第4話 『旅立ち』
あれから5年、アレクは剣術と魔法の稽古を繰り返してきた。
剣術については父親であるルシオとの組手。初日では、お互い本気でのやり取りになったが、それからは本気とまではいかないが、充実した剣の稽古は出来ていた。
父ルシオに至っては、息子アレクとの稽古のおかげもあり、冒険者としてのランクもBに上がっていた。
アレクは剣の稽古中、少しでも効果があればと、手と足にそれぞれ干渉魔法で作った自分に負荷をかけるパワーリストとパワーアンクルを装備し、戦っていた。
魔法について言えば、質と量の稽古を満遍なく行ったこともあり、得意不得意なものはなくどんな組み合わせでも対応できるようになっていた。魔力感知である『サーチフィールド』に関して言えば、感度を下げれば、半径30Kmまでわかるようになっていた。ちなみに母ジェーンの魔力感知の範囲は半径1Km。
それに関わる魔法としては、魔力感知から逃れる方法として、自分の周りに干渉魔法をはりめぐらせる魔法として『ジャミング』という方法を編み出していた。これにより、魔力感知には一切引っかからない状況を作れるようになっていたのだ。
剣術、魔法ともにこの5年であり得ない成長を成し遂げていたアレクであるが、両親を含め周りの人たちに一切気付かれないようにしていた。
アレクの計画では、まだ目立つときではないからだ。
では、なぜアレクは目立たないようにしてきたかといえば、それは年齢の点だ。やはり15歳は世間からはまだガキであり、見た目だけで損をしてしまうからである。
レグスでは15歳は独り立ちする年齢とはいえ、上に立つ存在には向かない。これもありアレクの当面の目標は、歳をとることでもあるが、その間にやれるだけのことは秘密裏に進めようと考えているのであった。
そうして今日俺は15歳の誕生日を迎えた。
「「アレク、誕生日おめでとう」」
「ありがとう、父さん母さん」
「アレク、お前も今日から一人でいろいろとやっていける訳だが、冒険者でいいんだな」
「うん、冒険者ギルドに所属するよ」
「わかった。早速登録にいこう」
「はい、父さん」
「っとその前にちょっといいか」
「うん?」
父ルシオはモンスターハントに行く格好で鉄の鎧をまとい、腰にはロングソードを着け裏庭に向かった。
登録に行く事もわかっていたため、アレクも革の鎧に10歳の誕生日に父から貰ったショートソードを身に付けていた。そんな格好でルシオの後を追い、裏庭に行った。
アレクとルシオは向かい合って立っていた。
「アレク、登録の前にどうしても試しておきたい」
「何だい父さん?」
「お前は10歳の初めての稽古を覚えているか?」
「うん、父さんにヤられたこと?」
「そうだ。しかし、お前はあれ以降、俺と本気で立ち会う事をしていなかったなぁ」
「まあ、稽古だったし」
「それはそれだが、正直俺はお前と本気で立会いをしたい。だから今から本気で俺に向かってこい」
「ルシオ、何考えてるのよ〜」
「ジェーンは黙っててくれ。これは男と男の決闘だ」
ルシオは腰に着けたロングソードをゆっくりと抜き、アレクに向って構えをとった。
「父さん…本気なんだね。しかも真剣で」
「そうだ」
「…父さん、正直に言うよ。本気を出したら、父さんでは相手にならないよ」
「わかってる」
「そっか、じゃあ今まで15年間育ててくれたお礼に僕も本気を見せるよ。もちろん魔法も織り交ぜるよ」
「当たり前だ。俺も使わせてもらう」
アレクはそっとパワーリストとパワーアンクルに触れ...
【パワーリリース】
と小声で唱えた。
「父さん、いつでもいいよ」
その掛け声とともにルシオは、アレクに向かっていった。
ルシオは、干渉魔法により身体強化ですべての力をアップさせていた。その突進は今までの稽古とは比べ物にならないスピードだった。
しかし、アレクに至っても身体強化ですべての力をアップさせていた。それは動体視力も含めてだ。
アレクとルシオについて、魔力に関してはアレクに軍配が上がる。ルシオがいくら身体強化の魔法に特化していたとしても、身体強化の魔法の点でもアレクは凌駕できる程の差があった。
さらにアレクはパワーリスト・パワーアンクルを解除することで筋力に至ってもルシオを圧倒していた。
そんな二人の差があり、ルシオの本気の突進と言えど、アレクにはまったく通用することなく、軽く横に跳び、ルシオの突進をかわす。
ルシオはアレクを目で追うことができず、右左と確認し、左側にアレクを見つけ、ロングソードで切りつけるも、アレクはそれを簡単に紙一重で回避していく。その後もルシオの猛攻は続くが、アレクは余裕を持って回避を続けていた。
そんなルシオの攻撃に対して、アレクは一旦バックステップで距離をおくように離れる。
「父さん、そろそろこっちから行くね。たぶん次で終わるけど」
「ふん、生意気なこと言いやがって。かかってこい、今度は俺がすべて避けてやる」
ルシオは口で強がりを言ってはいるが、息子との力の差が歴然であることに気付いていた。
(次で終わりか・・・)
ビュン!
アレクは一瞬でルシオとの間合いを詰め、突きを放った。
ルシオはそんなアレクの動きを当然目で追うことはできず、気付けばアレクが体を預けるように懐に入られていた。アレクの突きはルシオの腹のあたりを貫通し、背中からアレクの剣が飛び出していた。
「あ・あぁ、うそ。ルシオ~」
その光景を見たジェーンはルシオに駆け寄った。
「アレク、何でなの?」
...
「母さん」
「アレク、何で何で、父さんをそこまで」
ジェーンはアレクの胸に飛び込み、今にも泣きだしてしまいそうにアレクの胸を叩いた。
「母さん、大丈夫だよ。良く見てよ、僕は父さんを刺してなんかいないから」
「で・でも」
アレクはそっと母ジェーンの肩に手を置き、ジェーンをルシオの方に向けた。
「あれ、あれ。ジェーン、俺なんか平気みたい・・・」
「えっぇ。でも確かに・・・」
「ごめんね、驚かしちゃって。空間魔法を使ったんだよ。父さんのお腹に空間魔法を展開し、それを背中から出したんだよ」
「なるほど...ってアレク、冗談もたいがいにしときなさいよ!」
「ごめん。ただ父さんと母さんにわかってほしかったんだ。僕の力を」
「アレクの力って・・・」
「正直に言うね。僕はまだこれでも本気じゃないんだ。まだ上がある。でもこれではっきりわかったと思うけど、僕は父さんよりもはるかに強くなった」
アレクは一度顔を下げ、決心し、再び顔を上げ二人に向かって。
「父さん、母さん今までありがとう。僕は家を出るよ」
「アレク、何言ってんの。だって、まだ住むとこだってないでしょ」
「うん、でもそれも含めて自分で何とかするよ」
「せめて、住むところが決まるまでは家にいたら」
「ジェーン、やめなさい。アレクが決めたことだ」
「でもルシオ・・・」
「アレク、ほれ」
ルシオはアレクに布袋を投げた。
「選別だ。銀貨10枚しかないが2,3日なら十分やっていけるはずだ」
「ありがとう、父さん」
「まぁ、そうは言っても、アレク、お前は冒険者ギルドに入るんだろ。なら顔を合わせることも多いだろうけど、困ったら家に帰ってこい」
「そうだね。でも家には帰らない」
「アレク、母さんはどうしたらいいのよ」
「ごめんね母さん。でもそうだね、たまには顔出しにくるよ。ただ当分はミッドランドに住むから安心して」
「うっう、そうね、母さんもミッドランドに頻繁に行くわ」
「じゃあ、本当に今までありがとう」
アレクはその後自分の部屋に戻り、身支度として着替えと自分の貯めた銀貨2枚をルシオからもらった布袋に入れ、すべての荷物を
【マジックバック】
空間魔法で作った自分用の空間に準備した荷物を入れ、家を出ていくのであった。
そうして、アレクの冒険者としての人生が始まるのであった。
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【魔法の紹介】
魔法名:サーチフィールド
種別 :干渉魔法
効果 :空気中に自分の魔力を干渉させ、それを分布する。
分布した魔力に対象者が触れることで、相手の魔力などを感知する。
分布する濃度によって、相手の詳細情報が変わる。
魔法名:ジャミング
種別 :干渉魔法
効果 :自分の周りに魔力を鑑賞させ、他の人の魔力感知を妨害する。
魔法名:パワーリスト、パワーアンクル
種別 :干渉魔法&錬金魔法
効果 :自分の手と足に装備することでおもりとなり、負荷を与える。
それにより筋トレの効果がある。
パワーリリースで解除する。
魔法名:ライトヒーリング
種別 :光魔法&干渉魔法(回復)
効果 :光に変換した魔力に回復効果を持たせた魔力を放出し、
対象物に干渉し、傷を治す。
魔法名:マジックバック
種別 :空間魔法
効果 :自分の前に別次元の空間を作り、その中に物を入れる。
物を詰めることができる空間は込めた魔力によって大きさが変わる。
生物を入れることはできない(ただし植物は可)。
読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。