第3話
≪正暦124万2245年3月24日 正界≫
3日後。
雫は街中を彷徨っていた。
正界にやってきてから碌に食事もしていない。
職を探すにも、どこからも雇ってもらえない。
雫の様に“別の世界”で死んで正界にやって来た者の事を、“落人”と呼ぶ。
ある日突然、別の世界から“落ちて”来る。故に“落人”。
彼らのほとんどは誰の記憶にも残らず、現れた時と同様にいつの間にか野垂れ死にする。
正界の住人は素性のわからない、彼らを雇うことはほとんどしない。
「……どうしてこんなことになったの?」
自分の人生はどこで間違えたのだろうか。雫がそう考えたのも一度や二度ではない。
ソリダリエタに反発した時だろうか?
軍士官学校に入学した時だろうか。
――――――ソリダリエタに生まれた時だろうか?
今はその選択肢に、「この世界に来た時」も加わっている。
3日。初めて自由に生きることが出来た時間。
あまりにも短いが、もうすぐ終わる。このままあと少しで自分は餓死する。突然声を掛けられたのはそう思っていたときだった。
「そこの嬢ちゃん、ちょっといいか?」
雫が頭を上げると、一目で“その筋”とわかる風体の男が立っていた。
「……何でしょうか?」
「あんた、何の仕事してるんだ?」
「していません。3日前に来たばかりなので」
「なるほど」
「一人足りない仕事がある。やってみないか?」
それが後ろ暗い仕事である事は承知だった。
だがその時雫にには、他に選択肢は無かった。
「やります。よろしくお願いします」
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