起床
この作品で描かれる世界は、現実に存在しないものであります。
すべて架空のものであり、実在する人物・場所等とは全く関係ありません。
正午を告げる時計の鳩の鳴き声に急かされ、じわじわと目蓋を持ち上げる。
僕の脳内は、もやがかかったようにぼんやりと輪郭を欠いていた。眼球をぐるぐる回してみても、視界は未だにはっきりしない。
僕は重たい頭を首で支えながら、死にかけの虫のように起き上がった。
ひどく喉が乾いている。
…………確か、冷蔵庫の中に…麦茶があったはずだ。麦茶、麦茶…………
あァ、あった。
2リットルのペットボトルの中に半分ほど麦茶が入っている。力の入らない手でどうにかキャップをひねり、一気に飲み干した。麦茶は丁度良い具合に冷えていた。冷たい感覚が食道から胃へ向かって降りていくのを感じる。
僕は空になったペットボトルをべこべこと足で踏み潰し、ゴミ袋に放りこんだ。
廊下の窓から外を見ると、空は雲一つ無く、気味が悪いほど澄み渡っていた。
窓を開けて首を伸ばしてみる。下層部の方を見ると、相変わらず、工場からの排気ガスに汚染された大気が渦を巻いていた。
僕はクローゼットの中から、薄手の襦袢と浴衣を取り出し、いつものように適当に着付けた。外は日差しが強いだろうから、つばの広い帽子を選んで頭に深く被った。ちょうど良く寝癖が隠れた。
玄関の靴箱の上の巾着袋を手に取る。中に家のカギ、小銭入れ、それから瓶入りの向精神薬が入っているのを確認して、下駄を履き、玄関の戸をガラガラと引いた。
それと同時に、床のタイルに反射された太陽の光が目に刺さり、視界が真っ白になった。僕の家はビルの屋上に位置しているので、こういう晴れた日には直射日光をもろに食らってしまうのだ。
目を瞑ってもまだ光が見える。しばらくパチパチとまばたきを繰り返すと、ようやく前が見えるようになってきた。
日光の次に僕の目に飛び込んできたのが、庭の花壇で咲いている鮮やかなヒマワリの姿だった。
僕は元来、ヒマワリというものが嫌いだった。パッと明るい色を目一杯広げて、あの眩しい太陽の方をじっと見上げているのが、どういうわけか、何となく腹立たしく思えるのだ。
僕はそのヒマワリの中心についているタネを一粒ちぎって口の中に放り込み、奥歯で噛み砕いてやった。思ったより不味かった。
さて………………今日はどこに行こうか………………