クリスマスのいたずら 後編
ドンドンと扉を叩く音で目が覚め、蛍は半分寝ぼけながら扉を開けると、可愛らしい女の子が半泣きで立っていた。
「どちらさまですか?・・・あれ、声枯れたのかな」
「ほ、ほ、」
女の子は私を指差しながら蒼白な表情で叫び声をあげた。
「蛍が男になってる~~~~~~」
叫び声に気づいたのか、ミリアとフィアが飛んできたが、離れた場所で私達をガン見するような表情で立ち止まった。
「二人ともどうしたの?・・・・・もしかしてこのお嬢さんってリーリオだったりする?」
自信なさげに言う蛍の言葉にリーリオはコクンと頷きながら、とうとう泣き出した。
さすがにこのままでは、変な噂が流れてしまう、そんな事を考えながら、未だ泣いているリーリオを部屋に入らせた。
「それで、どうして二人は私までガン見しているの?」
「蛍様・・・・お気づきではないかもしれませんが・・・・お体が・・」
はあ、体・・・・うわ、胸がなくなってるよ、どうりで声が低いはずだ、リーリオが私を指差してたのは
これが原因か・・・はあ
「私も変わってるね・・ミリアは大至急、クルスさんとサフィロさんを、フィアは私達に合う服を大至急用意」
その後、用意してくれた服に着替え、クルス達が来るのを待っていたが、中々リーリオが戻ってこない
フィアに呼んでくるように頼むと、やっとリーリオがやってきた。
ちなみに、体格の都合上と見た目の為に、私はホロシャツに黒のズボンにリーリオは可愛らしいピンクのワンピース(これがまたよく似合っていた)を着た。
さっきより幾分落ち着いてはいるようだけど、さすがにワンピースを着るのは不満だったらしく、また涙目になっていた。
「仕方がないでしょう、今は我慢しないと」
「何故だ、朝起きたら女になっているし、蛍は蛍で男になって居て、私より男らしいし、スカートは歩きにくいしスースーするし、せっかくのクリスマスなのに」
う~ん、気持ちは判らない訳じゃないけど、私の方が男らしいって・・・おいおい、さすがに私の方が落ち込むって
「これは、また見事に性別が入れ替わっていますね、魔法で帰られた可能性はありますか?」
「いえ、魔法や呪いの形跡などは一切見られませんね」
いつの間にか来ていたのか、クルス達は蛍達をマジマジと眺めながら、話していた。
蛍はミリアにお茶の用意を頼みながら、いまだ泣きそうなリーリオをソファーに促した。
「魔法などではないのですか?サフィロさん」
「はい、通常の場合は魔法や呪いの場合は形跡が必ず残るのです、性別が入れ替わっているのはお二人だけの様ですので、何か共通している事などなはないでしょうか?」
「共通点~共通点~、あっ、あのアロマポットでしょうか?昨日クリスマスプレゼントにリーリオに贈りました、私も色違いを作ったので」
「可能性は無いとは言えませんね、持って来てもらえますか?」
蛍は自分の寝室に置いてあるアロマポットを持ってきた。
「見た所、普通のハーブですね・・・お借りしてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
サフィロはそのままアロマポットを預かり、自分の研究室に戻って行った。
不安げなリーリオを励ましていると、それを見ていたクルスさんは微妙な表情を浮かべていた。
「どうかしました?」
「いえ、男らしいなと思いまして」
クルスにまでそう言われてしまい、ちょっと悲しくなってきた蛍は話題を変えるべく、今後について切り出した。
「どうします、解明されるまで私達・・・・」
「それでしたら、殿下は私のいとこでセレジェイラ様に会いに来た令嬢リーリア嬢という触れ込みにいたしましょう、蛍さんはリーリア嬢の護衛騎士というのは如何ですか?」
クルスの提案にリーリオは全力で嫌がったが、拒否権は魔王|クルスの前には存在しなかった。
渋々提案を受けいれ、細かな設定を決めていた時、調べていたサフィロが戻ってきた。
「サフィロ~~~~、早かったな~戻る方法分かったのか?」
半泣きでサフィロに縋り付くリーリオもといリーリアの可愛らしさは半端なく、中身が分かっているクルスですら赤くなっていた(もちろんサフィロも)
「ええ、原因は簡単でしたよ、蛍さんが調合したハーブには人間に変化の作用を与えるものがあったようです、ミリア嬢から確認をとりましたが、エルフの間では香料として使われている様で、人に変化の作用があるのは知らなかったようです、解毒剤の調合もわかりますので、少しお時間を頂けたら」
リーリオは輝かんばかりの笑顔を浮かべ、蛍もまた安堵の笑みを浮かべたが・・・
「ただ解毒剤に必要な薬草が一種類だけストックが無いのですが、でもご安心ください、半年ほどで戻れますよ、良かったですね、通常はすべての薬草を手に入れるには最低でも1年はかかるのですが、大方の薬草はありますので」
続くサフィロの言葉で、リーリオは真っ青から真っ白になり、さすがの蛍もクルスも青ざめるしか出来なかった。
「それは不味いですね、半年も王子不在とは・・・・いっそこのまま蛍さんに王位を継いでいただいて、殿下にはお妃様になって頂いた方が安泰なのでは」
小さなクルスの本音はリーリオにばっちり聞こえていたようで、真っ青になりながら、部屋から逃げ出した。
「花嫁は嫌だ~~~~~~」
涙目になりながらリーリオは自分のベッドで叫びながら起きた。
「ゆ、夢だよな・・・・・良かった・・・夢で・・・」
涙目のまま自分の体を触り、夢であった事を実感した。
その後、夢の話をして蛍に盛大に笑われることになるが、どこか嬉しそうなリーリオだった。