表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

サンドレア~思惑と思考と忠誠と想定外の出来事~③

「何故じゃ! 私にも……いや、私たちにも戦わせてくれ! 奴らに一泡吹かせてやるのじゃ! 私たちが手で! でなければ……でなければ、この手で皆の無念を晴らせぬようでは、私は国の代表失敗じゃ!」


「う、うーむ……」


「ムト様、そこまでお考えでしたか……。感服いたしました。私の浅はかさをお許しください」



……お前死ぬんじゃなかったの? まあ、死なないならそれでいいけど。


しかし、意思が固いな。連れていかないと、今後遺恨を残すか?



「魔王様」



サンドレアが他に聞こえないよう、顔を近づけて小声で喋りかけてきた。


近い近い!



「あ、ああ。なに?」


「連れていってはいかがですか?」



な、なに!?


あのサンドレアが人間に情けをかけたのか?


いや、いい傾向だな。やはり相手が子供だから良かったのか。


ここからサンドレアの人間に対する恨みとか、憎しみの類いが無くなっていけばいいのに。


俺が黙っているのを何か勘違いしたのか、サンドレアは言葉を続ける。



「連れていくメリットですが、まず、現地でガキを殺します」



……バカじゃないのか? いや、バカだな。コイツ頭がおかしくなってるんだ。


さっき思った事は全部気のせいでした。


いや、続きを聞こう。最後まで話を聞かないと判断できない。



「そうして王家の血脈を失った他の人間は頼るものを失い、結果、力に優れ、カリスマ性のある魔王様に忠誠を誓うようになるのでは、と。さらにはこの国の代表の立場まで手に入り一度で二度美味しい話です」


「はぁ」



考えが黒い。どす黒い。


サンドレアが魔王の方が良かったんじゃないか?


まず、ムトを殺すという発想が怖い。子供だぞ?


喋りは大人びているが、まだ10歳かそこらの女の子を殺してしまって利益に繋げようという考え方が怖すぎる。


まあ、そんな意見を受け入れるわけにはいかない。


そして顔が近い。早く離れてもらわなくては……。



「ダメだダメだ。もう俺の元に来た住人だ。助けてやらなくては。一時的に居るだけになるかも知れんが……。それでも恩でも売っておくチャンスだろ」



まあ、他の住人がどこか別の場所に逃げていないと、奪取したところで住人が少な過ぎて街として機能してないだろうがな。


俺はサンドレアからムトに向き直る。



「じゃあどうする? どうしてもって言うなら連れていくけど、自分の身は自分で守ってくれよ? 俺らそこまで責任持てないからな」


「なななな、なんだと貴様! ムト様を守るつもりが無いだと!?」


「お前うるさいな。そろそろ黙れよ。俺は別にムトに忠誠を誓った兵士じゃないんだよ。守らないとは言ってない。ただ、命に替えても守るとか、他の何を優先してもムトの命は守るとか、そういう事はしませんよってことだろうが面倒臭い」



一々全部説明してやらないといけないのか、この堅物は。



「わかった。それで構わないから連れていってくれ」


「ムト様が行かれるのでしたら私もお供いたします! 攻撃の役にはたちませんが、盾ぐらいにはなれます!」



えー、お前来るのかよ。


うるさいのはここで留守番してろよ。


しかも死ぬんじゃなかったの? 何をいけしゃあしゃあと盾になるだよ。死ねよ。



「はいはい。じゃあついてくるのね。邪魔だけはしないようにね。……マジで」



サンドレアも居てトラブルになる可能性が高いから、本当はついてきて欲しくなかったけど来るというなら仕方ない。


断ってもいいけど、ここで恩をどんどん売っておくか。


それにムトは魔法に関してレベル4まで使えるのだから多少は役に立つだろ。装備品のステータスアップで尋常じゃないほど強くなってるし。


後は言うことを聞いてくれなかったり、大きな声を出したり、勝手な行動をしたりしなければいいけど。



「それでですが、魔王様」



サンドレアが皆に聞こえるように声を出した。



「暗黒の双刀の攻撃をまともに食らえば、たった一撃さえ耐えきる事ができる者は、そこのアルメスぐらいなものでしょう。魔王様は別にして我々や今の魔物達では盾にすらなれません」



いや、俺も耐えれませんが。サンドレアは知らないだろうが俺、防御力1だぞ?


言いたくなるが、グッと我慢する。



「なるほど、では盾要員が必要ということ?」


「そうです。そこで私の知る魔物で一番向いている魔物は甲虫岩という魔物なのですが、いかがですか?」


「よし、検討しよう」



メストニウムを呼んで甲虫岩なる魔物がいくらするか確認する。



魔鉱石を纏う虫、甲殻種、甲虫岩・レベル1・20000円



高いから……。


高過ぎるから……。


20000円も価値があるのかよコイツ。



「……ちなみに暗黒の双刀は?」



殺戮する者、機械種、暗黒の双刀・レベル1・12000円



暗黒の双刀の方が安いだと?


何者なんだよ、この甲虫岩。種族の前になんか名前があるから上級魔物なのは間違いないだろう。


弱そうな名前の癖に……いや、俺なんか強そうな名前の弱いやつだったわ。名前は関係ないか。


どうする。

買うか買わないか。


ただ、暗黒の双刀を買っても仕方がない。


少なくとも向こうには3体いるんだから、こちらはそれ以上揃えなくてはならない。



「他は? ……他に何か知らない? 防御できるやつ」


「他……ですか。暗黒の双刀の力を考えると、難しいですね。私の知る最強の攻撃力を持つものが暗黒の双刀ですから」


「え? そうなの? アイツ最強なの?」


「いえ、あくまでも私の知り得る最強、ですが。魔物には色々な種類があり、私などでは把握できていないというだけです。上級魔物がこの島に居るというだけでレアですから。この島、いや、この赤の連合国には下級魔物しか出現しないと言われていましたから」



あ、ああ。そういうことか。


暗黒の双刀が本当に最強なのかと思ったわ。



「それに、伝説に残る魔物もいますし」



伝説?


いや、今はいいか。


また、今度聞こう。どうせ召喚できないし。



「まあ、次点で盾妖魔、ですかね」



盾妖魔、そのままだな。


メストニウムに盾妖魔の詳細を表示してもらう。



妖魔種、盾妖魔・レベル1・6000円



うん、これぐらいなら、まあ買えなくはない。



「ちなみに、ゲルで言うと、甲虫岩と盾妖魔はどのぐらいなんだ?」


「はっ! 甲虫岩は0。盾妖魔は500ほどかと。防御に特化した魔物ですので甲虫岩に至っては攻撃できないと聞いております」



ああ、攻撃できないからゲル換算できないのか。


ガダジゾバビビと同じタイプだな。


うむむ。悩む。



「じゃあサンドレア。盾妖魔であれば何回暗黒の双刀の攻撃を耐えられると思う?」


「残念ながら一回も耐えられないかと……」



じゃあ意味ないやん!


今の無駄な時間を返せよ!



「ただ、まともに食らえばですが」



いや、まともに食らうよ。暗黒の双刀のスピードと判断力なら。



「甲虫岩なら耐えられると?」


「はい。実際ぶつかり合うところを見たことがないのでなんとも言えませんが……。勇者レベル100の一撃に耐えると言われています。……一撃だけですが」



……それは強いな。


いや、勇者レベル100を見たことないから知らんが、そりゃすごい。


さすがは防御特化だな。


ああ、欲しいなぁ。甲虫岩が欲しくなってきた。


ムト達は魔物の話になると黙ってしまう。


やはり仲間として動くのに抵抗があるのかな?


ゲル君とかよく見たら可愛いけどな。目も口も無いけど。



「……わかった。じゃあサンドレアはどう思う? 俺が今、皆の生活費を除いて使える金が60000円ほどだ。3分の1を使ってでも必要だと思う?」


「はい、確実に役にたってくれるでしょう!」



え? 何か興奮してる気がするけど、ただちょっと珍しい魔物を見たいだけとか、そんなんじゃないよね? なんか不安になってきた。安くないぞ?


でも今回は隠密行動が大事だ。


軍隊を連れていくわけにもいかん。


精鋭であるべきか。



「よし、甲虫岩の召喚をしよう」


「よし!」


「ん?」


「い、いえ、何でもありません!」



いや、何でもない事はないだろ。よし! って言いなさったぞ? この人。


ムト達は聞いたことが無い魔物だからか不安そうな顔をずっとしている。


震える手で20000円分の金をメストニウムに渡していく。


ああ……金が無くなっていく。俺の唯一の生命線が……。



“じゃあ召喚するね。はい!”



ポコンと飛び出してきたのは岩だ。大体人間の頭部と同じぐらいの大きさ。


それが15個出てきた。


それほど大きくない部屋なので、人間の頭部ぐらいの大きさの物が15個も並べば邪魔になる。


なんだこれ。



「おお! おお!! 神よ!! おお!!!」



サンドレアは壊れたし。


何が神だよ。そりゃ魔物だよ!


ムト達はその召喚された岩が何なのか分からず、出来るだけ離れようとしているのが分かる。


大丈夫大丈夫。召喚してもらった俺も何か分からないから。


よーく見ると、各岩の隙間から糸のような赤い触手だろう物体が無数に出て、右へ左へビロビロしてる。


気持ち悪!! 吐くわ!!


想像を絶するような不快感が俺を襲う。


あの糸みたいなのが体に這ってきたらどうなるかを無意識に想像してしまい、体を掻きむしる。


ゴリゴリと岩と岩が擦れる音や土の削れる音が響き始める。


各岩の赤い糸が絡み合い一つの意思をもった岩のように連なっている。


……これがサンドレアの言う防御最強だと?


のっそりした動きに、それほど堅そうじゃないひび割れた岩。細長い無数の触手と繋がってない岩。


岩の塊を15個召喚しただけのような感じだ。



「ま、まあ何でもいいけど、守ってくれよ。どんなやつか知らんけど」



案の定というのか答えは返ってこない。声帯を持ってないのだろう。



「魔王様! 見てください! この禍々しいオーラを! 素晴らしい! この無敵のフォルム。愛らしい触手。あー、いいわー!」


「あ、じゃあそれはサンドレア担当ね。この魔物。あげるから。ちゃんと皆を守ってね。その魔物で」


「え……えええええ!! いや、え!? ほ、本当にいただけ……え!?」


「あげるから」



気持ち悪いし、意思疏通はできんし、どんな動きをするのか分からないからサンドレアに任せよう。


ムトは眉間に皺を寄せて、その不気味な甲虫岩とそれに抱きつくサンドレアを見ている。


隣でアルメスとクロウが不快そうな顔をしている。


そしてその顔のまま、俺の方を見る。


俺を同類の目で見るのをやめろ!


あの触手を愛らしいなどとは思わんし、抱きつきたくもないわい!


あの触手を見るだけで風呂に入りたくなってきた。



「さ、さて。あれは放っておいて次だ。戦力を増強しないと」



無理やり触手から目を離す。


真正面からぶつかるわけにはいなかいからステルス系の魔物がいいな。



「サンドレア。ステルス系の魔物だが……」


「うへへへ」


「だが……」


「いいわー!」


「あの、何か案は……」



やめよう。


返事がない。きっと病気なんだ。


ではどうするか。


ステルス系の魔物を諦めよう。


とにかく戦闘能力に優れた奴がいいな。


よし、



「メストニウム。20000円の魔物を表示してくれ」


“ほいや!”



ほいや? まあいいか。



地獄より出でし獣、三首種、ケルベロス・レベル1


魔により動く岩の塊、岩石種、ゴーレム・レベル1


魔鉱石を纏う虫、甲殻種、甲虫岩・レベル1


炎塊種、ウィルオーウィスプ・レベル1


影幻種、シャドウビースト・レベル1


酸性スライム・レベル1



あ、知ってる知ってる!


名前知ってる奴がちらほら出てきた!


どれがいいのか。


ステルス系を求めてたが、影幻種のシャドウビーストぐらいしかいないな。


ただ、名前から中級魔物であるのは間違いない。


中級のくせに生意気にも20000円だと?


上級魔物の方がいい気がするが……そんなことはないんだろうか。


20000円の下級魔物までいるし。


逆に召喚したくなってくるから不思議だ。


どれだけ強いのか。また、弱いのか。


何をもってして下級とか中級とか決めてるんだろうか。強さではなさそうだな。


メストニウムに表示されるということは魔界の方で決めてそうだけども。


実際に暗黒の双刀と戦うことを想定しよう。


ちょっとあのあたりに魔法使おうかなぁ、と思っただけで避けられる察知能力。


緊急回避で横に移動した時の移動能力。


そして強力な兵士を一振りで絶命させる圧倒的攻撃力。


こうして考えると無敵に思える。


じゃあ弱点はなんだ?


長所ばかり見ていても作戦は決まらない。


短所。奴が見せた短所はなんだった?


一つは長所にも上げた察知能力。


魔力に過剰反応しているのが窺える。


俺の弱々な範囲重力魔法を食らって飛んでいったな。


魔法耐性は0と考えていいと思う。


そのための察知能力と緊急回避だな。


今度はその緊急回避だ。


緊急回避時、奴は煙と共に停止していた。


あれほどの移動だ。機械といえど、何かしらの負荷がかかったに違いない。


微量の魔法を検出するのを利用して緊急回避をさせ、時間を稼ぐ事が最大のこちらの攻撃だな。


それこそが奴の最大のウィークポイント。


ただ、どれだけの時間を稼ぐ事ができるかは不明。


倒すではなく、時間を稼いでその間に操っているマスターを倒すのがベストだ。


よし。


作戦は決まった。


粗い作戦だが、敵の最強の切り札に対する小さな攻略方だ。


後は現場でどうにかするしかない。


最悪攻撃を受けても甲虫岩がいるし、安全ではないにしろ対策はできている。



「サンドレア」


「ひゃひゃひゃ」


「サンドレア」


「へへへへへ」


「サンドレア!!」


「は! ……なんでございましょうか魔王様」



やっと気付いてくれた。


危うく殺意を覚えるところだった。



「やっと正気になったか。そうそう、これなんだけど、魔法使える奴らいる?」



メストニウムから出た光は空中に表示される。それをサンドレアに見せた。



「は……は? どれ、ですか?」


「いや、これだよ。ほらこのあたり」



空中にある文字を指で囲む。



「いえ……私には何も見えません」


「……ん? メストニウム?」


“あ、メフィスト以外には見えないよ”



いや、言えよ。これだけやり取りしたあとに言うこっちゃ無いだろうが。


まあ、よく考えたら日本語で書いてあるし、サンドレアに見えたところで理解できないか。



「じゃあ口頭で言うから。魔法が使える、というか魔法に特化した奴がどれか言ってくれ」



サンドレアに20000円の魔物達の名前を言っていく。


そして、サンドレアの眉間にはどんどんとシワが寄っていく。



「――そして最後に酸性スライム。どした? なんかあったか?」


「……いえ、甲虫岩以外、耳にしたこともない魔物で私には判断できません」



ありゃ?


サンドレアもわからない魔物なのか。


サンドレアがどれだけ魔物の知識を持ってるか知らないけど、少なくともこの世界では詳しい部類の人間ではあるはず。


俺は聞いていたであろうムト達に顔を向ける。


……激しく首を横に降ってる。


聞くな、知らない。というアピールか。


しかも有名どころのゴーレムやケルベロスなんかもでてきたのに。


こちらでは有名ではないのか?


仕方ない。俺の知識だけで動くしかないな。


まあ、分かっているのはウィルオーウィスプが炎を使う。


ケルベロスは三首種らしいから3つ首があるのは間違いない。


ゴーレムは岩でできている。


酸性スライムは酸を使える。


……ダメだこりゃ。何にもわからんわ。


メストニウムは何故か魔物に対して知識を持っていない。ちなみに召喚したり遭遇した魔物については知識を得るようだ。


意味がわからん。最初から知識があれば良いものを。


……よく考えたら奴らにはウィルオーウィスプ部隊もいる。



「なあ、ウィルオーウィスプはゲルにしていくらぐらいなんだ?」


「魔王様、大変申し訳ありませんが私にウィルオーウィスプの知識が無く、分かりません」



あ、ウィルオーウィスプも知らないのか。


12000円の暗黒の双刀より高額なんだから強いんだろうな。10000ゲルか、もうちょい上ぐらいだろう。


という事はウィルオーウィスプも却下。敵と同じ魔物を揃えても勝てない。



「メストニウム。25000円……いや、30000円の魔物を表示してくれ」


“はい表示!”



二つの首を持つ竜、竜血種、ダブルドラゴン・レベル1


音の力を操る者、音操種、ペレト・レベル1


魔を集める球体、球体種、無限ホール・レベル1


すり抜ける者、竜鎧種、シャドウソード☆タクティカルダークネス・レベル1


砂塵の王、砂塵種、サンドウォーリアクラスファイブ・レベル1


魔人種、クリーチャーブラウン



……なんというかここまで来ると個性が凄いな。


なんか名前の途中に星付いてる奴いますけど? 名前の一部なんですかね? なんてお呼びすればいいんでしょうか?


とうとうドラゴンまで出てきたし。


ドラゴンなんか召喚した日には隠密もなにも無いな。街でも滅ぼしに行くのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ