夢想世界の花音
今年、4月上旬から快星高校に入学した1年生――八条空人は、教室の窓の外をぼんやりと眺めていた。
高校生活か・・・・・・。
新しく通学することになる校舎は、空人の家から徒歩10分といったところに存在する。高校へ行くのに徒歩で通えるのはとても幸いなことだ。
ふと、右側から声がかけられる。
「お、おはようございます、空人さん」
「おはよう、かのん」
柏木花音は空人の中学校からの友人であり、今年も同じ高校へ通うことになったのである。しかも、偶然クラスも一緒、席も隣になった。
「こ、こんな偶然なんてあるものなんですね・・・・・・」
「そうだな、これはかなりの確率だと思うぞ?」
今日は入学して2日目、授業はおそらくオリエンテーションくらいだろう。
空人は、新しい学校生活へ期待を膨らませていた。
ガラッとドアが開き、担任が入ってきた。
「はーい、では出席を取りますよ~」
出席番号順に一人ずつ返事をしていく。
「柏木さーん」
「は、はい!」
・・・・・・ん?
――この時空人は、何か違和感を感じた。
どうしてかのんだけ、出席番号順の席じゃないんだ・・・・・・?
この教室の座席は最前列の左から順に出席番号順に並べられているはずなのだが、何故かかのんだけ後ろの方の席だった。
かのんは”か”行だからもっと前の方の席なんじゃないか・・・・・・?
「ど、どうかしました? 空人さん・・・・・・?」
神妙な顔をする空人を心配してかのんが気にかけてくれた。
「ああ、気にするな。ちょっと考え事だよ」
「八条くーん」
「あ、はい!」
・・・・・・まあ、授業に支障はないしいいか・・・・・・。
空人はこの疑問のことはとりあえず忘れ、先生の話を聞くことにした。
――1時限目の授業が始まった。
予想通り、授業の内容はほぼオリエンテーションになりそうだ。
あ、今日教科書忘れてた。まあ、授業には入らなさそうだしセーフか・・・・・・。
何か話を聞くだけだと眠いな・・・・・・。昨日あまり眠れなかったからな・・・・・・。
――その時。
『ワタ・・・・・・シ・・・・・・ノ・・・・・・!』
・・・・・・!? 何だ!?
空人は、急に声が頭の中に響くように聞こえたので、周りをぐるっと見渡した。
しかし、声の主らしき人物は見当たらない。
かのん・・・・・・では無かったよな・・・・・・。
「空人さん、どうかしました?」
「いや、何でもないよ」
『気のせいか・・・・・・』と、空人は授業の話を聞くのに戻った。
――2時限目、また話だけの眠くなるような授業だ。
うーん・・・・・・、楽だけど辛いな・・・・・・。
『ワタシ・・・・・・ノ・・・・・・!!』
・・・・・・!? まただ!
さっきよりもより鮮明に声が聞こえた。やはり見渡しても誰も声を発したようには見えなかった。
何なんださっきから・・・・・・?
空人は少し怖くなり、冷や汗が滲む。
「そ、空人さん大丈夫ですか? 顔色悪いですよ・・・・・・?」
「あ、ああ・・・・・・、大丈夫だ」
かのんが心配してくれているが、空人は気が気でなかった。
その後、3時限目、4時限目と同じ声が聞こえてきて、授業の話を聞くどころでは無かった空人はずっと俯いたまま席に座っていた。ずっと様子がおかしい空人に、かのんもチラチラと空人の方を見ながら授業を聞いていた。
何なんだあの声は・・・・・・!? 耳をふさいでいても聞こえてくるぞ・・・・・・!?
空人の顔色はますます悪くなり、まるで悪夢を見た後のようだった。
――そして昼休み。かのんは下を向いたまま動かない空人に声をかける。
「そ、空人さん、お昼一緒に食べませんか・・・・・・?」
「ああ・・・・・・」
「き、きっとお昼ご飯食べたら元気になりますよ!」
「心配してくれたのか・・・・・・悪いな・・・・・・」
「い、いえ! さあ、食べましょう!」
かのんは空人の前の席の人が不在なのを確認すると、その席の椅子を180度回転させて空人と向かい合う形で座り、弁当を開いた。
「今日はサンドイッチですよー」
「おっ、美味しそう・・・・・・」
かのんの笑顔を見て空人も少し気が紛れたのか、多少顔色がよくなった。
「ひ、1つあげましょうか・・・・・・?」
「いいのか? じゃあ貰おうかな」
「じゃあ、あ、あーん、なんちゃって・・・・・・」
かのんが顔を真っ赤にしてサンドイッチを差し出してきたので、空人も照れながらサンドイッチを食べる。
「ど、どうですか・・・・・・?」
「美味い! かのんは料理が上手だな!」
「そ、そうですか? えへへ・・・・・・」
――その時、再び違和感を感じた空人。
あれ、このやり取りどこかで・・・・・・?
『ワタシノ・・・・・・!! ワタシノ・・・・・・!!』
「うわ!?」
「ひゃっ!! ど、どうしたんですか!?」
まるで耳元で声がしたかのように聞こえて空人は思わず飛び跳ねた。
空人は思い切ってかのんに話すことにした。
「なあ、俺、ずっと授業中から変な声が聞こえてくるんだ・・・・・・」
「声・・・・・・ですか? どんな声でした?」
「ずっと、『ワタシノ・・・・・・!! ワタシノ・・・・・・!!』みたいな女の人の声だった・・・・・・」
「女の人・・・・・・?」
『ワタシノ・・・・・・!!』
「今も聞こえた・・・・・・」
「い、今私にも聞こえました・・・・・・」
「本当か!? 俺だけに聞こえてるんじゃなかったのか・・・・・・?」
『ワタシノワタシノワタシノワタシノワタシノワタシノワタシノワタシノ・・・・・・ダッテバ!!』
「・・・・・・」
空人は気づいた。
この声、聞き覚えがあるぞ・・・・・・?
えーっと、これは確か・・・・・・?
――その瞬間空人の後ろに急に少女が現れた。
・・・・・・!?
空人が慌てて振り返ると、
「だからっ!! 席とかっ! 一緒にお弁当とかっ! 私の居場所だってばっ!!」
「――うわああああああ!!」
あれ・・・・・・?
空人は目を覚ました・・・・・・。