第9話
≪正暦124万2247年6月1日 正界 セーヴィル≫
セーヴィルは辺境の港湾都市である。
港を中心に発展した都市で、正界の都市の中では比較的新しい部類に入る。
そして、他の特徴として――――――落人が主に現れる地区、“落人の里”というものがある。
地域であるため“里”という表現に違和感はあるのだが、いつからかそう呼ばれていた。もちろん雫など、ウラーミルのような“里”の外に現れる者もいる。
「ただいま」
「高千穂!?今までどこに行っていたの!」
「マフィアの連中に捕まっちゃって……危うく奴隷として売られるところだったよ。
運良く逃げてこられたけど」
島津高千穂が2か月ぶりに家に帰ると、双子の姉の霧島に出迎えられた。
高千穂たちは3年前、このセーヴィルに現れた。彼女らが生きていた世界は、雫とは別の世界だ。
「どうやって帰ってきたの?」
「2日前の夜にね……黒装束の人がやってきて、助けてくれたんだ。
多分抗争じゃないかな?ボクたちが捕まっていたのは闇市場が開かれるような建物だったらしいのだけど、多分商品をダメにするために侵入してきた敵対マフィアの手先……だと思う。
結構強かったよ。なかなか鍛えられてた」
「それで?」
「で、その人が正面玄関の見張りを倒して……その時ついでに部屋の中にあったお金をちょっと頂いてきたの。それで列車乗り継いでここまで来たわけ」
「……泥棒してきたわけね」
「良いでしょ別に。どうせまともに働いて手に入れたお金じゃないだろうしね」
「それはそうね。
……その街の事、いろいろ教えてちょうだい」
「了解」
高千穂たちはこの世界に来て、セーヴィルを出たことはなかった。そのあと高千穂は霧島に、拉致されてからの2か月で経験したことを話し始めた。
「ところで、助けてくれた人ってどんな人だったの?」
話し終え、食事の準備をしていたとき、霧島は恩人について何も聞いていないことを思い出した。
「んと、……多分女の人じゃないかな?本名じゃないだろうけど、アークレックと名乗っていた。
コードネームだろうね」
「そう……もし会ったらお礼言わないとね」
「まさか。二度と会うことは無いでしょ」
「まあ、それもそうね」
高千穂も、霧島もアークレックこと雫と会うことは二度とないだろうと思っていた。
――――――運命とは複雑怪奇である。彼女たちは、そのことを忘れていた。
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鉄道はあります。ただし、蒸気機関車レベルですね。
次回投稿は26日19時を予定しています