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014 日影の街の大旦那


     ※



 友里たちは導かれるままに路地を行く。

 無秩序に建て増しされた街並みは進むほどに入り組み、まだ昼前だというのにほの暗くなっていく。沼の底に沈みこんでいくような感覚をおぼえるが、友里に恐怖はなかった。

 羽織った黒い長袖のコート。余った袖がぷらぷらと揺れる。



『なぁう』



 背中に垂らしたフードに潜り込んだサバトラが呑気に鳴いた。

 こういう場所でこそ真価をみせるだろう連れ合いが三人もいるのだ。臆する必要を感じない。故に、友里は恐れない。



「本っ当に可愛げないよなお前」



 呆れまじりに後ろで鞍馬が口をもらす。無反応の友里の顔をのぞきこみ、小声で問いかけた。



「つーかマジメな話……なにやったんだよ、山本」


「なにが?」


「とぼけんな。お前が(ガン)飛ばしてから、スゲー勢いで“畏れ”たれ流し始めたぞアイツら」



 前を行く男二人、ヘッジとその舎弟は先導しつつもチラチラとこちらの様子をうかがっている。その表情は固い。警戒されているのがよくわかる。その視線が向く先は、あきらかに友里寄りだ。



「ふーん、そうなんだ……。いや、だいたい分かるんだけどさ。……なにやったんだって言われてもね」



 そりゃこっちが聞きたいぐらいなんだけど、というしかない友里である。

 友里からすれば、ただ“観た”だけなのだが。……いや、ただ、というのも語弊があるのか。なにをやって、なにを得たのか。過程はわからずとも、その結果で得た答えだけは理解できているのだから。

 いつものように“観た”ことで得た予期せぬ結果に、友里も表には出さないが内心戸惑っていた。



 “普通”を称する周囲と“普通でない”自分とを折り合わせつづけてきた友里にとって、ヒトとは直接関わるものではなく一歩引いた場所から離れて“観る”ものである。

 “見る”のではなく、“観る”。

 それは単に視覚でとらえるのみではなく、そこからの考察と分析に重きを置くという意味である。


 人間は数多くのしがらみにとらわれる生き物だ。本能を理性で律し、ナカミをガワで隠して、真っ当を装って成り立っている。誰にでも他人には見せない裏の顔がある。それは時に当人にすら自覚がない、推察と考察によってのみ存在する本性だ。


 友里はいつでもそれを考えている。

 相手が本当は何を感じているか。何を考えているか。

 しかしそれも結局は推察と考察に過ぎず、事実がどうかはわからないままだった。


 そうーーーー分からなかった筈なのだ。普通の人間には。



「なんか……“観”えちゃったんだよね。中身っていうのか、人としての底、っていうのか」



 感覚的かつ概念的過ぎて伝えづらいが、あえていうなら“人間性”というやつだろうか。

 対面した相手、ヘッジやあの暴漢どもが、何を思って相対しているのか。暴力や笑顔の仮面の裏に、どんな思惑が隠れているのか。

 じろり見つめた瞬きの間に、ぬるりと流れ込んできたのだ。未知の感触と未知の知覚。それなのに、確信だけは揺るぎなく居座っている。


 あれがあの男たちの、“本性”であると。



(あんなにハッキリわかったの初めてだ)



 見た目と中身がさして差の無い人間もいる。実際、最初に襲いかかってきたゴロツキたちは外見と中身にほぼ差の無いロクデナシたちだった。

 それにくらべてヘッジは見た目は胡散臭いチンピラだが、中身は“話の分かるロクデナシ”だ。



「仕草とか言葉遣いとかは道化じみてるけど、どうも計算でやってるくさいし頭も回りそう。自分から悪いこと企むような気質でもなさそうだし、なにより欲が少ない。比較的善良な悪党だとおもうよ」


「けなしてるのか褒めてるのか」



 それは多分、どちらでもない。友里の眼だけがとらえた、本人にしか立証できない真実だ。

 また本性がそうでも、知ってのとおり人間社会にはしがらみがある。本音を裏切って動く人間なんて珍しくもない。問題集を解かずに答えだけ見たようなものだ。実質、意味がないともいえる。



「信じるか信じないかは、貴方次第デーース……ってやつだよ」


「ははっ、妖怪(オレたち)にソレ言うかよ」



 苦笑する鞍馬の隣で、沙雪が考え込んでいる。



「天職の影響、かしら?」


「それぐらいしか思いつかないね」


「いーんじゃねーの? そういうの。結局は手探りなわけだし、な?」


「……ん」



 こっくり頷く鋼夜。根拠のない不思議能力を直感で信じるのに、三人とも忌避感はないらしい。

 そう言ってもらえると、友里も気が楽だった。



「そういえば鞍馬。あの人たちから畏れが出てるって言ったけど、種類とか内容って分かる?」


「んー……、俺の所にきてるのは、恐怖っつーより好奇心が強いな。単純な興味ってトコだろ」



 畏れを糧にする妖怪たちは、自身に流れてくるエネルギーの種類、つまり自分に向けられている感情の種類がわかる。向けられているのが、好意なのか敵意なのか。その強さと種類によって活用できるエネルギー量が変化するからだ。



「私は……ちょっと怖がられてるみたい」



 ばつの悪そうに沙雪が自己申告する。当然といえば当然である。初対面時に刺鉄球棒をブン回していた相手が怖くないわけがない。



「……けど、まだ……人外とは思われて、ない」


「そうだな。畏れられてるっつーても、まだ人間の範疇だ。そこまで怪しいと思われてはいないな」



 鋼夜の言葉に鞍馬も同意する。



「なるほどね。あれぐらいは別に異常でもない、と」



 人を見抜くのも重要だが、人にどう見られているか、というのもまた重要なことである。特に交渉の場面において、対外的に自身がどんな印象をもたれているか知っているのは大きなアドバンテージだ。

 人畜無害な有象無象では相手にされないであろうし、驚異と見られてしまっては排除されかねない。バランスの難しいところではある。



「沙雪の異能とか見せちまったけど、それでも畏れの量はそんなに多くないんだよな」



 地球の現代日本でなら、間違いなく魔法とかのファンタジー路線なチカラなのだが。やはり本場の人間だと慣れているのか。

 つまりこの世界では、この程度の異能のチカラならば人間が行使してもおかしくない、と一般的に考えられている可能性が高い。それは正体がばれる危険が減ると同時に、異能を多少使ってみせる程度では畏れを集められないということだ。



「もう少し派手にやってもよかったかもしれねぇな? 鋼夜」


「……む」


「十分派手だったよ。あれ以上やってもエネルギーの浪費でしょ」



 妖怪は人間の畏れという感情からエネルギーを得て異能を発揮し、その異能によって人々の畏れを集める。派手に異能をつかえば消耗もはげしい。

 少ない消費で多くの畏れを得るためには、そのためのシチュエーションが必要になる。人の心が不安定な逢禍時や丑三つ時に活動するのはそのためだ。



「できればこのまま“そこそこ腕のたつ人間”の扱いでいきたいところだけどね」



 どこまでが人間で、どこからが化け物か。それを見極めるのが重要になってくる。が、



「ん? …………んー、あー、まぁ、そうか。そうだな」


「う、うん。そう……ね」


「…………」



 歯切れが悪い鞍馬。沙雪と鋼夜の顔も固い。

 それが少し気になったが、話ができたのはそこまでだった。



「着いたぜ。此処だ」



 先頭を行くヘッジが足を止めた。赤の天幕に覆われた、サーカスのように大きなテントの入口だ。



「ハッチ。お前、ちょっと先に行って旦那に言伝てを頼む」


「うっす」


「アンタたちは一緒に来てくれ。あんまり勝手に動かないでくれよ。危ないから」



 一人だけ先に走っていくのを見送って、友里たちはテントの中へと案内された。

 天幕のなかに入ると、むわりと臭気が鼻を突く。



「なにこの臭い……」


「薬の臭いだな。生薬か何かか?」



 積まれた袋と籠のなか。そこから香る、苦々しく鼻腔の奥に広がる感触に友里は鼻をおさえる。対して、鞍馬はスコスコと鼻を鳴らして頬をゆるめた。



「山の薬か。いい匂いだ」


「鞍馬って、そういうの詳しいの?」


「ガキの頃、薬師寺のバァさんにいろいろ教わったからな。けど異世界(こっち)のヤツの効能はなァ……」



 山の妖怪の鞍馬をして懐かしい匂いではあるが、それを発する木の根や草花は見覚えのない姿かたちのものもある。地球とは植生もかなり違うかもしれない。そのあたりの知識が役に立たない可能性もあるだろう。

 他には先のガラクタ横丁のような壊れた品々ではなく、真新しい食器や生活雑貨などの道具類が何十と置かれている。



「問屋さん、みたいね」


「……手広く、やってるっぽい……な」



 巻かれた布の束や魚介類の乾物まである。よろず屋といった風情だ。

 これだけ様々な物資を取り扱っているのなら、その手腕にも期待がもてる。その分、食い物にされないよう注意が必要なわけだが。



(そのへんは出たとこ勝負かな)



 さてどんな化け物が出てくるか。

 やや緊張に肩が固まるのを感じつつ、品物の並び立つ路を抜けて、通されたのは天幕の中央。少し広くとられたスペースに置かれた、大きな執務机。

 その男はそこについて、ガリガリと音を立てていた。


 右手に握る羽ペン。積まれた書類の山。物凄い勢いで文字を書き記しているのは、骨ばった印象の老人。しかし元は金色らしい髪は白みは覆えども豊かに頭上で跳ね返り、伸びて垂らされた眉の下から精強な眼差しが光っている。

 老いてなお旺盛な、噛みつかんばかりの気迫を有していた。


 やおら老人は羽ペンを置き、懐から煙管を取り出す。隣に控えていたハッチが火種を差し出した。さっと火をつけて吸い込み、一息に吐き出す。



「……紹介したいってのは、そいつらかい。ヘッジ」


「へい、そうです。どうにも、ここいらは初めてで、ルールもよく知らんようで。なかなか腕も立つようなので、ひとつ目をかけておいて損はないかと」



 うやうやしく頭を下げてヘッジは進言する。ぎょろり、と老人の眼が動く。じろりと半眼で友里たちを見据えた。ひとりひとり、値踏みするように。


 故に、友里もその眼を見返した。先のヘッジたちと同じように。


 ぴくり、と視線の交錯した老人の左眉があがる。

 幾ばくかその頑固な面構えが凍りついて、やがてぱたりと目蓋をとじた。



「ふん……」



 再び、煙草を一服。

 吸って。吐いて。そして言った。



「……まどろっこしいのは抜きでいこうか。いったい何が入り用だ? 魔族の兄ちゃんがた(・・・・・・・・・)



 開けた両目に覚悟を宿して、主人の翁は波紋を呼び込む一石を投じてきた。



     ※



 ナニヲイッテンダコノヒトハ。

 ヘッジはそんな思考を捻り出すのが精一杯だった。



「いや、魔族ってのも違うのか。人間でも、獣人でもない。……ようわからんな。そっちの嬢ちゃんは人間みたいだが」



 旦那の目利きに間違いはない。全幅の信頼を置いている。つまらない冗談を言う人でもない。

 しかしだからこそ、自分がとんでもないものを引っ張ってきたという事実を否定してほしかった。



「へぇ……。随分と目が肥えてるな爺さん」


「生憎とそれが生業だ。根性は腐っても目ン玉が腐っちゃあ話にならん」



 否定もせず、感心の目を向ける男。

 人間でも獣人でもない。しかしヒトのかたちをした何か。ならばこの世界でその残りはひとつに決まっていた。



(うあああああぁぁぁえれェモン引っ張ってきちまったぁぁぁぁあッ! 俺の馬鹿ぁぁぁぁ!)



 外面をどうにか保ったまま、ヘッジは心の中で絶叫する。とりあえず今すぐにでも逃げ出したい気持ちになるのを、なけなしの根性で耐える。せめて弁解のひとつも旦那にしていかないと立つ瀬がない。


 旦那の指が机を二度叩く。それにあわせて、物陰で気配が動いた。

 見えない場所でうごめくのは旦那直属の護衛たち。暗がりが住処の彼らは合図ひとつで敵対勢力の首を獲りにくる。ヘッジも符丁を知らなければ察知は難しい。


 しかし来訪者たちは一斉に周囲へと気を張りつめらせた。油断なくちろちろと視線をめぐらせ、それぞれが得物に手を延ばし身構える。



 一触即発の空気を引き留めたのは、ひとりの少女だった。


 来訪者のひとり、黒衣に猫を背負った少女が右手を掲げて仲間に制止をうながす。

 一歩前に出て、旦那の真正面に立った。そのゆらりとした所作は揺れる柳のようで、しかし不思議と古木のような静けさと足元の強さが見える。



「貴方が、この界隈で一番の顔役と聞きました」


「ふん……。まぁ、顔役といえるかは知らんが手広くやってるよ」



 素知らぬ風で答える旦那。百戦錬磨の仲買人の面の皮は、中身をはみ出させるほど薄くない。 


 しかし相対する少女は、一行で唯一人間と認められながら最も得体がしれない。

 あの凶悪さも凶暴さも見えない代わりに底が見えない眼差しに覗き込まれた瞬間感じた、かつて旦那に全力で“査定”されたときの感触にかぎりなく近いそれ。なにかしらの職持ちだと踏んで掘り出し物かもしれないとすら思っていた半刻前の自分をしばき倒してやりたい。



「少々誤解があるようですが、私たちは別に喧嘩を売りにきたわけでも、あなたがたを強制的に従えにきたわけでもありません。純粋に売り込みと、取引にきました」


「取引……はわかるが、売り込み?」


「ええまぁ、要するに“お金”と“情報”が欲しい。それを手に入れる場がほしい。それだけのお話です」


「ふん。化け物に働いて銭を稼ぐ殊勝さがあるとは、聞いたことがないな」



 旦那の言葉に、心外だとでもいいたげに少女は息を吐いた。



「こちらでどうかは存じませんが。少なくとも私らの地元では、彼等ほど律儀なものもありません。ある意味で人間以上に正直で、その在り方に偽りはない……と言ったところで根も葉もない話ですな。そんなものは自分の“眼”で見て確かめるもんです」



 ぴくり、と旦那の眉尻が上がる。



(……あ、なんかヤバい気がする)



 今さらになって再起動しはじめたヘッジの危機察知力もピキリとうごめいた。


 見える。見えない。それは目利きの腕で生き延びてきた旦那にとっては鬼門といえる事柄である。



「……何が言いたい」


「なに簡単なこと。貴方には選択肢がある。我々を拒絶して見なかったことにするか。懐に入れて利用するか。得体のしれない怪物に自分の庭をうろつかれるのと、腹を割って理解したうえでうろつかれるの、どっちがいいかってお話です」


「今すぐこの街から出てけ、って言ったらどうする?」


「言われたぐらいで逃げるタマじゃあございませんが……。まぁ敵対するなら遠慮なく、獲るもの獲ってトンズラするまでですな」



 敵となるならのお話ですが。

 あくまでもそう念を押して少女は語る。こともなげなその台詞に気負いは無く、ただ事実を言っているだけのようだった。



「交わした約束は守りましょう。が、交わす気がないならそれまでです。こちらも好きにさせてもらいます」


「させると思ってるのか?」


「できないと思いますか?」



 言葉は交わせどぬらりくらり、はためく布のごとく怒気も殺気もすり抜けて。少女はただ、舌鋒をむけてくる。



「ヒトにはできないことが、我々にはできる。それを使うか使わないか。どれだけ此方に踏み込んでくるか。それは貴方の胸の内ひとつ、ってことです」



 悪魔の問いかけのような物言いに、ヘッジの喉が渇きをおぼえる。


 ……選択を相手にゆだねているようで、その実体は押し売りに近い。

 ヘッジが彼らに対して唯一わかっているのは、先のひと悶着からして相当な辣腕をもつ集団であるということだ。すくなくとも日影街で最も大きい非合法組織の一角を相手に、正面から喧嘩を売ることができるぐらいには。


 それを自陣に引き込めるとなれば、その利益は計り知れない。正体がなんであれ単純に強いというのは、それだけで意味がある。

 拒絶して目を離せば何をしでかすかわからない危うさもある。敵対しても不利益にしかならないが、受け入れれば利にもなる。あとの問題は、それを制御できるか。それが周囲の眼にどう映るのか。そしてなにより、信用できるかできないか。そういう問題だ。


 本来、それは初対面で得られるものではない。


 だが旦那はその目利きの鋭さで鳴らした男だ。物であれ、人であれ。その値打ちを、能力を、性質を。誰よりも素早く理解する“眼”が今の旦那をつくっている。

 旦那の眼には今も、ヘッジには見えないものが見えている筈だ。


 しかし旦那は今、こうも言っていた。“ようわからん”と。

 旦那が相対した者にむかって、そんな曖昧な評しかたをしたのをヘッジは初めて耳にした。


 そこで少女は、その自信と自負に問いかけたのだ。

 “見なくていいのか”と。

 “わからないまま、切り捨てていいのか”と。


 目利きの生業の天敵は“無知”だ。このまま逃がせばそれを知る機会はない。いつか再びまみえたときに、それを知っているかいないかは大きな差だ。

 それは単純な戦力として売り込むよりも旦那に対しては魅力的な“利”となる。


 選択肢をしぼり、一瞬で効果的な餌を見極めてちかつかせ、引っ張りこむ。

 余程に弁舌に長けていなければできない芸当だった。


 旦那も海千山千の商売人だ。そんな相手の思惑がわからない訳がないだろう。

 しかし、だからこそヘッジは胃が痛い。この後の展開が予想できたからだ。


 旦那はニヤリと笑みを浮かべて、少女の言葉を呑み干し返した。



「……いいだろう。話をしようじゃねぇか。腹を割ってな」



 タタンッと素早く二度、机が鳴る。静かに素早く、剣呑な気配が引いていく。


 ーーーー老獪にして大胆な統率力をもって日影街の一角をになう大旦那が何より好むのは、金銭でも、希少な神術具でも、神代の古美術のたぐいでもない。


 人間。それも使いでのある、価値ある“人財”。


 それは異才か。異能か。天から授かりし職能か。有用とあらば異人種でも異端者でも忌憚なく取り立ててきた。


 堅物で疎まれた神官崩れ。

 獣人の国の追放者。

 天からの“職”に呪われし幼児。


 世間では蔑まれるような連中を敢えて引き込み、使えるようにする。それが旦那の実益を兼ねた“道楽”。


 魔族を従えて現れ、喧嘩まがいに取引をもちかける異国の少女は旦那の食指を動かすのに充分であったようだ。浮かべた会心の笑みがその証拠。

 神殿にバレれば異端審問はまぬがれないが、そんな程度の危険性では二の脚を踏む理由にもならないらしい。



 ーーーーこの世を楽しむにはな、時たま“酔狂”を起こしてみるもんだ。損得ばかり考えてるとつまらんじゃろがぃ。



 いつだったか言っていた台詞がその笑みとかぶる。自身も周囲も捲き込んで、全身全霊で“酔狂”に取りかかるときの面構え。


 それに部下の自分が捲き込まれるのは必定である。



(はっははーー………………超逃げてェ)



 きしむ頭痛に額をおさえたくなるのをこらえ、遠い目をしたヘッジは心の中で乾いた笑いを響かせるのだった。


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