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ここはどこ、私はだれ

深い深い落とし穴にでも落ちている感覚。


体に浮遊感、はっきりしない意識。



「う……ああ……」



発声がうまくできない。


目も開かない。


何してたっけ?


どこにいるんだ?


手足をゆっくり動かすと、地面へ触れている感触がある。


その感触を確かめた瞬間、体に力が戻り瞼を開いた。


暗い。


真っ黒ではない。ほの暗い。


辺りを見渡すと光の元となる球体を発見した。



「なんだこれ」



体を起こし、球体にまで這っていく。


糸で吊るされているのか、空中に浮かぶ球体。


虹色に輝き、眩しくない光が辺りをほのかに照らしている。



「綺麗だなぁ」



触れた。


何か分からないが、手に取ってみたい衝動を抑えられず触れた。



“やったね!”


「何がじゃ!」



あまりの意味のわからなさに、思わず殴ってしまった。


空中に浮かぶ球体は、天井から吊るされてるのかと思っていたが、殴ってもびくともしない。


ということは……、



「い……ってぇ!!!」



グシャって言ったよいま! グシャって!!


球体から映像が空中に浮かび上がる。


文字と共に声が聞こえてきた。



“ダメージ2! 残りHP1!”



やっぱりこの球体から声出てるよね!?


どこから突っ込もうか。


もう何なんだ。


とにかく、



「俺の最大HPって3? 3なの? もう一回殴ったら死ぬの? なんなの?」


“この世界には勇者達があふれ、勇者という職業が一般的な――”


「待って待って。なーに勘違いしていきなり喋りだしてんだコイツ」



怖いな。もうここまでくると怖い。


俺の質問を無視するどころか何か喋りだしちゃったよ。



「もういいや。とにかく、ここどこ? なにお前。どっから声出てんの? どっからか俺の事見てるんですかー?」


“この場所は勇者達の目から逃れるため、遠く離れた孤島。そして――”


「なにまだしゃべくってんだテメエ」



ダメだこりゃ。こちらの話しは通じないのかもしれない。いわゆるレコーダーのようなものか。


どこかに連れ去られたのかもしれないな。


人身売買か? ということは強制労働系か臓器売買系か……どっちも嫌だわ!


あー嫌だ嫌だ。


とりあえずこの変な球体は無視しよう。


辺りを捜索する。


部屋はそれほど広くない。


一辺が30歩ほどでたどり着く、正方形の部屋のようだ。


壁を叩いてみるが、土壁のようで隣の部屋があるのかどうかすらわからない。


天井も土。床も土。


土。土。土。


そして最大の疑問。


なんでここには、



「扉がねぇんだよ!!」


“あ、ちょっとうるさいです”


「お前喋れるのかよ!!」



もう何なんだこれ。この球体は何なんだ。この部屋は何なんだ。ここは、



「どこなんだ!!」


“ちょっとうるさいですが、ここはダンジョンの地下。あなたはダンジョンマスター! やったね!”


「なにがじゃ!」



危うくもう一度殴る所だった。なんかよくわからんが俺のHP残り1らしいからな。



“一つ言っておきますが、貴方はこの世界を思いのまま操ることができるのです。そう、勇者さえ居なければね”


「はぁ、それで?」


“やったね!”


「お前そればっかだな」



なんか疲れてきた。


というか俺なにしてたっけ?


……ああ、サービス終了して人生終了して自棄飯でもしようと思ってたんだったわ。


ポケットから財布を取り出す。


残金170円……。


カップ麺ぐらいしか食えねぇじゃねぇか。


涙をぐっとこらえる。



“少ね”


「うるせぇ!!」



人に言われるとよけい悲しくなるわい!


こらえた涙があふれてきた。



「え? 出れないの? ここから。飯を食いに行きたいんだけども」



土の壁を叩きながら扉を探す。



“出れるよ。ご飯はここで買えるよ”


「は? ここで? ここ何にもねぇじゃねぇか」


“ボクが売ってあげるよ。何がいい?”



何言ってんだコイツ。


もう一度辺りを見渡したが、特に何もない。土しかない。



「じゃあ、何があるんだよ。言っとくが俺は170円しかないからな!」


“はい、メニュー表示!”



なんだこれ。奴が光ったと思ったら空間にズラズラズラーっと文字が浮かび上がった。


それこそ部屋の端から端まで。



「こんなにメニューあるの?」


“早く選んで”



早くって言われても選べるか!



「あのー、ステーキとかフルコースとか見えますが、おいくら万円か書いてないのですが……」


“全部一律10円だよ”


「安!!」



え? おかしいだろ! こっちのほうにお菓子の名前もあるぞ? お菓子とステーキが同一価格? バカなの?



“我々も貴方に餓死されたら困るんですよ、旦那”


「何キャラだよお前」



とりあえずさっきからずっと目につくステーキを選んでみる。



“じゃあお金頂戴”


「誰に渡すの?」


“ここだよここ。ほらボクに近寄って。そう、上に穴があるからそこに入れて”



貯金箱みたいに薄い穴があいている。


財布から10円を取り出していれてみた。



「なけなしの金だからな! 取ったら怒るぞ!」


“誰も取らないよ。よっと!”



何もない空間にポン! と皿に乗ったステーキが現れた。


重力によって下へ落ちていく。



「おいおいおいおい!!」



何とか手が届き、隠し味に土、という最悪の事態だけは避けられた。



“反射神経無いね”


「うるせぇ!! なんだテメエさっきから喧嘩売ってんのか!」



焼きたてのようで、湯気がステーキから上がっている。


スプーンやフォークは無いので手で取ってかじりつく。



「うめぇ!」



久々にステーキ食った!


夢中になって貪る。



“で、食事中だったら貴方は静かになるだろうから、これからの事を伝えとくね”



ああ、勝手に喋れ喋れ。俺は食う。


飯は食い終わった。


めちゃくちゃ旨かった。


とりあえず食いながら聞いた事を整理する。


何かの拍子に俺は違う世界のダンジョンマスターとして召喚されて、今は世界を滅ぼす魔王。


元の世界に戻りたければ世界を滅ぼせ、と。


この球体に頼めばとりあえずほぼなんでもできる。が、金がいる。日本円が。


勇者だらけだから気をつけて、ということと、この世界のダンジョンはついさっき全て攻略されてしまったらしく、ここだけになったよ、と。



「バカじゃねぇの?」


“何が?”


「その話が本当だとしてクソニートの俺が、他の魔王さんが勝てなかった相手に勝てるわけねぇだろ。ゲラゲラ!」



笑い転げる。


バカだー!!


何で俺なんだよ! 貧弱で思考能力皆無、コミュ障不細工。勝てる要素の一つもない。


それに、



「最大HP3だぜ? 勝てるか!」


“ま、まあ。ボクもステータス見たときには驚いたけど、レベルだって上がるし、伸びしろということで、ねぇ?”



ねぇ、じゃねぇよ! なんだコイツ。



“大丈夫! ボク達コアは繋がってるんだ。彼らの経験はボクに引き継がれてる。それに最後のこのダンジョンは勇者達の多い都市から遠く離れた孤島。島に住む少ない人々からも離れた場所にあるから、当分は見つからないよ”



何が大丈夫なのか問いただしたいが、まあ今はいいか。


とりあえずコイツの機能を調べてやろう。



「お前何ができるの?」


“だから、なんでもできるって”



何をさせてみようか。


とりあえず、



「俺のHP回復してよ」


“ハイハイ。2円ね”



何だそのやる気の無い感じ。


若干イラっとしながら10円を入れる。


8円が床にばらまかれる。しかも全部1円。


イラっとしたが、まだ我慢。こんなことで怒っていてはこの先この球体と一緒にいられないだろう。


HP1につき1円らしい。


キラキラーっと体の周りが光った瞬間、体からほんの僅かに力が沸き上がった……気がした。


本当に気がしただけかもしれない。



「……なにこれ? ちゃんと回復したの?」


“したよ! 失礼な! はい。これが貴方のステータス!”



―――――――――――――――――

なまえ:ななし

レベル:1

HP/最大HP:3/3

MP/最大MP:1/1

残金:158円

力:1

防御:1

知:1

速さ:1

魔法耐性:1

魔法力:1

魔法回避:1

運:1

スキル一覧

適応力・レベルMAX

武器一覧

何もない

防具一覧

くたびれたTシャツ1枚

くたびれた半ズボン1枚

くたびれたパンツ1枚

親指の部分が破れた靴下1枚

道具一覧

丸まったレシート1枚

自宅の鍵1個

くたびれた財布1枚

携帯電話1個

―――――――――――――――――



これもまたどこから突っ込んでいいんだろう。



「何で名前ななしなの? ちゃんと名前ありますが?」


“登録してないからだよ。なに? ななしじゃ嫌なの?”



いや、別に構わんけども。



「名前ってなんでもいいの?」


“うん。いいよ”


「魔王だろ? じゃあ、メフィスト・パンデモニウムとかでもいいの?」


“はい、登録完了~”


「待って待って待って! マジで待って!」


“一度登録した名前は後から変更できません!”



うるせぇよ! 勝手に登録してなんてこと言いやがるんだ。



「分かった分かった。いくら払えばいい?」


“なまえの変更は1億3500万円必要です”


「メフィスト・パンデモニウムでいいです」



強そうな名前のクソ弱い魔王の出来上がりだよ、ちくしょう!!



「俺、存外弱いんですが……他の魔王さんも最初はこんな感じなんでしょうか?」


“う、うーん”



何かを考えているような、言いにくそうな声が聞こえてくる。



「いや、やっぱりいいわ。聞きたくない。怖い」


“いや、言うよ。まず、レベル1の人が初めて。普通、生活してたらどんな世界でもレベルの一つも上がるほどの経験は積むはずなんだけど、何でメフィストはレベル上がってないんだろう? 心当たり無いの?”



聞きたくないっつってんのになんでコイツ言っちゃうの?


それにメフィストって本当に言うんだ。やべぇ、全然自分の事と思えない。



「心当たりも何も中学から学校行ってないし、ニートだし……友達いないし……何言わせんだよ!!」


“ハハハ”


「何がハハハじゃ! 乾いた笑いとばしてんじゃねぇぞ!」



腹立つ奴だな!



「このスキルでレベルMAXになってる適応力ってなに? なんかすごいの? チートなの?」


“もう発動してるじゃん。この状態、別の世界に来ちゃってるし、玉が浮いてるのも受け入れてるし、扉のない部屋に詰め込まれても発狂しないんだよ?”


「ついでにその空中に浮いた変な球体はしゃべるし、俺の最大HPは死にかけの3だしな! ある意味この現状受け入れスキルはチートだな! なんでも受け入れるんだから」



クソの役にも立ちやしない!


ゴミスキルじゃねぇか!


時間の経過と共にどんどんこの世界で生きていける自信が無くなってきたぞ!



「他のステータスは……人の服をくたびれたとか気になる所は何ヵ所かあるがまあいいや。外に出たいんだけど」


“外には出られません!”


「なんでだよ! さっき出られるって言ってたじゃねぇか! 何なんだよお前」


“だって出口ないし。どうやって出るんですか? 掘るんですか? 出口作れば出れますよ~”



この人をバカにした感じが俺のストレスを増幅させてくる。



「はいはい、じゃあ出口作ります。地上へ繋げてくださいな。変な球体さん。おいくらですか?」


“出口に50円、そこまでの通路に50円。計100円也”



今の俺には高いな。というか、



「これ、支払えなかったらどうするの? ずっと地下に籠るしかないの? 死ぬまで?」


“そりゃそうなるでしょ。別に土が硬い訳じゃないから手で掘るんじゃないかな?”



平然と何言ってんだコイツ。


金を渡した瞬間、人一人通れるぐらいの通路が地上まで繋がる。


意外に地上まで近いな。


50メートルほど緩やかな坂になっている。


とりあえず外まで出てみた。


運動不足のせいで息が上がる。



「ぜぇ……ぜぇ……。しんどい。外は晴れか。さ、戻ろう」


「ぐるるるりりりぃぃぃぃぃ」



え? 怖い怖い怖い。何!?


狼の顔だけのような奇妙な生き物がこちらに牙を剥き出しにして微笑んでいる。いや、威嚇しているんだろうな、やっぱり。


よだれをダラダラ垂らして、顔だけのくせに全体は俺より大きい。



「死ぬ死ぬ。助けて誰かあああああ!! ぎゃあああ!!」



とりあえずダンジョンへ全力で戻る。


球体の部屋まで50メートル。それほど遠くない。


あと一歩で球体というところで、運動していない足がもつれ、おもいっきり転けた。



“2のダメージ! 残りHP1”



何で敵に攻撃されてないのにいつも死にかけてるんだろう。泣きたくなってきた。



「何あれ! ねぇ! 何なんだよあれ!」


“あれは顔狼(がんろう)。レベル4の魔物だよ”


「なんか友好的じゃないんですが? 魔王に歯向かうんですか? 反抗期なんですかね? ちょっとあの人、人のダンジョンに入ってきましたよ!不法侵入ですか!? 怖い怖い!」



移動の仕方がまた怖い。転がって来ている。よくあれで天と地がぐちゃぐちゃにならないものだな。生物的に間違えてるだろう。



“野生の魔物だから仕方ないよ。他の魔王さんの放った魔物だから主はメフィストじゃない。そりゃ攻撃してくるよ”


「いやいやいやいや! なんでそんな冷静なの? 俺今HP1なんですけど!?」


“ほらほら、よく見て。あの魔物、手負いだよ? どこかで誰かに攻撃されたんだよ”


「いいから、なんかねぇのかよ! 俺があれに攻撃とか無理だから魔物か何か召喚出来ないの!?」



ゴロゴロ転がっているから移動速度は極めて遅い。


通路のあちこちにぶつかりながら進んでいる。



“そりゃできるよ”


「じゃあメニュー出せよ! 一番安い奴! 金ねぇから!」


“ハーイ”



空間に文字が浮かび上がる。


名前だけでステータス等は乗っていない。



ゲル レベル1


歩く草 レベル1



弱そうだなぁ。しかし背に腹は代えられん。



「1体いくらだ!」


「5円だよ」



高けぇ! せめて1円ならいっぱい召喚して殲滅できたのに!



「くそ! 50円でゲル10体だ!」



玉へ金を放り込む。



“ハーイ、ゲル召喚!”



べちゃべちゃっと床に水溜まりが10個できた。


直径30センチぐらいだろうか。これ、ちゃんと攻撃してくれるの?



「魔王様、我らにおまかせ下さい」


「うわ喋った!きめぇ!」


“キモイとか酷いなぁ。彼らだって生きてるんだから”



思わず口から本音が飛び出してしまった。いや、悪気はない。



「いいから、コイツ攻撃とかできるんだろうな!?」


“そりゃできるよ”



顔狼が俺の部屋までとうとう入ってきた。


俺の寿命が近づいてきている気がする。


顔狼がゲルの群れに転がりながら突っ込んだ。


奴の巨体で踏み潰されるが、物理ダメージを受けにくい体だから かまだ一体もやられていない。


顔狼の体にゲルがまとわりつき、移動速度がどんどん遅くなる。


これ以上移動できないと悟ったのか、ピタリと動くのをやめた。


相変わらず威嚇しているんだろう歯を剥き出しにして俺の方を睨み付けている。



「いや、レベル1だし、おいしくないですよ?」



言葉が通じているのか分からないが、口を大きく開けたかと思うと、雄叫びを上げた。



「がああああああ!!!」



足がすくむ。奴の雄叫びにはそういう効果があるのだろう。足が動かず移動ができなくなった。


大きく開けた口の中にゲルが一匹飛び込んだ。



「ぐげっ!」



雄叫びが途中で止まり、呼吸ができなくなったのか、苦しみ始める。


なんか思ってたのと違う斬新な攻撃方法だ。ゲルの体が固くなって攻撃とか、体当たりで攻撃かと思ったらまさかの窒息狙いか。


酸欠になったのか体から力が抜けていき、2~3分床で跳ねていたが、微動だにしなくなった。



「レベルアップ!! メフィスト・パンデモニウムは99レベルになった!」


“いやいや、無いから。はい、レベルは上がったよ。やったね!”



なんか感動も何もない感じだな。ファンファーレとかならないの? 現実は厳しいな。



「……レベル4の魔物倒したのに、俺のレベル2なんですが」


“そりゃポンポンレベルは上がらないでしょ”



そんなもんか。ステータスを確認するが、全然強くなってない。え? いやいや全く強くなってない。



「せめて2倍ぐらい上がれよステータス!! 上がったの最大HPだけ!? しかも1上がっただけ!?」


“やったね! 最大HPは4だよ!”


「うるせぇ!! 何がやったね! だ!! よかないわい!!」



伸びしろがどうのと言ってた口でよくも言えたもんだなクソ球体が!



“ほらほら、ゲル君もレベル2に上がったみたいだよ”



何だかんだ数が減ってしまった。口に入ったやつも死んだようだ。


床にできた水溜まりの数は3つ。いつの間にか7体もやられてしまったのか。なんか申し訳ない気持ちになる。



「魔王様、我々はレベルアップでステータスは上がりませんが、スキルを覚えます。今回のスキルはこちら!!」



ジャーン! とどこかで効果音がなったんじゃないかと思うぐらいのドヤ声で何かしている。


……ピョンピョン飛んでる。


地面から……えー、大体10センチほどのジャンプ。


自分の事を棚にあげ、さらに彼らには悪いがかなりショボい。



「ハァ……ハァ……少し疲れます! どうですか!? 役に立てますか!?」


「いや……あ、ああ。今は何に役立つか思いつかないが、その……いいんじゃない? 幅広いよね、ジャンプ出来るのと出来ないのでは、ね? 戦略が広がるよ。よくやった!」



あまりに期待に満ちた声と頑張った感じが哀愁を漂わせていたので、親指をぐっと立てて誉める事にした。



「精進します! 魔王様に誉めていただいたぞ!」



こんなレベルの低い魔王に誉められても嬉しく無いだろう。多分ゲルレベル1にも俺は勝てんぞ。



“ダンジョンのレベルが上がったよ。地下以外、地上まで影響を与える事が出来るようになったよ。やったね! まぁ、まだダンジョンレベル2だからかなり範囲は狭いけどね”


「ふーん。地上に影響って何ができるの?」


“だから、ほぼなんでもできるって。地下で出来ることは一通りね”



そうか。ってちょっと待てよ。



「おい。待てよ。おいおい!」


“あ、HPはレベルアップしたから最大まで回復してるから安心だね”


「ちげぇよ! 金!! 俺もう8円しか無いんですけど!? 飯も食えねぇ! コイツ金持ってないの!?」



とりあえず顔狼の毛の中とか口の中に何か入ってないか探す。



“あるわけないじゃんか。魔物がお金持ってても仕方ないでしょ”



この世界で金を稼ぐにはどうしたらいいんですかー。


元の世界の方が金を稼ぐの簡単な気がする。ニートだった俺が言うのも何だが。



「どうやって金稼ぐんだちくしょう! 働いたことねぇからわかんねぇ! 普通モンスター倒したら戦利品で金が手に入るだろうちくしょうめ!!」


“メフィストの普通が何かは知らないけど、この世界の普通は物の売り買いや賞金首の討伐。それに略奪や表彰など大まかに言うとこんなものだよ”



売り買いや討伐、か。略奪はまだレベルが足らないな、多分。表彰って魔王が? あり得んだろう。


となると、売り買いか討伐。まてよ、



「この魔物が賞金首だったり――」


“ないない。依頼されるほど強くないもんコイツ。こんなのが賞金首だったら世界は討伐依頼であふれかえるよ”


「じゃあ、倒しただけ? 売り買いって言っても何も持ってないしな」



ポケットの中を探ってもレシートと鍵しかない。


どうする。自宅の鍵でも売るか? 使い道ねぇし。いや、売れるわけがないな……。



“魔物の毛皮や牙、肉なんかももちろん売れるよ”



なるほど。簡単じゃねぇか。


早く言えよな。全く。


えーっと、動物の皮ってどうやって剥ぐのかね?


まあいいや、とりあえず牙だな。牙? んー?


なんだこれ硬ってぇええ!! びくともしないじゃないか! 手じゃ絶対取れない。


なんだこりゃ。どうすりゃいいんだ?



「俺、生活力ねぇー!!! 驚いた驚いた! 俺の今までの人生意味ねぇー!!! 元々大した人生じゃないけどショックでけー!!!」


“そのぐらいはボクが教えてあげるよ。ただ、素手では無理だね。刃物が必要だよ。それに皮はなめしに道具や経験が必要でちょっと今のメフィストには無理かな~”


「分かった、経験が足りないのは骨身に染みてるよ。刃物だろ? ナイフはいくらだ」


“1000円だよ”



払えねぇ!! まあ、普通に1000円でナイフって安いんだろうけども。


刃物か……刃物ねぇ。



「ハサミ……ハサミはいくらだ」


“10円だよ”



グッ……あの時HPさえ回復していなければ、いや後悔しても仕方がないか。



「一番安い刃物はどんなの?」


“はい、メニュー表示!”



カッター


ペーパーナイフ


カミソリの刃



「ちなみにおいくらですか?」


“5円だよ”



安い、がキツいな。カッターなんかで奴の肉が切れるのか? せめてハサミが欲しかった。ペーパーナイフやカミソリなんぞもってのほか。


だが仕方がない。



「カッターをくれ」



1円玉5枚投入して、球体からカッターを受け取る。


昨日までニートだったのに、今では金を稼ぐためにあれこれ考えている自分が少し可笑しかった。

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