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#3

 その日、市立三好台中学校の校舎3階、東側階段に一番近い空き教室は、恐らくここ数年で最大の賑わいを見せていた。

 オレとユウの男子2名によって、放置されていた30数台の机が3分の1弱を残して他の教室へ運び出され、代わりに2台の長机が運び込まれる。

 その間、瑞季と湖浜先輩の女子チームは部屋の掃除を手掛けていた。

 もっともこちらは、互いに牽制けんせいしあったり皮肉を交えた軽口が行き交ったりと、「チーム」と呼ぶには少し語弊ごへいがある感じだったけど。

 なんやかや、ドタバタと部屋の体裁を調え終わると、いよいよ最後の仕上げが残るのみとなった。

 瑞季のレタリング、オレの彫刻、そしてユウと先輩の塗装によって完成した、我らがGIJIEBUの看板を扉に掛ける作業だ。

 船に例えるなら進水式。記念すべき船出の瞬間。

「さあ部長、お願いしますね」

 プラスチック製のフックを扉に貼り付け終えたユウが、湖浜先輩を振り返って言った。

 オレも頷きながらチェーンを取り付けた看板を先輩に差し出す。

 “GIJIEBU”の7文字はユウの手によって、寒色から暖色に向かって虹の7色に塗り分けられていた。

「え? わ、私?」

 指名された湖浜先輩はなぜか戸惑い気味だ。

 オレを含め、他の3人は逆に湖浜先輩の戸惑いの理由が分からず、互いに顔を見合わせる。

「先輩以外にだれがやるんですか? 発起人だし、部長だし、たった1人の2年生だし…。どう考えても先輩の役目ですよ、これ」

 瑞季が心底不思議そうな顔で先輩を見つめながら言った。

「川原さん?」

 普段からの小競り合い相手である瑞季にそう言われたのが意外だったのか、先輩がちょっと照れくさそうな顔をする。

 瑞季は意地っ張りで気が強く、いつもキャンキャン先輩とやりあっているが、根っこのところではきちんと道理をわきまえている。

 先輩に対し、年長者への敬意はちゃんと持っているし、創部に関わる先輩の尽力を認めてもいるのだ。

「ありがとう…、 じゃあ、お言葉に甘えて」

 先輩はホンノリ頬を赤らめながら、プレートに取り付けられたチェーンをフックに掛けた。

「曲がってないかしら…。ねえ、みんなどう?」

 先輩が一歩下がって、取り付けられた看板をキョトキョト見回しながらオレ達に訊く。

「大丈夫ですよ」

「バッチリです」

「わーい、ステキ!」

 1年生3人が口々に感嘆を込めて先輩に言った。

 クルリと先輩がオレ達の方に向き直る。

 その目が一瞬キラリと光ったのが、廊下の窓から差し込む夕陽を先輩の瞳が反射したせいなのか、それとも別の理由か、オレには判断がつきかねた。

 「みんな、どうもありがとう。これからもよろしくね」

 先輩が最上級の笑顔で言う。

 この人って、ホントに綺麗だな。

 場違いにも、こんな時に思わず先輩の笑顔に見とれた。

「GIJIEBUホッソク、おめでとー!!!」

 瑞季が「発足」を言いにくそうに詰まりながら祝福の声を上げる。

「「「おめでとー!!!」」」

 他の3人もすかさず唱和した。

 まあおめでたい場面だし、「発足」の発音は突っ込まないでおいてやるよ、瑞季。

 その時、オレ達4人が笑い合う声に混じって階段を昇ってくる足音が響いた。

 その音に最初に気付いたオレが階段に視線を向けると、他のメンバーもつられて階段の方に目を向ける。

 次第に近付いて来る足音と共に階段を昇りきって姿を現したのは、理科の担当教師であり、かつ他ならぬ我がGIJIEBUの担当顧問でもある平岩先生その人だった。

「あ、先生。ちょうど良かった」

 平岩先生の姿を見た湖浜先輩が、嬉しそうに先生に声を掛ける。

「見て下さい、この看板。今、皆で部の設立をお祝いしてたところなんですよ」

 お祝いムード一色の部員4人に対し、平岩先生は何故か浮かない表情だ。

 いや、浮かないと言うより、バツが悪いと言うか、申し訳なさそうな顔に見える。

「いや、実はな湖浜…」

 先生が重々しい雰囲気で口を開く。

 我々4人の部員達も、ただならぬ空気に表情を改めた。

「…メンバーも全員集まっているのか。ちょうどいい、中で話そうか」

 そう言って看板が掛けられたばかりの扉を開け、部室に入って行く先生の背中を見たオレ達4人は、言い知れない不安に顔を見合わせた。

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