性能力?いや、それならあんな消え方はしない.....お前は....一体ッ!?」

神速の如き速さで少年は男に接近する。少年は、右手に光り輝く謎の剣を持っている。

男が、斬られる瞬間、少年は口を開いた。

「俺は、この世界でたった一人しかいないとされる能力者。[特殊能力者]。俺の能力は」

男は、呆然としていた。

「俺が、考えた事を、現実に反映させる、って代物、だ。この剣は、俺が考えた光属性能力で作り出した、お前を斬る剣だ」

それと同時に、眩しい光が包む。

その光を、一本の光輝の剣が貫く。

数秒、静寂が訪れる。

その静寂を、少年が破る。

「今の俺は全属性吸収。そして吸収した攻撃は、発射できる」

それと同時に、少女の周りに水属性能力のバリアが張られる。

そして、吸収した火属性能力を、残りの男たちに発射する。

男たちは叫びながら向こうへと吹っ飛ぶ。一目散に逃げていく。

男たちに持たれていた少女は落下していく。それを駆け寄ってきた少年が両手で受け止める。

そうして、少女に尋ねる。

「お前の、名前は?」

どうして今なんだろう、思いつつ答える。

「華憐。桐咲華憐。」

「いやまぁ、お前じゃ呼びにくいから聞いただけだよ」



能力が行き交うこの世界。

一人の少年が引き起こす物語。



物語は、今、始まるー。


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