後宮での生活 6
「あくまでも、想像の段階ですから何とも言えないですが、もしかして良いように利用された可能性もある気がします、あまりにも行動があほと言うか……短絡的すぎますし」
「無いとは言えない話ですね」
悪い意味で素直すぎるのかもしれないな、あのバカ令嬢……女官長の注意を受け入れてくれたら良いんだけど、あの勢いでまた来られたら面倒なんだよね。
「蛍様、そろそろ夕食のお時間になりますが、如何なさいますか?」
ミ リアの言葉に蛍が時計を見ると結構な時間になっていた、何もなければ自分で作るのも考えていたが、さすがに今日一日色々ありすぎて作る気力もないのでお願いする事にした、そして帰ろうとするクルスを引き止めルーカスも呼んでの食事となった。
食事をしながらの作戦会議のようなものにはなったが、概ね楽しい食事となった。
「さあ、お風呂も済ませたし、後は寝るだけね~」
ナイトガウンを羽織り片手に牛乳の入ったコップを持つ蛍にリーリオは不安げな様子でソファーに腰かけていた。
若干蛍の方が男らしいようにも見えたが、誰も突っ込む者はいなかった。
「リーリオの寝る場所は私と同じ場所だから諦めてね~」
あっけらかんと言う蛍の言葉に落ち着こうとして飲んだ牛乳を吹いてしまい、真っ赤な表情で咽ながら、こちらを見るリーリオに笑いそうになったが、自分の足りないことに気づくタオルを渡しながら、ごめんごめんと謝った。
「誤解させてごめんね、場所って言っても正確には、私が使っている寝室にある隠し部屋にベットを用意してあるから、そこで寝てほしいの」
「ゴホッ、ゴホッ……な、なんだ、その……隠し部屋って……」
口で説明するより見せたほうが早いと考えたのか、蛍は未だ咽ているリーリオをひっぱり自分の寝室に連れて行き、ベッドの横にある壁の前に立たせると、真ん中に置かれているベットの柱に触れるとリーリオの前にあった壁が横にスライドした。
「結構昔に作られたものらしいんだけど、何かあった時にここに隠れられるようにする部屋、内側からも占められて鍵もかけれるから、代々正妃になる人に伝えられるみたいなの」
感心して部屋の中を探索しているリーリオに蛍はひっそりと「一部の方は愛人を住まわせていたらしい」と聞いた事は黙っていようと思うのだった。
余計に女性に対しての苦手意識にに拍車をかけそうな気がする。
「簡易だけど、トイレと洗面台などもあるから寝起きには問題ないでしょ」
「ああ、凄いな~後宮にはこんな部屋もあるんだな」
若干興奮気味のリーリオの蛍は何も言わずに、ミリアから寝間着渡され楽しげな様子で、おやすみと言って部屋に入っていった。
蛍もまたそのまま、寝ることにしていたので、ミリア達にもそう伝えそのままベットに入ったが、最初はすぐには寝れないかなと思って居たが、疲れていたのか気づいたら朝だった。
二人は少し遅めの朝食をとり、リーリオを見送ると蛍は朝からダンスやマナーのレッスンを再開した、さすがに後宮に先生を呼ぶことは出来ないので、ミリアに先生となってもらい、練習を重ね終わるころには、汗だくな状態になっていた。
「疲れた~、ミリアもスパルタすぎる~~~」
シャワーを浴び、疲れ切った様子でソファーにだらしなく寝転がる蛍にミリアに笑みを浮かべながら気にすることもなく、逆にだらしなく寝ている蛍を咎めるような視線を向けた。
「蛍様、次期正妃様ともあろう方がその様なお姿では他者に示しがつきません、今疲れをとれるお茶を用意しておりますので、座り方だけは正してください」
先生も兼ねているミリアを怒らせると怖いので渋々、蛍はソファーに座り直し、クッションに持たれかかた。
「慣れない事覚えるって大変だわ、でも覚えないと地獄が待ってる~」
疲れ切った表情で叫ぶ蛍にフィアは何も言えずにただ黙っているしか出来なかったが、それでも蛍は二人が側に居てくれる事が一番うれしいと言ってくれているのでこうして側に居れるだけでフィアは嬉しかった。
ミリアも同じ気持ちだからこそ、蛍の評判に影を落とさない様にする為にもに心を鬼にしてスパルタを行っていた。
蛍もそれは判っていたのだが慣れない事に体も悲鳴を上げていたので、休憩をかねて中庭のテラスに移動した
中庭は、季節ごとの花々が植えられており、庭園を鮮やかに彩っておりその真ん中には東屋の様な建物が建っている。
そ れぞれの宮にある中庭は外部からの接触が出来ないようになっているので、リラックスできる場所の一つだった。
テラスの長椅子に腰かけ背伸びしている時、ミリアが紅茶と一緒に手紙が届けられた。
宛名を見るとあのバカ令嬢からの詫び状だったが、到底本人が書いてるとは思えない内容に侍女が書いたのかなと思い、ミリアに話すと概ね、予想通りだったようだ。
「少しは学んでくれ~~~~」
蛍の悲痛な叫びは風によってかき消され、誰も聞くことはなかった……が蛍は明日行われる、後宮内の茶会に言い知れぬ不安しか感じなかった。
ミリア達は中庭で手紙を片手に黄昏る蛍に、声をかけれずにただ見守るしか出来ないまま、夜は更けていった。