初手
カルキス、先にも言った通りモンダルシア帝国が持つ最強の暗殺者集団。
彼等との戦闘は一流の騎士ですら避けると言われていた。
何故なら個人としても凄まじい強さを誇る暗殺者が集団で巧みな連携を駆使して獲物を狩るからである。
故にカルキスに襲われた場合は何はともかく逃げろと言われていた。
私は目の前の事象を認識できなかった。良質な麦の生産地である事以外取り立てて褒める事がない村に居る人間が大陸屈指の暗殺者集団を瞬く間に斬り伏せてしまった。
「大丈夫ですか?怪我はしていませんか?」
「あ、いや、私は大丈夫だ。君は?」
「見ての通りピンピンしてますよ。あの三人は何者ですか?」
この人の良さそうな少年は一体何者なのか。私はそれを測りかねていた。
「隣国の暗殺者だ。君は一体・・・」
そこで私はある事に気がついた。彼が今手に持っている剣を私は見た事があるのだ。
正確に言うならば夢の中で。
「その剣は?」
「え?あぁ、これは剣じゃないですよ。刀です。」
「刀?そんなに細く薄いのに?」
私の知っている刀は刀身が分厚く、そして大きな物だ。
だが、彼の手にある『刀』は刀身が細身で反りも私の知る物よりも少ない。
何よりも目を引いたのは刀身に浮き出た文様だ。あんな物は知らない。私は先程の戦闘を見た後でなければ美術品だと言われても何の疑問もなく信じてしまいそうだった。
「ええ。日本刀と言って。刀剣の中でも最上位と評価される武器です。その分使い手には高い技量を要求されますがね。
業物の日本刀を達人が使えば千人斬ったとしても斬れ味は変わらないと言われるほどですよ。
まぁ、今の僕にはそこまでの技量はありませんが。」
そう言って頭の後ろを掻くこの青年はあの夢に出てきた青年なのだろうか。
「千人を斬っても斬れ味が落ちない?」
常識はずれも良いところだ。私達の使っている剣などは下手をすると革鎧一枚で止められてしまう。
「その、貴殿に頼みたい事があるのだが。」
「んー、出来ることなら」
そう彼が答えた瞬間足下の死体が突然動いた。
「なんだっ!?」
「避けて!」
正確に言うならば動いたのではなく、体の中から何かが弾け飛ぶ様に飛んで来た。
彼はそれを横っ跳びに体を投げ出して地面に倒れこむと体のあった位置を何かが空まで飛んで行って空で爆ぜた。
「ロケット花火?」
「?いや、アレはカルキスが任務に失敗した時に仲間にそれを知らせる為の狼煙だ。どういう仕組みなのかは分からないのだが、彼等はああして味方に情報を伝達している。」
「だから着色してあるのか。うん。悪くない手だ。」
彼は私の言葉を聞いて納得した様に呟いた。
「それで、アレが見えるのは精々数キロってところだろ?徒歩ならともかく、馬なら夜にはまた襲って来るぞ。」
「その事で頼みたいのだ。貴殿に私の護衛を頼みたい。」
「護衛、か。まぁ、良いだろ。ドードンさんに許可貰ったらな。」
私たちが話している間ずっと隣で待機していたドードン殿が口を挟んだ。
「姫様の頼みなんだから断る理由はない。行っていいぞアキト。」
「分かりました。ただ、ドードンさん。一つ確認しても良いですか?」
「なんだ?」
「この姫様が例の姫騎士様なんですよね?」
「あ、ああ。そうだが?」
「なら次は暗殺者じゃなくて軍勢が来ます。戦の支度を。」
彼は先程カルキスを斬り倒した時と同じ様に鋭い目付きになってそう言った。
「敵陣営の有力な人物を暗殺する。僕もそう言う手を選ぶでしょうね。敵が強ければ。」
彼の目は私が知るどんな騎士や貴族よりも指揮官然としたものだった。
今後は週一話ペースで更新できる様に頑張ります。