刺客
私が遠駆けに出る時には一人で出る事を許されない。護衛の騎士がついてくる。
「ティファナ様にはやはり馬車より騎馬の方が似合いますね。」
「そうでしょ?自分でもそう思ってるわ。」
度々私の護衛ときて遠駆けに付き合ってくれる騎士が私の横に並んでそう言ってくれた。
「なのに父上達は私を戦には連れて行って下さらないなんて酷いわ。」
「ティファナ様、戦は遊びとは違うのですよ。
兵達も皆貴族の子弟と言う訳ではありません。荒くれ者の傭兵達も居るのです。ティファナ様に万が一が起こってからでは遅いですからね。」
彼にそう窘められた私は気持ちを切り替えて出立しようと声をかけた。
「じゃ、行きましょうか?」
「今日はどちらまで?」
「トーレン辺りまで行かない?」
「分かりました。道中林がありますからご注意下さい。」
「相変わらず真面目ね。言われなくても分かってるわよ。」
「はは。まぁ、仕事ですから。」
私は馬に鞭を入れて駆け出した。
そして数時間後例の林に入った頃、林の中を並走する集団に私が気がついた。
「ねぇ、今回の護衛は貴方だけよね?」
「え?そうですよ。どうかしましたか?」
林の間を駆けているため目視できないが少なくとも三人は居る。
「ティファナ様!この先は!」
突然周囲が開け、並走していた相手が何者か知れた。
「カルキス!?」
モンダルシア帝国のお抱えになっている暗殺者集団。顔に特徴的な狼の紋章を刻印している。
そして彼等のもう一つの特徴は彼等があらゆる武芸に精通していると言う事だった。
「ティファナ様!お下がりください!」
林の開けた場所、彼等は最初からここで私に一撃を入れるつもりでいたのだろう既に矢を番えて此方に狙いを定めていた。
それに気がついた私は殺られると直感した。
カルキスの暗殺者が矢を放った。
「っ!」
私は思わず目を瞑った。だが、凶手の放った矢は私には届かなかった。
「ティファナ様、どうかお逃げ下さい。」
度々護衛をしてくれた彼はもう私の側には居られないだろう。
「ごめん。」
「嫌だなぁ。そう思うなら一度くらい僕の事を名前で呼んで欲しかったですね。」
そう、この時の私はまだ馬鹿だった。どんなに戦の事を勉強していても、どんなに男に負けないように鍛錬しても、将として決定的に足りない物がある事を私はこの時に思い知った。
「兵を大切にできない者に兵を率いる事はできない・・・。貴方の名前は?」
「アランです。ティファナ様。」
そう言った騎士の目は既に光を失っていた。
彼の最後の姿を見送る事もできずに私は馬を疾走させた。
カルキスは私を追ってくる。
「負けない。負けられない!」
私は鐙の脇にかけておいた短弓を手に取った。
「当たれ!」
そして振り返りざまに一矢放ったが、その矢は虚しく地面に突き立った。
私の目には目的地のトーレンの村が見えていた。
次回、ようやく主人公のアクションシーンです。