第5話 『冒険者ギルド』
アレクは今馬車に揺られ、ミッドランドに向かっている。
しかし、アレクは苦々しく顔を歪めていた。その原因は、同乗者である。
「ねえ、ルシオ。今日はどんなお仕事なの」
「街近隣に出没するモンスターの狩りかなぁ、ジェーン」
そう、今アレクの前には先ほど別れを告げたばかりの両親が仲良さげに会話をしているのだ。
「父さん母さん」
「俺は仕事だぞ。お前とたまたま一緒の馬車になっただけだ」
「なら母さんは何で一緒に来てるの」
「私はね、アレクもいなくなっちゃったから、仕事復帰でもしようかなぁ〜なんて思って冒険者ギルドに行くとこよ。はは」
「まったく。フゥ〜」
アレクはそんな両親に呆れ、ため息をこぼしながら、ミッドランドに向かうのであった。
ミッドランドは俺の住んでいたファルマ村からは馬車で1時間のところにある。歩けば行けない距離ではないが、馬車は定期便として村からはミッドランドまでタダで乗せていってくれるので、アレクとしても早く冒険者ギルドに登録を済ませ、今日にでも狩りに行きたかったため、馬車を利用していた。
そして馬車はミッドランドに到着した。
俺はミッドランドに今までも父さんと一緒に来ていた。もちろん冒険者ギルドの前にまでは行ったことはあるが、中には入っていない。
冒険者ギルドは、門をくぐったすぐの大通りを真っ直ぐ3分ほど歩いた右手にある剣と杖が交差した模様の看板が目印の大きな建物だ。
アレクは、父ルシオと母ジェーンと一緒に冒険者ギルドの扉を開け、中に入っていった。
部屋に入ると酒場みたいな席から声が掛かる。
「よお、ルシオ。今日は休みじゃ?」
「おう、ジルか。まあ暇なんで来た」
「そうか・・・。ジェーンさんも一緒なのか、珍しいなぁ。ジェーンさんは何しに?」
「ジルさんこんにちは。えーっと、まあ職場復帰でもしようかなぁー、なんてね」
「そりゃいいや、ジェーンさんは優秀な魔法使いだからなぁ、今度ぜひ一緒にハントしに行こうや」
「優秀って、ジルさんったら」
アレクはそんな両親とジルとの会話は無視をし、受付に向かった。
「すみません」
「はい、何か御用ででしょうか?」
「冒険者ギルドへの登録手続きをしたいのですが」
「登録ですね」
受付のお姉さんは20代前半の美人な方だ。受付のお姉さんはカウンタの下から紙を取り出し。
「ではこちらにお名前と年齢。あと希望の職業を記入して下さい」
「わかりました」
(名前はアレク。年齢は15。職業を特になし)
「はい、書けました」
「アレクさんですね。えーっと、職業なんですが、なんでも良いので記入いただけませんか?」
「すみません、まだどうしようか迷ってるんです。あっそうだ。一番需要のある職業って何ですか?」
「えー、今は魔法使いの人が少ないので、魔法が使えるのでしたら、ぜひお願いしたいのですが」
「わかりました。じゃあとりあえず魔法使いで登録して下さい」
「はい、わかりました。ただアレクさんはどんな魔法がお得意なのでしょうか?」
「一通りはできます」
「えーっと、得意な魔法ってないですか?」
そこへ突然横やりをいれる人物がいた。
「キャメロットちゃん、アレクは天才だから何でもできるぞ」
「ル・ルシオさん。突然なんですか」
「アレクは俺の自慢の息子だ。だから何だって依頼していいぞ。なんならいきなりランクAの仕事だってこなしちまうぞ。ハハハ」
「父さん。すみません今の無視して下さいね」
「何だよアレク、冒険者は実力主義だ。だからお前は自信を持て」
「アレクさんは、ルシオさんのお子さんだったんですね」
「はい」
「大丈夫ですよ。親バカな人はたくさん見てきていますので。それで得意な魔法はどうしましょう」
「そうですね...でしたら火にしておいて下さい」
「火ですね、わかりました。確かにこの近辺は火を弱点に持つモンスターが多いですから助かります」
アレクには火の魔法に需要があることはモンスターの種類によって予想できていた。アレクにとって、これ以上父ルシオが変なことを言わないように早々と済ませたかったからである。
「ただアレクさん、モンスターハントはランクEから可能性になります。初登録ですとランクはGからになりますが、ランクEの試験をお受けになりますか?」
「いきなりランクEになれるんですか?」
「はい、ただ難しいというかなんと言うか。ほとんどの方は落ちてしまいますので」
アレクはランク制度のことは知っていたので、ランクGとして誰かのパーティに入り、そこで経験を積みランクをEまで地道に上げるつもりでいたのだ。しかしいきなりランクがEになるのであれば、ソロでモンスターのハントが行えるので、アレクの計画を一気に早められると考えた。
「もちろん受けます。試験は何をしたらいいのですか?」
「まず筆記試験を受けてもらいます。その試験が合格したら、次は実技試験として模擬戦闘をしてもらいます」
「わかりました。でもなんで殆どが受からない...そっか、冒険者の多くは体力自慢だから、筆記が難関なんですね」
「はい、そうなんですよ。言葉は悪いですが脳筋の方が多くて。でも冒険者にとってモンスターのことや素材の剥ぎ取り、魔法についてだってとっても必要なことなんですよ。だから覚えてもらわなきゃならないことばかりなんですが、新米の冒険者さんはその辺が全然わかってくれなくて」
「そうでしたか。ちなみに落ちた時のペナルティってあったりするんですか?」
「いやペナルティはありませんが、試験料として銀貨2枚が必要になります」
「おーい坊主、試験なんてやめときな。あんなもんはギルド職員の小銭稼ぎだ。金の無駄だぞ」
「そんなことありませんよ〜だ。アレクさん気になさらないで下さいね。ちゃんと出来れば、受かるんですから」
「はい。じゃあこの後どうしたら?」
「えーっと、まずは先払いで銀貨2枚をお支払い下さい」
「ちょっと待っててください」
【マジックバック】
マジックバックにしまった布袋から銀貨2枚を取り出し、アレクはそれをキャメロットに渡した。
「アレクさん、空間魔法も本当にお出来になるのですね」
「はい、かなり便利です」
「羨ましいです。っとそれは置いといて。ではアレクさん、奥の部屋にお入り下さい。すぐに準備をしますので」
「わかりました」
アレクはキャメロットに奥へ案内された。その部屋は学校の教室のように机と椅子が幾つか置いてある部屋であった。アレクは適当なところに座り待っていた。
数分後、キャメロットが問題用紙のような紙の束を持って、部屋に戻って来た。
「では、こちらが筆記試験の問題です。制限時間は基本的にありませんが、出来たら受付に持ってきてください」
「はい、わかりました」
「では、始めてください」
そしてアレクの筆記試験が始まった。
まず、アレクは問題に全部目を通した。
(ふーん、やっぱり予想通りだ)
問題はキャメロットがポロっと言った内容以外にも、歴史や言語問題。さらには算術もあり、しかもその算術もかなりいやらしい問題だった。
(なるほどね。あながち小銭稼ぎって言っていた人のことが正しいかも)
しかしアレクにはまったく問題ない。答えがあるのであれば答えられない項目はないに等しい程、アレクは知識を広げていた。
アレクはルシオとミッドランドに何回か来たが、アレクはその間図書館に行き、勉強していたのだ。だから、レグス特有の事でも知っていた。
数十分後
アレクはすべての問題を完璧に答え、部屋を出てキャメロットの元に向かった。
「キャメロットさん、出来ました」
「アレクさん、随分早かったですが、やっぱり無理でしたか?」
「いえ、全部やりましたよ」
「えぇっ。では答え合わせをして来ますのでお待ち下さい」
「はい」
キャメロットは答案用紙を持って、階段へと駆けて行った。
数分後
キャメロットは戻ってきて
「アレクさん、合格です。では実技試験をやりますので、訓練場に向かいます」
「はい」
明らかにまわりから信じられないといった視線を感じいたが、アレクはそれを無視して、キャメロットの案内のもと訓練場へと移動した。
その間、息子を自慢げに語る父ルシオと母ジェーンに気づいていたが、当然それも無視である。
アレクは訓練場に来た。訓練場はギルドの裏にあり、結構広めのスペースで、50m X 100mぐらいの大きさはあった。
そこでは冒険者と思われる人が3人でトレーニングしている姿はあったが、ガランとしている。
「アレクさん、今から相手が来ますので、その方と模擬戦闘を行って下さい。勝敗は関係ありませんので、別に勝てなくても不合格にはなりませんから、ご安心ください」
「はい」
それからすぐ、奥の方からガタイのいい、マッチョマンがゆっくりとこちらに歩いてきた。
「ほっほぉ〜、お前がアレクだな。いや〜、筆記試験の突破者なんて久しくなかったんでなぁ〜。あっぱれだ」
「ありがとうございます」
「じゃあ早速始めるか。俺はゴードン。ミッドランドのギルドマスターをしている。ギルドマスターの前はランクAの冒険者だったから思いっきりこい」
「わかりました」
アレクはまず剣は抜かず、魔法で攻めることにした。
アレクは普段からサーチフィールドを展開している。その中で濃度を変え、様々な状況に合わせるようにしていた。
アレクの魔力感知の結果、ゴードンは元ランクAということもあり、確かに凄い力を秘めていることはわかっていた。ただアレクは出来るだけ善戦したように見せる戦いを演じるためにも魔法での遠距離攻撃を選択したのだ。
【ファイヤボール】
野球のボールサイズの火の玉をゴードンに撃ちはなった。ゴードンはアレクのファイヤボールを横に跳ぶことでかわし、アレクに向かってきたが、そのときゴードンにとってはかわしたはずのファイヤボールが背中にあたり、前のめりに吹っ飛んだ。
アレクはただの火の玉ではなく、感知と空間魔法を火の魔法に組み合わせ、誘導弾にしていたのだった。
アレクはそっとしゃがみこみ、地面に手を触れ
【アースジャベリン】
前のめりに吹っ飛んでいたゴードンは、突如地面から浮きでできた土の槍をもろにくらい、今度は後方に吹っ飛ばされた。
ゴードンは後ろに吹っ飛ばされるが、さすがは元ランクA。空中で一回転し、体勢を整え着地。そしてアレクを確認する。
【ファイヤボール】
ゴードンの前に、今度は3個の火の玉が展開されていた。
(まじで15になったばかりのガキか)
ゴードンは先ほどの経験で回避出来ないと判断し、身体強化を防御のみ集中し、火の玉を耐えることを選択した。
しかし、アレクの放ったファイヤボールは先ほどのものとは効果が違い、ゴードンに着弾すると同時に弾け、ドロドロの液体がゴードンにまとわりつき、身動きを封じた。
「うぁ、なんだこりゃ、気持ち悪りぃ」
「粘着液です。これで動きを封じさせてもらいましたが、まだ続けますか?」
「いや、もう終わりだ」
「ってことは、合格ってことで良いんですよね」
「合格だ。しっかし、これなんとかとれるんだよなぁ」
「はい、ちょっとお待ち下さい」
アレクはゴードンに近づき、干渉魔法で粘着液を分解した。
「まったく筆記試験と言い、実技まで。とんでもない奴だ」
「どう致しまして」
「おーい、キャメロット。ランクEの手続きをしてやれ」
「わかりました、ゴードンさん」
(しかし、ファイヤボールだけじゃなく、本当ならさっきのアースジャベリンとかいう魔法で俺を串刺しに出来たはずだし、元ランクAの俺が手加減されるとわなぁ)
こうしてアレクのランクE試験は合格となり、アレクははれてランクEの冒険者として活動できるようになるのであった。
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【魔法紹介】
魔法名:ファイヤボール
種別:火属性魔法
効果:火の玉を相手に放つ。ただしアレクの場合、火の玉に様々な効果を持たせる。
魔法名:アースジャベリン
種別:土属性魔法
効果:地面から土で出来た槍を出現させる。
読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。