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村長のお仕事~ダンジョンはどうした~ (1)

今日も街まで手紙作る。


アードラの一件からなんだがんだで村長を押し付けられ、毎日村へ足を運んでは国からの指示書に目を通したり、村の食料出来高や人口推移なんかの報告書を作ったもの送ったりする毎日。


指示書に目を通すといっても文字が読めないからクロウに読んでもらうしかないし、手紙も作れないから書いてもらうしかない。


なんとも不便だ。アホらしくなってくる。


食料出来高なんかは村の奴等が計算してくれているのでそれ以上何もすることはないし、人口推移も同様。


国に納める食料指示書なんかもクロウ達三人組が用意しているし、問題も起きない。


小さな問題は起きるが、誰々が落石に巻き込まれたとか、村の囲いが壊れたとかその程度だ。退屈してしまうには十分だった。


なんだ、村長って飾りなのかな?


あれ? そういえば、アードラの一件以来、一度もダンジョンに帰ってない。


サンドレア、餓死してないかな? いや、大丈夫かそこまでバカじゃないか。


まだ4日ぐらいしか経ってないし、最悪大丈夫だろう。



「あーしんどい。クロウ? 俺も忙しいんだ。悪いけどちょっと村から出ていい?」


「は? まだいっぱいやることは残ってるぞ?」


「もう、訳の分からん村長就任の挨拶状は書き終わったし、国からの依頼への返信は俺を通す必要はないし、構わんだろ?」



役に立たない俺なんかいなくてもクロウで十分回るはずだ。


今回のアードラの一件も国に報告しないといけないらしかったので、レイヴンの死の原因として一緒に報告した。


そのあと、やはり大噴火は起きた。レイヴンの魔力との鳴動での噴火で報告。人口が減った事の報告書を大量に書かなくてはいけなかった。俺が書いた訳じゃ無かったけど。



「いやいや、バタバタしてたからしてなかったけど、メフィストの村長就任の宴とか、挨拶回りとかまだ残ってるんだぞ?」


「全部後回しで。本当にちょっと抜けないとヤバい」



ダンジョンが心配になってきた。球体とかカチ割られてないかな? もうあのダンジョンコアが無くなったら俺なんかただの一般人より弱い存在になるんですが。



「その用事とやらは、どのぐらいで戻れるんだ?」


「うーん、多分一日で戻る。一日ぐらい構わんだろ?」


「わかった。じゃあ、どこに行くかだけでも教えておいてくれ。連絡がつかないのでは話にならない」


「残念だが場所は教えれない。俺にも色々あるんだよ。それに連絡が取りたかったらマルチがいるだろ? マルチが伝導魔石で俺まで飛ばして連絡をつけてもらえばいいよ」



結局、マルチは俺の村へ残ることになった。特に向こうの村に見捨てられた恨みがあるとかそんなのではなく、怪我人を全て俺の村で引き取ったのと、俺への恩返しがしたかったらしい。


まだ、時々は向こうの村とこっちの村を行ったり来たりして道具を持ってきたり、向こうの村で病気になった人を治したりしているようだ。



「じゃ、後は任せたぞ」


「本当に帰ってこいよ! フラッとこのまま居なくなられそうで怖いんだが」



ああ、それもいいな。全部クロウに押し付けて逃げるか?


そういえば最近ニートしてないな。ニートしたい。ん? ニートってするものなのか?


帰ったら村の回りに生息している動物と魔物の生息状況の報告書を書かないといけないだのなんだの言ってるが、無視しよう。


仕事仕事で根を詰めすぎても良いことはない。



「メリマルドリルと溶岩フレアはいるか?」



呼ぶと直ぐに出てくるから便利だ。


何度もダンジョンとこの村は行き来しているが、いまだに方向がわからない。


森の中で皆どうやって真っ直ぐ歩いてるんだ? 今度誰かに教えてもらおう。この世界で生きていくには必須条件のひとつだろう。


俺の魔物達に道案内させてダンジョンまで向かう。


途中の魔物はメリマルドリルと溶岩フレアの敵ではなく、簡単に倒してしまう。


こりゃレベル上がるかな?


この当たりに生息している魔物はかなり弱い部類だとクロウ達に聞かされている。顔狼など魔物のレベル別で見ると下の下。


その下の下な魔物に最初殺されかけたからな。あれは怖かった。牙剥き出しだったしな。


重力のローブのおかげもあって疲れる事なくダンジョンまでたどり着いた。



「ただいま~主が帰ってきましたよっと」


「魔王様! ご無事でしたか!!」


“お帰り~”



何やら武装したサンドレアとコアが出迎えてくれた。


何故に武装?



「魔王様が捕らえられたのかと思い、今から村を滅ぼしに行くところでした!」


「ちょっと色々待って。まず魔王様はやめようか。またマ・オウと名乗らないといけなくなったら困る」


「何故魔王であることを隠すのですか? もっと公言して行けばいいのではないでしょうか」


「俺、ゴミのように弱いんだ。公言したら死んじゃうよ」



こんなに身近に理解してくれてない人がまだいたわ。



“うわ! レベルが上がってる! どしたの? これ”


「だろ? ここに来るまでにメリマルドリルと溶岩フレアで雑魚どもを蹴散らしたからね」


“いやいや、そんなもんじゃないよ。凄い上がってるよ? なんかしてきたの?”



え? 何レベル上がったんだ? ヤバいヨダレが出てきたぞ。



「そりゃもう沢山歩いたし、魔法も使ったよ!」


“間違いなくバカでしょ。そんなんでレベルが上がるわけがないでしょ? 本当、脳みそレベルがあったら間違いなく1だよ。いや、0だよ”


「なんだ0って! バカにするのも大概にしやがれ! 腹立つな!この世界の常識が無いんだから仕方ないだろ? まあ、俺のいた世界の常識も知らないけども」



なんかしたっけ? この間のギガント倒したようなイベントは無かったが。


アードラ1体すら倒せてないし、今回は戦闘すらしていない。レイヴンの近くをただただ歩いていただけだ。


とりあえずステータスがみたい。何レベル上がったんだろう。また2レベルだったら許さんぞ。



「俺のステータスを表示してくれ。期待してるからな」


“はいはーい。表示!”



―――――――――――――――――

なまえ:メフィスト・パンデモニウム

レベル:18

HP/最大HP:37/37

MP/最大MP:180/180

残金:103365円

力:1

防御:1

知:1

速さ:1

魔法耐性:15

魔法力:110

魔法回避:15

運:1

スキル一覧

適応力・レベルMAX

魔法一覧

重力・レベル1

武器一覧

なし

防具一覧

重力の下級ローブ・速さ補正5

動きやすいジャージ(上)・速さ補正1

動きやすいジャージ(下)・速さ補正1

きれいなパンツ

きれいな靴下

高性能運動靴・速さ補正1

道具一覧

丸まったレシート1枚

自宅の鍵1個

くたびれた財布1枚

携帯電話1個

伝導魔石1個

状態異常

なし

称号

アヴェンの村の村長

―――――――――――――――――



「強っ!! めちゃくちゃレベル上がっとるがな!! なにこれ!?」


“だからだよ。何したの? 本当に”


「分からん。魔物なんか全然倒しとらんしなぁ」



まあ、分からん事を考えても仕方がない。


18レベルか。いいね! 12レベルも上がったぞ!


ただ、HP37ってやばくね? なんで俺はいまだに37しかHP無いの?


MPと魔法力だけ相変わらず上がってる。力等の物理的ステータスと運のステータスは1だ。


多分一生上がらんのかね?


ん? ……ん!? んんんん!?



「なんじゃこの残金は!! え? 俺こんなに金を持っとるのか!!」



ローブを脱ぎ捨ててポケットというポケットから金を取り出して地面へ置く。


無い。そりゃそうだ。無い。もらった覚えもなければ拾った覚えもない。


何度数えても3365円しかない。



“うわ! 本当だ! 貧乏脱出だね。ボクは嬉しいよ”


「いやいや、持ってないしね。見てこれ。3365円。何度数えても3365円。10万円ってなに? レベルも18レベルだし、何が起こってるの? サンドレア? サンドレアが何か凄い魔物倒して10万円持ってきたの?」


「いえ、私はダンジョンから一歩も外に出ておりません!」


「それはそれで問題だぞ! お前飯食ってないだろうが!! おい球体、台とイス、それに洋食のフルコースを出してくれ」



台とイス×2で30円。飯が10円で計40円を球体に渡す。


台とイスから先に出せよ、と念を入れて指示を出しておいた。



「……ありがたき幸せ! 私へ配慮下さるなど恐れ多いです。私へ気を回す必要などございませんので、今後はどうか気にせず、人間どもを駆逐することをお考えください」


「いや、本当に死ぬまで食わないだろお前。そんな事で死なれたら、こっちの寝覚めが悪いわ!」



それに駆逐することは考えないしね。


これで俺のダンジョンにも台とイス(2個)ができた。


まだ風呂と台とイスしかないけど。


サンドレアが飯を食い始めた。……手で食ってる。


多分、誰も教えてくれなかったんだな。ナイフは使えないまでも、フォークやスプーンぐらい使えないとこれから先、生きていくには大変だろう。


後で教えてやらないとな。


しかし何故レベルが上がったのか。サンドレアも他の魔物達も何もしていないようだ。


こんなとき、初回限定ゲル君がいれば何かしら思い付いてくれただろうに、彼は死んでしまった。


うーん、ゲームだと自分で倒してレベルが上がる。


ん?



「わかった! パーティー扱いだ!」


“どしたの? 突然。怖いんだけど”


「いや、俺が出てた間にね、アードラの群れを倒したんだ。俺は1匹も倒してないけど、一緒にいた反則みたいな老人勇者が全部倒したんだよ。一緒にいたから俺も倒した事になったんだな多分。いやー、最後までお世話になりっぱなしだったなレイヴンには」


“なに勇者にお世話になってるんだよ魔王のくせに”



レイヴンというか、一度死んだ者が生き返らないか球体に聞いてみたが、瀕死のステータスは回復できるが、死亡のステータスを回復するには金以外に同じ種族の命を1000体用意しないと回復できないらしい。ちなみに金額は1000万。


いや、蘇生できるというのがすごいが、本当にほぼなんでもできるんだなコイツ。


人間1000人となると、俺の村が100人ほどだから村が10は生け贄にならないといけないのか。アホらしい。


あ、じゃあゲル君も生き返るのか!


ただ、1000万と1000体のゲルを用意しないといけないが。


その前にゲル君の死体がない。死体がないと蘇生はできないとのことだから、どちらにせよ無理だな。



“というか、なんで村長してるの? 何があったの”


「話せば長いよ。ただ世界への足がかりにはなるだろうからなったんだ。お前たちの目的にも近づいたと思うよ」



そろそろもう一度考えるべきか。


俺は何がしたいんだろ。


少しでもニートで引きこもってた現実に帰りたいと思ってるんだろうか。


どんどん戻りたいと思わなくなってきてる。


ゲームやパソコン、その他娯楽関係が1つもないけど、少なくとも人間関係というやつが出来上がって楽しく思ってる自分がいる。


もし今この世界が夢で、現実は机の角に頭をぶつけたままだったらどうだろう。絶対嫌だ。


今は魔物達だけじゃない。サンドレアにクロウ達3人組、オルトルや俺の村の村人までいる。


人間を滅ぼせば元の世界に戻れるらしい。が、俺に元の世界に戻りたかったり人間を滅ぼしたり、その気はない。


球体に言ったら怒られるだろうな。


ただ、生きるため。


そうだな。身近にいる奴等の生活を守るために俺はこの世界で活動していこう。


こんなブサイクで得体の知れない奴に仲良く接してくれる、元の世界では考えられない奴等の為に生きていこう。


この世界には脅威が沢山ある。


魔物もそうだし、人間達は戦争をしている。魔王(俺)もいるし、飢餓が世界を襲っている。


英雄大国とかいうふざけた国には飢餓が襲っているらしいし、絶対に戦争は終わらない。


終わらないどころか今は食料など問題なく、細々と生きてこれてるこの国、この島まで植民地のように扱おうとしてくるに決まっている。


今のうち、この資源に乏しい国に目が向いていないうちに守れるだけの戦力を蓄えなくてはいけない。



“あ、わかった。村長になったから10万円あるんだよ。その10万はメフィストが好きに使える村のお金だよ”


「……なるほど!」



じゃあ、村の人間達が稼いでレイヴンが貯めた金だな。好き放題使ってしまいたくなるが、できるだけ村のために使わなくては。



“じゃあそんなお金、好き放題使おうよ! ダンジョンでも完成させよう! 10万円もあればそこそこのダンジョンに仕上がるよ!”


「お前は俺の決意を目の前でへし折るなよ。ありゃ村の金だから村の為に使うの! わかった? できるだけだけど。最悪使うけど」


“最終的に使うんだったらさっさと使いなよ”



くっ! 悪魔の囁きか。


騙されないぞ! あの金を勝手に使おうものならクロウあたりにバレて殺されるだろう。


そう、多分殺されないし、バレないだろうけど、そう思い込むんだ!


バレて殺される。バレて殺される。バレて殺される。



「よし! 俺は村の金を私的に流用しない!」


“なに決意してるんだよ。そんな薄ーい決意なんか簡単に壊れるんだから。ボクにはわかる”


「うるさいうるさい! 黙れ! 使わないんだよ! ……多分」



ダメだ意思が弱い。元々意思の強いタイプではない。意思さえ強ければニートなんかやってなかっただろう。


いや、ある意味強かったとも言えるが、逃げることには意志が強いんだよねぇ。



「そうだ! 一度聞いてみたかった事があるんだ! 魔界の奴にもし会う機会があって、喋れる奴がいたら絶対聞きたかったんだけど、お前達ってなんで人間を滅ぼそうとしてるの? 例えばその辺りに飛んでる鳥とかはどうなの? やっぱり命あるもの全て憎い感じ?」


“……違うよ。そっか、メフィストは魔界から来たんじゃなかったっけ”


「声低くいな! 怖いわ! なに? 聞いたらダメだったの?」



何か知らんが聞いたらいけなかったっぽい。


声の低さが怖い。憎しみや殺意などがひしひしと伝わってくる。


空気がピリッとするってよく言うが、今がまさにそれだろう。



“そうだね。メフィストには知っててほしい。魔界最後の代表として”


「その肩書きはいらんわ。重力の魔法をその肩書きに使いたくなるほど重いわ!」


“人間から一方的に悪だと決めつけられているんだけど、ボクらから見たら違う。人間の方がイカれてるよ。メフィストならわかるんじゃない? 魔物と触れあってどう思った?”



そうだな。魔物か。ゲル君なんか最初喋った時は驚いてキモッて言っちゃったな。


ただ、一緒に生活していくうちにどんな奴かわかった。意志疎通もスムーズにできるし、何より俺なんかより頭がいい。人間への殺意というのか憎しみは凄いけど、それは人間も同じだ。魔物を見たら命を奪い合うしかないのだから。


人間も魔物への憎悪と殺意しかないのではないだろうか。


次に召喚したのがガダジゾバビビだったな。アイツはちょっと絡みづらい感じがしてチェンジしようとしたな。


行商人のお供に奴を連れていった時は、俺の周りを離れず付いてきてくれて、なんだかんだいいやつだった。特にギガント戦では俺の側まできて耳の聞こえない俺の指示に全て従ってくれてファインプレーだったな。アレがなければ今頃村長なんかやってなかったはずだ。


村長どころか今頃レイヴンより先にあの世にいるだろうな。



「うん、いいやつらだと思うよ。真面目に。そりゃ外にいる魔物はヤバいけど少なくとも俺の周りにいるやつらはすごく付き合いやすいし最高のメンバーだな」


“うん。外にいる魔物は主がいなくなったいわゆるバーサーカー状態だからね。話はできないし、生きとし生けるもの全てに攻撃するから”


「あ、そうなの? なんだかんだ話せばどうにかなるのかと思ったわ」



もし話せるんなら最初の頃にゲル君がどうにかしようとしてくれてるか。



“んで、どうしてボク達が人間との争いが起きているかだっけ? 人間どもは認めないだろうけど、ボク達魔界に住むものの常識として、先にボク達の魔界へ攻めてきたのは人間だ。不意討ちで、何の宣言もなくね。平和に暮らしていた魔界は大混乱だったよ”



知らなかった。いや、人間の好奇心や探求心などの欲求に加え、自分達以外の何者も認めない、自分達が頂点であると疑わない節があるのは事実だな。


俺の世界の話だから、この世界ではどうか知らないが、およそ似たようなものだろう。


そして、人間は何代にも渡って生と死を繰り返して行くうちに、当時の事実、記憶などが薄れていき正しい情報を持っている者は一人としていないとのことだ。


ただ、魔界の住人は人間と根本的に寿命が違う。


人間の生は数十年間だが、魔界の者は数百年、長いものになると数千年生きるのだとか。



“まだ500年ほど前の事だけど、魔界の生き物は攻めてきた当時の記憶を持っている者がほとんどで、その場で身を持って感じた恐怖であり憎しみであり、それは殺意でもあるんだ。突然現れた人間どもに、突然虐殺され、突然、ボク達の王の命は奪われた”



重いな。


話が重すぎて理解が追い付かなくなってきた。


魔界の王が殺されたのか。ソイツも魔王になるのかな。多分俺なんかとは違う、本物の、魔王の中の魔王というやつだろうな。



“ボク達は自分達の魔界で平和に暮らしてたんだよ? どの世界とも関わりを持たず、自分達で生活できる環境を整えて。なのに一方的に蹂躙してきたんだ。許せないよ。魔界の者で人間を憎んでない者は一人もいない”



それはなんというか、最悪だな人間。その話が本当ならクソムシもいいとこのゲス野郎だぞ。



“今でも覚えてるよ。魔界への入口が突然四方八方各方角に8個開いたあの日を。今でも夢に見る。不快で、二度と戻らない、ボク達の平穏。人間どもが一人もいなくなるまで……って攻め手はもうメフィストしかいないんだけどね”


「だから重いよ!! 俺は魔界と関係ないし、いや、話を聞いたらどうにかしてやりたいとは思うよ? でもどうにもならんだろ。俺には覚悟もなければ力もない。どうしてやることもできんぞ?」


“うーん、だよね。メフィストは最初からそういう人だから仕方ないよね”



ハハハと笑う球体に俺の心は痛んだ。


なんだかんだと助けてくれるが、本当は俺の事なんか諦めてるんじゃないか。どうせ力にならない奴だと、人間に肩入れした魔王崩れだと。


俺はどうしたらいいんだ。中途半端な立ち位置だ。魔王にもなれない、かといってこの世界の人間には到底なれない。


出来れば恩返ししてやりたい。こんなに笑ったり、外を歩いたり、話したり、友達のようなものができたりしたことはなかった。普通の人がやっている普通の事を俺にくれた。


ただ、恨みも何もない人間をバサバサ殺す事ができない。


……何故できないんだ! 殺してやればいいんだよ!


聞いただろ? クズなんだよ! 人間はクズなんだよ!!


涙が出てきた。やりたい思いとできない思いが交錯する。



「うん、できねぇわ。だって俺、どっちの良いことも悪いことも知ってるからな。ただ、クズは殺ってやる。俺の命に変えても。そんなクズがいたら迷いなく、持てる力も金も全部使って消してやる。それが魔物であれ人間であれ何であれ。今はそれで勘弁してくれ」



球体は笑っていた。


俺なんかの想像を絶するほどの怒りが内にはあるのだろうが、笑っていた。


心の中ですまんと謝っておこう。


そう。戦争にはどちらにも理があるんだよ。分かってはいたが、こう中間的な立場になるとどちらの味方にもなれない。


話を聞く限りでは人間がクズに思えるが、人間には人間の言い分があるのかもしれない。国のトップがどれだけ魔王との戦いの意味を把握しているかが問題だが。もしただただ攻撃されています、というだけしか分からなければ、人間は終わりだろう。


何故攻められているかも把握していないようでは終わっている。



「魔物たちの恨みはわかった。とりあえず俺は味方の味方だ。俺はこれから味方の味方をするんだ」


“何を訳のわからない事を言い出したんだい? 味方の味方?”


「そうだ。俺の味方でいる限り、俺もソイツの味方だ。敵になれば敵になる。人間も魔物も関係なくね」


“……うん、いいんじゃない? 改めて人間への恨みを、その事を知らない人に喋ったらなんか気持ちが軽くなった気がするよ”



なら良かった。


俺は俺で魔物達の恨みを少しでも和らげるように努力しよう。


そして人間たちにも魔物の良さを分かってもらうんだ。


何かしら共存への道が拓ける気がする。


だが、そうなると寿命の長い魔物達への説得が一番難しいだろうな。


人間達は代替わりするから、恨みや悲しみ、怒りなんかまで薄れていくから。


これは今後の、俺の最終目的にしよう。魔物と人間の共存。バーサーカーになった魔物達は駆除しないといけないんだろうけど。


少なくとも俺の作った魔物達はいいやつらだ。仲良くなれるはずだ。


もう一度ステータスを見直す。


18レベルか。強さとしてはどのぐらいだろうか。終わりが早いゲームならもう中盤以降に差し掛かるぐらいのレベルだが、この世界の平均が分からない。


確かサンドレアが23レベルでめちゃくちゃなステータスだったのは覚えてる。MPが480だったな。


マルチが12レベルでMPが155だったはずだ。


という事は意外に強いんじゃね? 物理的なステータスと知力と運は1だけど、レベル的には強いんじゃねぇの?



「なぁ、聞きたいことがあるんだけど、18レベルってかなり強いよね? どのぐらい強い?」


“またまた唐突だね、そうだなぁ、例えるなら砂から小石になった程度じゃない?”



小石? 何の話だ? 砂?



「ん? ごめん、ちょっと意味が分からないんだけど、何? 今、何に例えたの?」


“宇宙に散らばる星に例えたんだよ?”



あー、なるほど宇宙の星ね。ハイハイって、



「は!? 宇宙に散らばる星って……は!? 星に例えてんのになんで砂とか小石が出てくるの? バカなんでしょ?」


“その程度だよ18レベルなんか。……そうだな。じゃあこの世界を恐怖に陥れたメフィスト・デス・カタストロフは最期を迎えた時、何レベルだと思う?”


「その程度ってお前人の事をよくも……まあいい。俺とは違うメフィストか。そうだな。こんな辺境の地にまで魔物を作ってるんだ。80レベルぐらいか? そして倒した勇者はレベル99だな」



ガッカリ感が伝わってくる顔で俺を見ている。


やめろ! 俺をそんな顔で見つめるのはやめるんだ! 精神がもたない!



“はぁ、次元が違うんだよ。あの優秀だった魔王は3599レベルだったよ”


「ソイツもお前も頭おかしいだろ。平然と言うこっちゃないだろそんなこと。今日エイプリルフールですか?」


“エイプリ? そんなものは知らないけど事実だよ。ちなみに倒した勇者軍団で一番レベルが高かったのは4008レベルだった。その他にも3000クラスが10人ほどその下には2000クラスがゴロゴロいたんだ”


「元の世界に帰っていいですか。もう俺には無理です」



死ぬ死ぬ。何だそりゃ。普通、レベルって100までじゃないの? なに限界突破しちゃってんのその人達。頭飛んでるだろ。ネジの一本二本じゃないぞ。百本ぐらいネジが外れてるんじゃないか?


せめて……せめて下の下ぐらいのステータスだよ、とか、例の魔王の足元ぐらいには来たんじゃない? とか、それぐらいは行ってて欲しかった。


何?4000レベル? 病気かバグだろ、そんな奴いたら。18レベルの俺なんか多分ソイツの呼吸した呼気に当たっただけで死ぬぞ!



“帰りたいんなら滅ぼさなきゃね!”


「無理だ4000レベル倒せないよ。死んだ。俺、死んだわ」



退く事は許されず進めば死あるのみ。


そうだ、立ち止まろう。永遠とこの地から出ないんだ~。



「うふふ~」


“現実逃避気持ち悪いよ”



はっ! お花畑が見えた! 危うくどこかに精神が行くところだったわ。


わかった。とりあえず化け物と戦う可能性があるということだな。仲間になって……くれるわけがないな。奴らは戦闘狂だ。レベルからみて明らかだろう。戦いを求めてる。



「今のうちに知っておいて良かった。そんな化け物が軍隊となって襲ってくるのか。こりゃ戦いがいがあるな!」


“おお! いいね、やる気出てきた?”


「全然! これは嫌味を言ったんだよ!」



やる気なんか出るか! 逃走したくて仕方がないわ!



「魔王さ……メフィスト様。私のために食事をありがとうございました。見たことも食べたこともない不思議でものすごく美味しい食料でした。しかし、よろしかったのですか? あれほどの量と味。さぞかし値が張るものだと思い、恐縮なのですが」


「あ、終わった?」



台を見ると、全て綺麗に食べている。


フルコースって男の俺でも空腹で仕方がない時に食えるか食えないかのギリギリの量なのに、余程お腹が空いていたのだろう。



「いや、食料の心配はしなくていい。腹が減ったら言ってくれ、いくらでも用意できる」



俺も一緒に食おうと思ってイスを二つも出したのに、球体との話で時間が思ったより過ぎていた。



「サンドレア。俺からサンドレアに指示する事は今後あるかもしれないが、今はない。ということは自由だ。指示がない間はダンジョンを離れてもいいし、飯を食いに行ってもいい。それに、例え魔王の指示だとしても餓死するまでダンジョンにいるのはおかしいからな。死にそうな時は指示は無視してくれ。命を大切に、だ。わかったか?」



魔王への忠誠心が強すぎるのも厄介だな。俺が指示をしないと死ぬのか? 餓死で? ありえんだろ。



「かしこまりました。メフィスト様、聞くつもりは無かったのですが、人間どもを駆逐するため人間の村の村長になられたとか。メフィスト様の村以外に妨害工作を行ってきま――」


「待って!? 色々とちょっと待って。人間どもは駆逐しないし、人間に攻撃も必要ないから。俺の敵は人間じゃない。俺の敵は、味方以外の者達だ。判断は俺がするから勝手に攻撃しないでくれよ、頼むから、そんなことしてたらどんどん敵が増えるからね?」



怖い怖い。なに言い出しちゃったの?


そういえばこの子、レイヴンを誘き寄せて、村を襲撃した張本人だし、マルチを殺しかけたんだったわ。自由にしたらなにするかわかったもんじゃない。



「なるほど、メフィスト様は仲間が必要ということですね? 分かりました、私が捕獲して参ります」



おお、あてがあるのか。これは仲間を増やすのに大きく前進しそうだ。強くなくていいから、数を増やしたいな。


しかし、捕獲ってなんだろう。言葉を知らないだけかな?



「うん、仲間は必要なんだけど、なんか違うね。表現がおかしいよ? 仲間だよね? 捕獲? あ、魔物か! そうかそうか、魔物使いだもんね、そうだよね!」



魔物が増えるのでもありがたい。貴重な戦力だし、何よりお金を使わずして仲間になってくれるのがいい!



「いえ、人間どもを暴力でねじ伏せ、畏怖で屈服させてから魔王様の元へ連れていき地べたへ這いずらせて忠誠を誓わせます」


「あるぇえ? 違うなぁ! 違う違う、全然違うよ? なんでかな? なんでこんなに気持ちに差があるんだろう? 仲間……だよ? 仲間じゃないよねそれ。奴隷みたいな感じになってるよ?」



全然違いましたー! ええ? 俺の認識がおかしいのかな? 仲間ってそんな感じでなるの? 仲良くないの?



「すみません、至らず……私には少し難しいです」


「うん、そうだね。これはゆっくり時間をかけて説明したほうがよさそうだね。大丈夫、仲間は時間をかけて少しずつ増やす予定だし、焦ってないから。少しずつ進んでいこ?」



これはダメだ。ゆっくり気持ちの共有していこうか。怖いなぁ。なにかとんでもない事をしそうで怖い。


この連合国を戦争に巻き込んだり、その発端を作ったり……やめよう。考えただけで吐きそうになった。


少しずつ人間への思いを和らげてあげないと。



“そうだ、ダンジョンのレベルも上がったよ!”


「そうか、興味ないよ」


“ひど! なんでそんなこと言うんだよ!”


「なんでって作成できないからだよ! 金がないから! バカにしてんのか! 3325円しかないんだぞ ! どうするんだ? 部屋ぐらいしか作れないぞ? 20部屋ぐらい作ってやろうか! ゲルを500体ぐらい召喚して全部に配置するか? 一瞬で攻略されるぞ?」


“10万円使っちゃえ。使え! 使え!”



使わねぇよ!


まったく、何なんだコイツは。


大体、ダンジョンって何かよく分からないポイントとかがあって、それを消費したりするもんじゃないの? なんで金が必要なんだよ。この世界金の使い方おかしいだろ絶対。


今まで適応力レベルMaxのせいで気付かなかったわ。大体このスキル自体も怪しいもんだ。気付かれたくない事実を隠すために、呪いのように誰かが付けたんじゃないか?



“まあ、そう言わずに聞いてよ。ダンジョンレベルが6にあがったよ”


「あ、ちょっと待って。俺、風呂に入りながら聞くから、その方がお前も色々しゃべりやすいだろ?」



衝立の向こうで服を脱ぎ去り、沸かしていた風呂に入る。



“もういい?”


「ハイハイ、どうぞ~」


「お背中を流します」


「どわぁあ!! 何だお前! 何勝手に音もたてずに入ってきてんの!?」



声のした後ろへ向くと、サンドレアが今まさに服を脱ごうとしている。


いや、色々まずい。全体的にまずいなこれは。



「……っ! 大変申し訳ありません! 入室の許可もいただかず、ご無礼を! 多大なるご迷惑をおかけしてしまい、私はもう生きてはいけません!」



大きな声を出したので、俺が怒ったとでも思ったのか地面に頭をつけながらひれ伏すサンドレア。


それほどの事ではないから若干ばつが悪いな。



「死ぬな死ぬな。無かった事にするから、速やかに退出願おう」



ああ、びっくりした。まだ心臓がドキドキいってる。口から飛び出しそうだ。


リラックスしようと思ったら思わぬところで逆に緊張してしまったではないか。



「メフィスト様、入ってもよろしいですか?」


「なんで? ダメダメ。なに? なんで入ってくるの?」


「入室の許可をいただかずに勝手に入ったため、ご気分を悪くされたのかと」


「違う。許可はいらないけど……ん? いややっぱりいるな。入るんなら許可はいるけど、さっきのは突然いたことに驚いただけだ。俺は風呂に入る時は1人でゆっくりしたいんだよ。だから気分が悪くなったりはしてないから、まったく気にする必要はない」



そういえば、最初に風呂に入った時に球体が丁度人型になれるとかで、背中を流しやがれって思ったな。


しかし、風呂に入って来られたら、それはそれでドキッとするな。やっぱり背中なんか自分で洗った方がリラックスできる。


今度、風呂専用の部屋を作って鍵付きの扉を付けよう。

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