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外~そこに住む人々~

何とか球体と一緒に顔狼の牙をカッターだけで取り外す事に成功。


だが、10本しか取れず、残りはカッターの刃がダメになったのでとりあえずやめた。


「さ、買い取ってくれ」


“は?”


「ん?」



何か変な事を言っただろうか。


牙を奴の頭にねじ込もうとする。



“いやいや、無理無理。大きさ的に無理だし。入らないよね? 何でボクに売ろうとしてるのメフィスト。違うよ。売る相手は人間どもさ”


「へ?」



あまりの予想外の答えに気の抜けた声が出てしまった。


外へ出る通路を確認する。


日差しがこれでもかとダンジョン内まで降り注ぎ、爽やかで眩しい映像とさっきの顔狼の恐怖を俺へ突きつける。



「ダンジョンまで行商人的な?」


“来るわけないでしょ? 行くしかないよ。頑張って!”



怖いし面倒くさいし、金稼ぐの大変だな!



“行かないとお金は稼げないよ?”


「分かった分かった! 行けばいいんだろ、行けば。どこに人間がいるか分かってるんだろうな!」


“そんなの知らないよ”



ええー。手当たり次第に探すの? さっきの顔狼みたいなのが出てくるんでしょ? 最悪だわ。


だが、奴の言うとおり行かざるを得んだろう。


牙は大きく6個しかポケットに入らない。


4個は手に持つことにした。


原始的だな。袋すら無いとは。涙が出てくるぜ。


あの顔狼は偶然だったのか、魔物の気配はしない。



「魔王様! 我々もお供します!」



とのことでゲルレベル2が3体付いてきた。


今ダンジョンに入られたら困るので、とりあえず草や枝でカモフラージュしてみた。


どうしようか。全然当てがない。全くない。


ん? あれは……煙?


俺のダンジョンは森の中ではあるが、木の密度がそれほどなく、遠くを見渡せる場所がある。


そこから覗く、山の(ふもと)に細い煙を発見した。


あれだ! あれは人が生活している後に違いない。


あれを目標にして、魔物には絶対見つからないように行こう。



「よし。ゲルの諸君。出発だ!」


「はは!」



ある程度進んだ所で、ふと思った。


帰り道全然わからん。


ヤバい。どうする? 帰れなかったら結局死ぬぞ?


イベント目白押しだな!



「あー、つかぬことを聞くが、ゲル君。ダンジョンへは帰れるかね?」


「は! 当たり前です。バカにしないでください! そんなの出来ない奴はクズです。この世界で生きてはいけないでしょう!」



はい、俺はクズです。生きてはいけません。


とりあえずゲルがいれば帰られないという最悪の事態はさけられる。


俺の命は一つ。ゲルの命は3つ。ゲルが全滅しても俺は死ぬだろう。


彼らの命も気にしてあげなくては。


木の影や大きな岩の影を選びながら進む。



「魔王様。こっちは……ヤバいのがいますよ」



ゲルに言われて辺りに集中する。


特に何も感じない。


何がヤバいのか。この世界の魔物がヤバいというのだから、きっとヤバいのだろう。


俺は無鉄砲派じゃないんでね。HPに至っては4しかないし。



「うむ。ゲル君の案を採用しよう。じゃあ右だ。こっちへ行こう」



しかし、何がいたのか気になるのも人間。



「ゲル君。あっちには何がいたかわかるの?」


「ええ。魔法使いです。我々の天敵になります。火の魔法で一発ですよ。やはり我々魔物にも相性がありますから」



なるほど。HPのない俺の天敵は飛び道具を使う敵だな。物理、魔法問わず危険だ。一撃で死ぬ可能性が高い。


今後、物を飛ばして来そうな奴には気を付けよう。


あっちでもないこっちでもないと敵から逃げまくり、何とか一匹の魔物にも出会うことなく煙の発生していた場所までたどり着いた。


いや、本当に大変だった。なにせ辺りはもう日が沈み暗くなっている。


帰りの事を思うと吐き気がしてきた。



「ぜぇ……ぜぇ……このあたりか?」



焚き火をしたであろう跡だけが残っている。


少なくとも人はここにいたんだろうが、想像していた集落はどこにもない。


振り出しか。


やめて帰りたい。引きこもってゲームでもしていたい。異世界全然嬉しくないし楽しくない。チートなステータスなど微塵もない。


頭の中をぐるぐるとどうにもならない思考が回り続ける。



「何者だ貴様! このあたりの者じゃないな!」


「何者だ!」


「誰だコイツ! 名を名乗れ」



人間が3人森の中から突然音もなく出てきて、俺に槍を突き付ける。


もう嫌だ。死ぬ。これは死ぬ。


ゲル達は俺の指示を待っているのだろう。水溜まりのふりをして人間から離れた場所に陣取っている。


だが、ここで彼らをゲル達に襲わせると自分が死ぬ可能性があるし、交渉次第で集落まで俺を連れていってくれるかもしれない。



「ほ、ほら! この手を見ろ! 俺は行商人だ。ちょっとこの島に寄ったんだが道に迷ってね。困っていたところだ。そうだ君たち、村まで連れていってはくれないか?」


「なに!? それは顔狼の牙!」


「貴様! 我らが手負いにした獲物を横取りしたか!」


「何が行商人だ怪しいやつめ! 顔狼の牙しか持たない行商人など聞いたこともないわ! 村へ連れていき村長の判断を仰ごう」



えーっと、予想とは大分違うが、村へは連れていってもらえるようだ。何故か牙も全て没収されてしまった。


疲れた足に鞭打って彼らに付いていくしか無いだろう。


どこをどう通ったのか分からないがかなり歩いた。


既に日は沈みキレイな星が空に浮かび上がる。


こうしてみると自分の住んでいた世界と変わらないな。つい昨日まで元の世界にいたことなど信じられないほど昔に感じる。


ゲル達も気付かれないように付いてきてくれているんだろう。歩きながら時々水溜まりを何度か見た。



「村長! 村の外で怪しい奴を捕まえました。良ければ判断を仰ぎたいのですが」



辺りの家に比べると一際大きな藁の家の前で、3人の中でリーダーだろう男が跪き、家の中へ大声で喋りかける。


どうでもいいから休ませてほしい。



「ほっほっほっ。どれ、彼だけ中へ入れなさい。お前達は今日はもう寝なさい」


「しかし、それでは危険が――」


「彼だけ中へ」


「……は! ほら!早く中へ入れ! 村長に何かあれば貴様を生きたまま――」



なにやらクソグロテスクな事を言っているが、そんなこともどうでもよくなるほど疲れた。さっさと買い取って帰らせろ。


中は随分質素な作りで贅沢などは一切していないのが伺えた。


目の前にあぐらをかいた村長っぽい人がいる。



「ほっほっほっ、客人よ。今日はどのようなご用件で?」



どのようなもこのようなも、あんたらに強制連行されたんだがな!



「は、はぁ。顔狼の牙が手に入ったので売れない物かと……」


「ほう。して、牙はどこかの?」


「ああ、先程の男達が移動中に預かっておくとか言われて取られましたが……」



預かったのではなく略奪された感はあるがな!


魔王が村人Aに略奪されるほど弱かったら世話無いな。



「ほっほっほっ。それはいかんな。……クロウ! ニンバ! サンタ! 外におるのはわかっとる、中に入れ」


「はっ!」



整列して座り、頭を床へ付けている。


なるほど。それほどこの爺さんは権力を持っているのだろう。ま、ニートの俺には関係ないがな!



「客人の持ち物を返しなさい」


「しかし! この者は我らの獲物を横取り……」



リーダーだろう男が顔をあげて必死の形相で村長を見ている。



「ほう……。横取り? どのようにかの?」


「それは……」


「それにお前が最初に連れてきた時、なんと言った? 町の周りに居た不審な者だと言っていたのではないか? 横取りしたのなら横取りしたと最初から言えば良いものを」



ぐうの音も出ないとはこのことか。


顔を下げて、何も言わなくなってしまった。



「何とか言わんか!! では、この客人が横取りしたとしようかの? どうやって横取りするんじゃ? この者がたとえお前達が攻撃して手負いとなった顔狼に勝てるとは思えん!」


「いや! 魔法を使って――」


「黙れ痴れ者が! わしがそんなことも確認できぬ老いぼれとでも思うたか!! まだそこまでモウロクしとらんわい! 仮にも60年前には魔法専門の勇者として名の馳せたわしをバカにするか!! 彼からはクズほどの魔力しか感じとれぬわ。魔法はあり得んわい!」



あ、はい。俺はクズです。2度目。魔法も使えない、方向もまともにわからないゴミです。


こっぴどく怒られしょげきった顔で俺の前に牙を並べる。



「ところで客人よ。この痴れ者どもの事は後でわしがキツく説教するとして、この牙、どうやって手にいれたんじゃ?」



なるほど。疑ってはいると、そういう事なのだろう。だが、俺は今行商人という設定。行商人になりきるべきだろう。



「……秘密ですな」


「ほっほっほっ! そりゃそうじゃ! 口が軽すぎなくてなによりじゃ。良い行商人になるじゃろう! まぁ、わしはお主が横取りしたかしてないかなど、どうでもいいんじゃよ。横取りしていたとして、悪いのは明らかにコイツらじゃ。逃がすのが悪い! この一点に尽きよう」



なんでも見透かしているような視線を俺に向ける。


本当は俺が取ったのは分かっているのだろう。


食えない爺さんというやつだ。



「分かった! わしが買い取ってやる。一本50円。他の者に売ってもこの値段では買い取ってはくれんぞ?」


「よし! 売った!」



なんかよくわからんが威勢よく声をあげてみた。


これで俺は金を稼いだ。もうニートじゃない!



「ニートじゃない!」


「なんじゃ? まぁ、それはそうとお主、どうやってこの森の中を歩いておった? 武器はないのか?」



思わず声に出ていた。若干赤面しながら爺さんの問いに両手を見せながら答える。



「見ての通り何も。森の中はゲル……ゲフンゲフン。あー、逃げながら、ですかね。逃げるのは得意なんですよ」



嘘ですけどね。逃げるのというか、運動全般できませんから。



「ふむ。この牙。武器になるんじゃ。お主に一つ作ってやろう。なに迷惑をかけたお詫びじゃ」



俺の目の前に並んだ牙から一番大きい牙を選んで男に渡している。



「クロウ、短剣にしてやれ。彼は槍等を使えるように見えんからの」


「はっ!」



建物からクロウと呼ばれた奴が飛び出していった。



「いや、助かります。買い取っていただいたあげく武器まで……」


「なに。お互い様じゃよ。牙は粉末にすれば薬にもなる。村人では中々手に入らん貴重な物じゃ。今 日はもう暗い。ここに泊まっていきなさい。ニンバ! サンタ! 床の準備をしなさい」



残った二人が藁の布団を用意している。



「そうじゃ。買ったものの料金を支払おうか。分かっとると思うが、1本はお主の武器になる。ということは9本を買い取るんじゃから450円じゃの」



当然だな。いや、若干10本買い取ってくれたあげく1本俺にくれたのかなーっと思ったけど、そりゃちがうよねー。しっかりした爺さんだな。


料金を受け取り、とりあえず今日だけ泊めてもらう事に決めた。今から帰るのもしんどい。



「客人! 起きなされ!」



次の日の朝、大分揺らされながら起床した。


ニートだった俺は朝に弱い。朝に目覚める必要がなかったからな。


仕方なく起きる。


……痛い。体が痛い。痛たたたたた!!


体を動かしたくない程の筋肉痛が襲う。



「あ、どうもおはようございます」


「うむ。おはよう。もう昼時じゃぞ」



全然朝じゃなかった。昼かよ。体が疲れてるんだな。


さて、ニートは自分の家が好きだからさっさと帰りますか。寝直そう。



「すみません。お世話になりました。では」


「まてまて。もう行くのかの? まぁ、止めはせぬが、お主用に作った短剣が出来上がっておる。持っていきなさい」



手渡された短剣は牙を削って作っただけの簡単な短剣だ。


刃先をちょっと触ってみたら手が切れた。


痛てぇ!


骨ってこんな固くなるの? バカなの? 多分ダメージ2もらったぞちくしょう!!



「ほっほっほっ。刃先を触れば手が切れるぞ」



切れた後に言うなよ!!



「刃を剥き出しで歩く奴はおるまい。簡単に動物の革で鞘を作ってやったからもっていけ」



鞘を受け取った。うん、最初から付けて渡せよ。



「しかし、本当に今までどうやって生きてきたんじゃ? 失礼 じゃがお主からはなんの力も感じん。……いや、何でもない。何かお主なりの生きる術があるのじゃろう。まぁ、何かあればまた来ればいい。必要な物があれば買い取ろう」



しかしよく喋る爺さんだな。


とりあえず取引先を一つ確保できたな。


魔王という事もバレずに済んだ。



「すみません。それでは」


「おっと。そうじゃった。わしは昔勇者で名を馳せた魔法使いレイヴン。お主の名前を聞かせてはくれぬか」



ああ、面倒くさい。偽名考えてなかった。まぁ、いいか。



「メフィスト・パンデモニウムです。それでは」



なにやら驚いた顔をしていたが、直ぐに口を開く。



「難儀な名を持っとるな。お主の親は一体何を考えて……いや、何でもない。うむ。また来なさい」



やっと解放されたぜ。武器も手に入ったし、帰りはサクサク……進めるわけないか。……逃げながら進もう。


やっと解放された。


本来なら荷台でも持ってきて取れた素材を運べたらいいんだろうが、今回はポケットと両手いっぱいの牙しか持ってこれなかったからな。


また、今度来よう。


村の外に出たところで、居なかったら困る重要人物を呼んでみた。



「あー、ゲル君ゲル君。帰るぞ」



居なかったら死ぬな。



「魔王様! ご無事で!」



出てきた出てきた。



「ああ、問題ない。それでは魔物に会わないように帰ろうか。先導してくれ」



クソ長い道のりのスタートだな。

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