探索~人と情報と変な鉱石~
「で、マルチは何がしたいんだ?」
既に何もしない状態で魔法陣の上に15分以上いる。
もう一回どっかに転送できてしまう時間だぞ? 全くもって無駄な時間だ。
「僕はですね、今回この島で多く採れるという魔鉱石を取りに来ました! 協定を結んでいるといっても国から国へ移動することなんて、普通の人には難しいですから取りにこれなかったんですよねぇ」
「あ、多く採れるの? じゃあすぐだな。さ、行こう」
「多く採れるといっても火の連合国の中ではという意味ですからね?」
「魔王様、この者の言っている鉱石はかなり大変な探し物になるかと思います」
「ん? サンドレアも知ってるのか?」
「いえ、魔鉱石という物そのものが連合国では発掘されることがほとんどありません。それを特定の魔鉱石に絞るとなると……いくら魔王様でも骨が折れるかと」
俺でもというか俺だから骨が折れるんだが、そんな面倒な物を探しにいかんとならんのか。
「面倒だな。やめるか」
「ダメー! ダメですよー! 見つけるまで皆さんで頑張りましょう!」
「見つけるまでかどうかはわからんが、とりあえず仕方がないので探そうか。やることも思い付かんし」
「で? 貴様は見つけてもらったらいくらで魔鉱石を魔王様から買い取るのだ?」
「え? お金をとるんですか!?」
ナイス! サンドレア! 世の中金なのだよ!
と、思ったけどやめた。
フードに隠れて顔はよく見えないが、可哀想になってきた。
「いやいや、いいよ。見つけたらやるよ。ただ、そんなに時間をかけて探したりはしないからな?」
「え? いいんですか? ……メフィストさんが無料で何かをしてくれるなんて、なんか怖いんですけど」
「お前にだけは言われたくないがな」
敵情視察じゃないけど、この国のバランスがまだわからないからな。情報収集がてら付き合いますか。
「で、場所とか、売り場とかわかってるの? さっさと行こうぜ」
「知りません!」
「帰れ! わからんのに見つけれるか!」
「くっ……貴様は魔王様の手をそこまで煩わせるのか! まあいい。私が知っている。魔王様、私が発掘場所までご案内いたします」
「あ、サンドレアが知ってたか。良かった。結局集落まで行って聞かないといけなくなるかと思ったわ」
いや、本当に良かった。
ただ、発掘か……面倒だな。
「発掘か……販売してたりしないの?」
「はい。火の連合国では魔鉱石が発掘されても販売されることはありません。連合国でも一番大きな領土と人口を持つ国、烈火の国の街で競りが開かれ落札される流れになります」
オークションか! いいね! 一回行ってみたかったんだよなー! 楽しみが増えたな!
ただ、金持ちの集まりが競り落とすんだろうな、どうせ。
「じゃあ、料金的にも高額になるのか。そりゃダメだ」
そもそも魔鉱石ってなんだろうか?
少しだけメストニウムから聞いた気がするが、忘れた。また、メストニウムに聞くか。
メストニウムに聞くと、魔鉱石とはどうやら魔素と呼ばれる物が石材に定着したものらしい。
「魔素ってなんぞや」
“MPを消費して魔力を使うと出てくる霧みたいなのがあるでしょ? あれ”
ああ、あれか。
ただ、人間が一人で魔力を使っても石材に定着するほどの魔素を放出したりはしないらしい。
自然現象、噴火とか竜巻とか地震とか雷とか、そういうものや、大規模な戦争が起きた場所に見られるそうだ。
魔鉱石の上には魔結晶と呼ばれる物も存在するが、レア度は異常に高くなるようだ。
「わかった、じゃあ通常何に使うの?」
魔鉱石の種類によるらしく、通常は鎧や剣などの鉱石として使うことが多いが、回復できるものなら粉状にして食べることもできるらしい。石なんか食いたく無いが。
ということはマルチが欲しがっている鉱石は間違いなく回復系だな。
一応聞いておくか。どうせ見つからないし。
「マルチ。お前はなんの鉱石がいるんだ?」
「僕は、病気の回復できる鉱石を3年ほど前から探してます!」
「はぁ~そんなに前からねぇ。ま、見つからないとは思うけど探しますか」
「そんなこと言わないで、絶対に見つけるぞ! とか言ってくださいよ!」
「だって俺のじゃないし」
人の物を探すのに、そんなやる気は出んぞ俺は。
サンドレアの案内で石で出来ている大きな山の麓まで来れた。
山には人工的に掘ったであろう洞窟がある。
ここから鉱石等を産出しているのだろう。
「どうするの? 絶対に許可とかいる系の鉱山だよね? 国が管理してます感があるけども」
洞窟からトロッコのようなものが見えるし、外からでも中まで灯りが照らされているのが分かる。
ただ、人は見えない。
採掘している人も、門番のような人も誰もいない。
もしかしたら奥の方に行けば誰かいるかも知れないが。
「確かに、ここは許可が必要な鉱山になります。しかし、魔王様であれば許可など不用。この世の全ては魔王様の為にあるのですから」
「なに理論だそれは。まあ、誰もいないんだから構わんだろうけど。じゃあ入る?」
「行きましょう! 必ず見つけてやります!!」
「気合い十分だな。中で何が起こってるか分からないから中に入ったら大きな声は出すなよ?」
さて、何が待ち受けているやら。まともな人間が居れば情報収集できるからありがたいが、多分いないだろうな。
戦闘の準備だけはしっかりしていかないといけない。
「魔物がいるかもしれないし、門番もいないところをみると少なくとも敵がここを襲った可能性がある。各自で気を付けるんだぞ?」
「絶対に魔鉱石を見つけるんです。こんな機会は滅多に来ないんだから……絶対に見つける……見つける……見つける……」
怖い怖い。
マルチは闇が深いぞ?
「洞窟……ウフフ……魔王様にぴったり……ここにお気に入りの血を使って……ウフフ……」
こっちも怖ぇ……。
なんでもいいけど、戦闘だけはしっかりしてね? 俺が死ぬから。
洞窟の中はひんやりしていて気持ちがいい反面、コウモリとかムカデとかが出てきそうで気持ちが悪い。
そういえばダンジョンに虫が出てきたためしがないな。ダンジョン効力というやつなのだろうか。
一番気になるのは、洞窟に入ってから一定間隔で洞窟が振動している事だ。
「うわっ! ぺっぺっ! 口の中に砂が入りやがった!」
いくら石でできた山でも振動すれば砂状になって天井からばらばら落ちてくる。
瞬きをすれば目に入る、喋れば口に入る、最悪だ。
「しかし、なんなのでしょう、この振動は」
「わからんな。ぺっぺっ! ただ、嫌な予感だけはする」
「見つける……見つける……」
「お前はまだ言うとるのか。いいかげん怖すぎだろ」
10分ぐらいは歩いて中を散策しているが、別れ道等もなく、一本道だ。一本道なのはいいが、魔物も敵も何も出てこない。どうなってるんだ?
「振動以外はやけに静かだな」
「ええ。ある程度は活気に溢れた場所だと聞いていたのですが……」
“だね。人の気配は無いよ”
「あ、メストニウムがいた。聞けばよかったんだ。そうか、この山の中に人間いないのか」
“そうだね。一番近くにいる人間でも5㎞ほど離れてるね”
「ふーん。なら人間の敵が出てくる可能性は低いな。メストニウムは口の中に砂が入ったりしないの?」
“ボクは呼吸してないからね。入らないよー”
ああ、そういえばコアだったなコイツ。
奥に進むにつれ、振動と共に音まで聞こえてきた。
何か、大きな硬い物が壁にぶつかっているような、そんな音だ。
というか、ぶつかってるんだろうな。間違いなく。
「何がぶつかってると思う?」
「恐らくは掘削している事には間違いないですが、何かといわれると……」
「僕は誰かが壁の中に閉じ込められてて壁を力任せに叩いてるんだと思いますよ?」
「なにその怖い想像。壁の中に閉じ込められるってどういう状況? 力任せに叩いて石山を揺らしてたら爺さんでも出来ない怪物だぞ?」
それにメストニウムが索敵しても人間はいないとのことなので、人間以外の生物になるし。
“まあ何にせよ行くしかないでしょ!”
「だな。っていうか、この辺りを横に掘っていったら鉱石が出てきたりしないんだろうか」
「出るかもしれませんが、魔鉱石は石山の中央付近からしか採掘されたことが無いそうです」
「じゃあだめだな。行くか。行きたくないけど 」
嫌な予感しかしないのでどんどんと重くなる足を前に進めて奥へと進んでいく。
ダイナマイトでも爆発させてるのではないかという音がするまでには近づいた。
……ダイナマイトが爆発する音なんか聞いたこと無いけど。
「……多分あの突き当たりの角を曲がると何かがいるな」
この音、耳がやられそうだ。
「メストニウム、一番安い耳栓一つ」
“50円”
金を払って耳栓をゲットした。
これで耳の心配をしなくてすむ。
“サンドレアがなにかいってるよ?”
メストニウムの声は直接頭に届くから問題ないが、他の皆の声が全く聞こえなくなってしまった。
だが、皆の声より耳が大事だ。
振動の間隔としては1~2分に1回ぐらいゴシャーン! となにかがぶつかっているのが分かる。
耳は完璧だ。行くか。
「んぐぇっ!!」
マントの裾を何者かに引っ張られて首が締まった。
誰だこの野郎!!
ってサンドレアか。
“だから何か言ってるって!”
ああ、忘れてた。
耳栓を外す。
「一瞬死にかけたけど、なに?」
「はっ! 申し訳ございません! 私どもにも耳を防ぐ物をお貸しいただけたらと……そのあたりの石で代用しようかと試みましたが上手くいかず……」
「いやいや、石では絶対に無理だろ。メストニウム耳栓2個だして」
“ほい”
何か自分以外が超人に思えて思いやりなんか一つも持ってなかったな。サンドレアもマルチもただの人間だから俺がうるさく感じたらうるさく感じるわな。
音による連係は取れないから皆にそのつもりでいるように伝えて戦闘体制に入った。
といっても俺は武器を持ってるわけでも格闘技を習っていたわけでもないので、ただのへっぴり腰を晒すだけだが。
皆の顔を見て、曲がり角へ突撃する合図を待つ。
突撃する合図は次の振動だ。
振動の後、1~2分の間が空く。この間に突撃をかける。
……まだか。
メストニウムが人間の反応を確認できないということは向こうに居るのは魔物の可能性が高い。もしくは掘削機かなにかの機械。人間で装備や魔法によってメストニウムの索敵にひっかからない可能性もかなり少ないがある。
地面が立っていられないほど揺れた。
今だ!!
全速力で曲がり角まで走り、一気に躍り出る。
……何も無い。
曲がり角の先は約2~300mで行き止まりになっているのが見えた。
ただ、何もいない。
バカな。さっきまで聞こえていたのに。
いや! 目に頼るな! もしかしたら透明なのかもしれない!
ただ、透明な場合俺にはどうすることもできないという。
全員と顔を合わせて退却を指示する。
急いでさっきまで作戦会議をしていた場所まで戻ってきた。
耳栓を外した。
マルチとサンドレアも耳栓を外す。
「……壁以外の何かが見えた人挙手」
……だよね。
誰も手を上げない。
ヤバイな。透明なのか、瞬間的にどこかに消えたのか。もしかしたら仕掛けがあって近づかないとわからない幻術か、床に落とし穴か天井に穴が空いていて、地下か2階から音が聞こえてきているパターンか……。
まさかマルチが言ってた壁にめり込んでるわけではないはずだが。
ダメだ。あまりにも予想外すぎて思考がまとまらない。
「魔王様、少なくとも先程の我々の行動で向こう側にいた何者かは我々に気づいたはずです。敵であれ何であれ何かしらの反応を見せるかと思われます」
「ああ、そうか。そりゃそうだな」
「しかし、我々に防御の方法がありません……。甲虫岩を連れてきていれば別だったのですが……配慮が足りず申し訳ございません」
いや、こんな事態に遭遇するなんて誰が予想できただろうか。今回は情報を集めて人探しをするだけの予定だったはずだ。それなのにマルチとかいう変な奴のせいでこんなことに……!
「不本意ですが魔王様、今の我々では対処が困難に思われます。撤退なされるのも一つかと……」
「ダメだよー! せっかくここまできたのに帰るとか! まだ何の情報も手にいれてないじゃないですかぁ!」
「マルチ、正直ここでは何の情報も手に入らん事はここに入る前からわかっとる。撤退だ」
地面が揺れると共に、爆音が辺りを飲み込む。
……あれ? 何の反応もしてない?
「サンドレア、何の反応も無いようだな」
「……そのようです。もしかしたら自動で動く何かが振動を起こしているのかもしれませんね」
「撤退しちゃだめだよ! まだなにもしてないんだから!」
「お前は大きな声を出すのをやめろ」
もう一度だけ近づいてみるか。
「よし、もう一度挑戦しよう。マルチもそれでいいな? 何かヤバそうな雰囲気が少しでもあれば迷わず撤退だ。こちら側から見えない敵というのは非常に厄介だからな。わかったな?」
耳栓を装着してスタンバイに入る。
次の衝撃で突撃だ。