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LinkRing  作者: やくも
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Episode34:始まりの地図


 喫茶店ブラウニーの店内はひっそりとした空気に包まれていた。

 まぁ、さすがに時間が時間なので客足も数えるほどで、むしろこんな時刻に来店した僕達の方が、店側からすれば物珍しいのかもしれない。

 一応、営業時間は深夜二時までとなっているようなので、時間には得に問題ないだろう。

 僕達三人はカウンターでとりあえず飲み物の注文を済ませ、品物を持って店の奥の方にある四人掛けのテーブルに陣取った。

 各々にホットの飲み物を頼んだので、僕達のテーブルからは暖かな湯気が白く立ち上っている。

 鼻腔をくすぐるカフェオレの香りを感じていると、ようやく僕らの対談は始まった。

「さて。単刀直入にいきましょう。ずばり大和、あなたが電話越しで言っていた、進展というのは一体?」

 話を振られ、僕は飲みかけのカフェオレをテーブルに戻し、口の中の液体を飲み干してから答える。

「あ、うん。その、信じてもらえるか分からないんだけどさ……」

「信じるに決まっているでしょう。仮にも同じ境遇のあなたが言ううことです。疑う要素はありません」

「……うん。じゃあ……どう説明すればいいのかな……」

 僕は少し頭の中を整理して、先刻のことをどう口に出そうか考える。

 しばらく考えたが、やはりうまく一つの文章にまとめることは難しかった。

 なので、僕はとりあえず体験したその出来事を、文章で言うところの箇条書き要領で話すことにした。

 まず、何らかの理由で僕は自分の持つ『Ring』に宿る風の精霊、シルフィアと話をしたということ。

 その話の内容は、簡約すると八つある封印を開放してほしいということ。

 開放することによって、どうやら『Ring』の力はさらに発揮されるらしいということ。


 と、僕は要点だけをまとめてそんなことを話した。

 ところが……。

「…………」

「…………」

 氷室も飛鳥も、反応は全くと言っていいほどない。

 というより、どういう反応を示せばいいのか分からないといった表情を見せている。

「二人とも、聞いてる?」

 念を押して、僕はそんな言葉をかけた。

 すると今更ながらにハッと我に返ったように、氷室は表情を変えた。

「……え、ええ。聞いてます。聞いてますが……」

 言いかけて、氷室は隣の飛鳥に視線を向けた。

 対する飛鳥も氷室と視線がぶつかり、逆にどうすればいいのか分からないような曖昧な表情を見せていた。

「……大和、それは決して、あなたが見ていた夢の話とか、そういうのではないんですよね?」

「違うよ。僕は現実に、この目で見たんだ」

 まぁ、無理もない話かもしれない。

 確かに僕らは非常識極まりない力の一端をそれぞれに担っているわけだが、さすがに話のスケールが膨大になりすぎだと僕も思った。

 『Ring』にはそれぞれ、属性を示す力が宿っている。

 ここまでは実際に、能力を使いこなせるのだから理解も及ぶだろう。

 しかしそこに、さらに追い討ちをかけるように精霊という存在が絡んでくると、さすがに話はこじれてくる。

 精霊とはつまり、僕達の中の単語の意味としては目には見えない大多数の存在の一つでしかない。

 フィクションの世界では多用される要素ではあるが、そんなものが実在するかと言われれば立証はできないだろう。

 仮にも今の時代、科学技術の進歩が日を追うごとに目まぐるしく進歩しているのだ。

 言わば僕達は完全に科学サイドの世界の中で暮らしているわけで、そこにファンタジー世界の要素を無理矢理に組み込もうとしても、結果として僕達の理解は混乱という結論にしか至ることはできないのだ。


「……まぁ、そうなるよね、きっと」

 僕は半ば予想できていた二人の反応に小さき溜め息を吐き出して、もう一口カフェオレをすすった。

「あ、いえ。疑っているわけではないんです。ただ、こればかりは私も飛鳥も、まだ未経験のことなんですよ。ですから、口頭でそう説明されてもイメージが沸かないというか……」

「精霊、かぁ……。ホント、改めて私達が現実離れした境遇にいるんだなって実感させられるよね」

「え? 二人は、まだないの?」

 僕は問い返す。

「ないの、とは?」

「だからその。自分の『Ring』の精霊と会ったこととか、声を聞いたこととか……」

 僕の言葉に二人は向き合い、しかしどちらからともなく首を横に振り、僕に否定の意を告げた。

「……そう、なんだ。だったら、僕の方もちょっと自信がなくなってくるような……」

「いえ、そうでもないでしょう」

 と、半信半疑の意を唱えたままの氷室が口を挟む。

「理由は分かりませんが、恐らく大和の体験は夢幻なんかではなかったと思います。ただ、それなら同じことが起こる可能性が私にも飛鳥にもあるはず。それが起こっていないということは、何らかの起因となる要素が私達にはまだ足りていないのでしょう。逆に言えば、大和はその条件のような何かを満たしたため、自分の契約した精霊とコンタクトをとることができた。そう考えるべきだと思います」

「でもさ、そうだとしたら、その条件ってのは一体何なの?」

「さぁ、そこまでは今の段階では何とも……」

 僕達の会話は一時中断し、短い沈黙が訪れる。

「まぁ、不明要素を追求しても迷宮入りするだけです。今は分かることから進めましょう」

 氷室の切り返しの言葉に、僕も飛鳥も無言で頷いた。


「では二つ目ですが、確か、八つの封印でしたか?」

「うん。少なくとも、シルフィアは……あ、風の精霊の名前ね。シルフィアはそう言ってた。この街には、八つの封印がある。その中には、風の封印っていうのもあって、そこを開放すれば僕の『Ring』は更なる力を解放できるんだって……」

「……封印が八ヶ所、ですか。パッと考え付くようなところでも、心当たりになる場所は全くと言っていいほどありませんが……」

「封印って言うくらいなんだし、やっぱり古めかしい場所とか、いわくつきの場所になるのかな? でもそれって、ますますないんじゃない? この街って、比較的新しい感じだし、何年か前に大規模な都市開発があって、今の姿になってるわけだし……」

「ええ、そうです。確か、五年前だったと思いますよ。駅前を中心に大通りが展開され、交通の便がよくなっています。アーケードや繁華街の辺りも、同時期に展開されていたと思いますが……」

 言いかけて、氷室は何かに気付いたような表情を見せた。

「ああ、そうか。逆に言えば、五年前と今の街並みは大分変わっているはずですね。つまり、五年前のこの街には、そういういわくつきの場所がいくつかあったのかもしれません。私も昔のことは正確には覚えていませんが、資料館などで調べれば何か分かるかもしれません」

「五年前、かぁ……。ダメだ、私は何にも覚えてないや」

「……僕も、あんまり覚えてないな」

「まぁ、それは私の方で調べておきますよ。二人は明日も、いつもどおり学校があるでしょうからね。何か分かり次第、電話かメールで連絡します」

 氷室の提案に、僕は素直に頷いておいた。

 僕も明日の放課後には歴史民族資料館に足を向けるつもりだったが、その手間はこれで解消できそうだ。

「それにしても、急展開とはこのことですね。今まで何も見えてなかった霧の向こう側が、急に晴れてしまったような感覚です」

「だね。正直、いい流れなのか悪い流れなのかは分からないけどさ」

「封印の開放、か……。開放すると、どうなるんだろ? 『Ring』の真の力が解放されるってことらしいけど……」

「今はまだ何とも言えませんね。それが単純に、力の強化を示しているだけのものなのか。それとも、他にも何か起こることがあるのか。ただ、私は単に力の解放だけで済むはずがないと思うんですがね……」

「それだけじゃ済まないって、例えば?」

 飛鳥が問う。

 しかし氷室は答えずに、コーヒーを一口含んで飲み干した。

「……今は何とも。ただ、もしそうなるのなら、何らかの形で影響が現れるでしょう。それこそ、現実のこの世界を巻き込むほどの影響力で、ね……」

 意味深に言って、氷室はカップをテーブルの上に戻した。


 そして再び沈黙が流れ、その頃になってようやく、僕は話そうと思っていたことを思い出していた。

「あ、そうだ」

「ん?」

 僕の言葉に、二人が視線を移す。

「夕方、話そうと思って忘れてたことがあったんだけど……」

「聞きましょう。この際、どんな些細な情報でも必要です」

「それが……」

 言いかけて、僕はやや押し留まる。

 どこまでを話せばいいだろうか。

 かりんとの交戦についてはもう話してあるので、その部分は割愛するとして。

 僕の中には話すことが二つある。

 一つは今朝の、あの正体不明の感覚に襲われ、薄れ行く意識の中で見えた赤い記号と何かの図形。

 もう一つは、かりんと出会う少し前に、永久の木のある場所で一人の少年と出会っていること。

 しかし、後者はどこか話すことがためらわれた。

 なぜなら、その少年と出会うきっかけにもなったあの奇怪な色をした真昼の空の異変は、氷室や飛鳥はその目で見ていなかったからだ。

 ここでさらに混乱を招くことは好ましくない。

 それよりも、今朝のあのイメージの中にも八つの点が出てきていたことを僕は思い出す。

 正確には点の数は九つだが、そのうちの一つは中心を示すものなので実際は八つと見ていいだろう。

 その八という数は、どういう奇遇か、この街にある封印の数と一致する。

 こうなった以上、それはもはやただの偶然で片付けておくことはできない事実だ。

 僕はその旨を、二人に話した。

「……なるほど。そこにも八つの点が出てきたんですか……」

 口元に手をあてがい、氷室は考え込むように椅子の背もたれに体重を預けた。

「無関係ってわけじゃなさそうだよね。ここまで重なって、はいただの偶然でした、なんてさ。そんなの逆に不気味だよ」

「僕もそう思うんだけど……」

 各々に意見を口にしながら、しかし決定的な意見は出てこない。

 こうなると、考え込んでいる氷室に期待するしか方法はなさそうだ。


「……大和、あなたが見たというその図形と、図形の上に配置された点。それは今もはっきりと思い出すことができますか?」

「え? あ、うん。丸っきり正確ってわけじゃないけど、大体のイメージなら……」

「結構です。ではそれを……」

 氷室は車の中から持ち出してきた鞄の中から、ゴソゴソと何かを取り出し始める。

 テーブルの上のカップやら食器やらが端にどけられ、真ん中には取り出した一枚の模造紙とボールペンが置かれた。

「大体で結構ですので、その点と図を書き記してみてくれませんか?」

「分かった。やってみるよ」

 僕は手渡されたボールペンを握り、模造紙の上にまずは一つ、大きな丸を書いた。

 それが僕の見たイメージの中の、何かの中心に当たる点である。

 そこからまずは縦横に、ちょうど東西南北を分かつかのように四つの点を書く。

 さらに、北東、北西、南東、南西に当たる位置にさらに四つの点を書く。

 それはちょうど、直線で結べば正八角形を象るような位置取りだ。

「点の位置は、ちょうどこんな感じで……」

「……なるほど。では、図というのは?」

「それは、確か……」

 やや歪な形をしていたので、個々から先は少しうろ覚えだ。

 僕は記憶の糸を手探りに、その形を書き上げていく。

 八つの点を取り囲むように、しかしどこか不安定ささえ感じさせる線を伸ばしていく。

 ちょうど一筆書きで、その歪な形は書き上がった。

 線は点を全て取り囲んで、やはりどこかで見たことのあるような形を見せている。

 しかし、それが何であるかは僕にはまだ思い出せない。

 すごく……ものすごく身近なものだと思うのだけど……。

「これは……!」

 しかし、氷室の反応は早かった。

 図形が書き上がるなり、模造紙を食い入るように凝視する。

「……なるほど。やはりこれは、八つの封印を示しているのですね……」

 一人納得し、氷室は頷いた。


「ちょ、ちょっと氷室、一人で納得してないで、私達にも分かるように説明しなさいよ」

 隣の飛鳥が口を挟むと、氷室はやや落ち着いた物腰で模造紙を指差して説明を始める。

「二人とも、この形に見覚えはありませんか?」

 たった今僕の書き上げたその図を指差し、氷室は問う。

 しかし、僕はもちろんのこと飛鳥も特にパッと思い浮かぶものはない。

 だが、やはりどこかで診たことがあるような気がしてならない。

 何なんだろう、この妙な感覚は……。

 僕は一体、何を見落としているんだろうか……。

「……ダメ、分からない。でも、どっかで見たことがあるような気はするんだけど……」

 どうやら飛鳥も僕と同じ感覚を抱いているようだった。

「灯台下暗しとは、このことかもしれませんね。身近すぎて、逆に気付けない。これはその典型かもしれません」

 眼鏡を押し上げ、氷室は小さく深呼吸した後、呟くように言った。


 「――この形はこの街の……月代市全体の地図になっているんですよ」


 その言葉で、ようやく僕は引っかかりを外すことができた。

 そうだ、そうだったんだ。

 この形は紛れもなく、僕達が住むこの深山町を含んだ、月代市全体の地図になっていたんだ。

「ま、待って。ってことは、この八つの点がある場所って……」

 飛鳥はわずかに身を乗り出し、呟く。

「ええ、そういうことでしょう」

 氷室はそこで一度言葉を区切り、すぐにまた続ける。


 「――実際の地図と照らし合わせ、それぞれに点に該当する場所。そこが恐らく、八つの封印の場所です」


 こうして、舞台はまた一つ新たな展開を見せ始めた。

 厚い雲に月が隠れた、光の降らない夜のことだった。



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