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異世界徒然散歩  作者: 江崎零一
2/2

広場へ

 このビルの屋上には二つ小屋がある。ひとつは僕の家で、もうひとつは下の階へ繋がる階段がある小屋だ。その小屋の扉は鉄でできているため、かなり重い。ただでさえ非力な僕が、今日のようなひどい低血圧の日に、力の入らない腕で扉を開けるのは一苦労だった。

 

 なぜ僕がこのような面倒臭い扉を開け放しにせず帰宅するたびに閉めているのかというと、扉が閉まっていないと何となく不安を覚え、気になって眠れなくなるからであった。それはこの扉に限ったことではなく、寝るときには周囲の扉をすべて閉じた状態にしておかないと気が済まないのだ。


 僕は鉄の扉のレバーを下げ、体重をかけてゆっくり押し開けた。

 錆びた鉄特有の金属音が、コンクリートの壁や床、階段に反響する。僕の下駄の歯のカランコロンという音も、それに混じって辺りを跳ね回っている。

 急に、ひんやりとした空気が下の階から流れてきた。 

 屋上がこんなに暑いのは直射日光のせいであり、窓がひとつも無いこの小屋は、外がいくら暑くとも一定の気温を保っているのであった。

 

 僕は薄暗い階段を下へ下へと降りていった。ここでは日光が完全に遮断されているので、壁に付いている蛍光灯の光のみが頼りだった。

 その光はいつもチラチラと点滅しているように見えるのだが……………

 

 …………僕の目の調子が悪いのか、頭の調子が悪いのか………それとも、本当に蛍光管が切れかかっているのか……………

 

 何かあるとすぐ、自分の病気が悪くなっているのではないかと嫌な想像をしてしまうのは僕の悪い癖だった。


 長い階段を何度も折り返しながら降りていく。このビルは僕の家の下から五階分までは住宅になっており、その下の階からは出版社の事務所が、上層部の中でも一番下のエリアに至るまでを占めている。

 これらの五階分の部屋は、連載作品の原稿の受け渡しの手間が省けるように、作家のために出版社が貸しているものであった。

 

 もう何ヶ月も休載していて再開の目処めども立っていないような僕が、こんなところに住んでいて良いものなのか………引っ越して他の作家に家を譲った方が良いのではないか………僕のことを、邪魔だ、早く出て行ってくれ、などと思っている人がいるのではないか…………と罪悪感に苛まれることも多々あるのだが、引っ越しの手続きの面倒なことを考えると気が進まず、僕は今もこうしてダラダラと同じ家に住み続けているのであった。


 作家の住宅と出版社の間には連絡通路があり、上層部のちょうど真ん中の高さに位置する広場へと繋がっている。

 今日はどこへ行こうかといくら考えを巡らせようとしても、余計なことばかり頭に浮かんで全く思考がまとまらないので、とりあえず広場に行って一服することにした。

 

 連絡通路は先ほどの冷たいコンクリートとは打って変わって、深みのある赤褐色の銅板の壁と、それらを覆っているツタが暖かな印象を与えていた。くすんだ色の磨りガラスがはめ込まれた窓からは外の様子が見えないが、そこからは柔らかな光が差し込んでおり、ちょうど良い具合の明るさを演出していた。

 

 しばらく歩くと、『空中広場』と書かれた看板が目に入ってきた。この広場は、建物と建物の隙間に設けられており、5棟ほどのビルと連絡通路で繋がっている。

 日よけ程度の天井はあるが、壁は無く、一メートルほどの高さの柵で囲まれている。その柵にも、深緑のツタや、白や黄色の小さな花が絡まっていた。

 休日には、この辺りは露店で賑わうのだが、今日は平日なので閑散としている。

 

 僕は広場の一角にある喫煙所のベンチに腰掛けて、巾着袋から紙巻きたばこを取り出そうとしたが……………


 ………あれッ、無い……無いぞ………おかしいな……家に忘れてきたのだろうか…………


 ……………どうにも落ち着かないので、たばこの代わりに、小瓶の中の薬を一錠、口に含んでから飲み込んだ。

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