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十ノ一  作者: 泰然自若
序章
6/30

六 一ノ六

 その日、真夜中の内海に輝く浮島を見る事が出来た。

 広大な内海湖の中に、ひっそりと浮かぶその島で、二人の人間が異界への扉を開く。

 始まりは小さな振動と僅かながら光を発する祠の存在に一磨が驚きの声を挙げ、やがてその光は強さを増していく。

「まだ周期の始めで小さいが、二人くらいは問題ない」

 鎮座している祠の光に一磨は眩しげに手をかざし、眼を細める。対して、闇に溶け込むような衣服を纏うラーレは、憮然とした表情でその祠から映し出される光景を見つめていた。

 大きくなれば湖が光り出す。

 ラーレのその呟きは、一磨の耳には雑音として流れ込んだだけで、一磨も聞き返す事はしなかった。

 一磨は目の前で起こっている現象に衝撃を受けていた。予想を超える現実を目の当たりにしてただただ興奮と恐怖が身体の中で渦を作りなしていく。

「凄い」

 思わず一磨は呟いた。白く発光する祠が何とも神々しい、これでは昔の人が神様だと思ったのも頷ける。そんな事を考えていた一磨もまた神秘的で神様が現れても不思議ではないとも思っていた。光り輝く外周とは裏腹に祠の中心は夜を映し出す鏡のような姿をしていた。

 別の世界が口を開けている。祠の先は石造りの一間が広がっており、松明らしき光りが怪しく揺れ動いている。その光景に恐怖こそ感じてしまう事に嘘はつけない。

 一磨は喉を鳴らし視線を泳がせた。首を傾げる。何か釈然としない感覚が一磨の中にあった。その光景に気後れしたというのもあるだろうが、一磨はその違和感から意識を外に向けることになる。突然世界が震え上がるような揺れが二人を襲ったからだ。咄嗟ながらも足に力を入れて転ばないように二人は姿勢を維持する。

「教会の連中は一体何をやっている」

 ラーレは文句を言いつつも冷静に剣を抜いた。両刃の剣は怪しく光り、目の前に現れた生き物へと向けられる。

「ばっ……」

 喉に何かが突っかかったように一磨はそれ以降言葉を発する事が出来ずに居た。

 頭蓋骨にべったりと皮を貼り付けただけのような顔の造形に鼻は無く、奥まった眼の奥では赤い瞳らしき光源が二つ。額には小さく飛び出た角のような突起物が見えている。

 前傾姿勢でがに股。衣服は纏っておらず筋骨が禍々しい茄子のような深い紺色の体色をしている。

 化け物と呼ぶに相応しい姿を一磨とラーレの前に見せ付ける。数は増え、十体ほどが姿を見せた。

「ラーレさん」

 一磨のか細い声がラーレの耳に入ってくる。紛れも無く恐怖に縛り付けられた声だった。

「剣を抜け。一磨」

 ラーレは語尾を強めながら言った。

 一磨は、その声に身を竦ませながらも刀――片刃の剣を抜く。その立ち姿は震えているが、綺麗な正眼を作り出す。

 構えを見せると、思いのほか一磨は落ち着く事が出来た。辛いながらも十年以上続けてきた構えを作る事が、冷静さを取り戻させる要因になったようだ。

「拙いな。こちらの世界へ潜伏していた魔族が魔物を召喚したか。あるいは――」

 誰かが生成したか。

 一磨には聞こえないように語尾は小さく呟き、ラーレは襲い掛かって来る化け物の武器となる長い爪を受け止めて、押し返す。

「私の後ろへ」

 ラーレの声に一磨は無言で頷くと移動していく。

「このまま下がる。一磨は先にあの光の中心へ飛び込め」

「そんな」

 あまりに弱々しい声だったので、思わずラーレが振り向いた。

 ラーレは顔に出さず焦っていた。先ほどの振動は何も化け物を召喚したものによって引き起こされたとは考えていなかったからだ。恐らくは浮島の四隅に施した開錠の式を破られているとラーレは予想している。でなければ門と魔物の召喚術式が干渉し、魔物の召喚など出来はない事をラーレは知っているからだ。

 一磨を急かす理由は門が干渉され、元々不安定だったものがさらに安定しない状態となってしまっている。門が閉じてしまえば、アイリスへ行くには再び召喚術式を作り時期を調整しなければならない。

「安心しろ。絶対に私も後から行く」

 二人の視線はぶつかり合った。方や焦りを隠そうと平静を装い、方や恐怖を隠そうと冷静さを装う。

 ラーレは動く、一磨は僅かに遅れる。

「行け。十河一磨」

 その硬直も一瞬だった。先ほどまで固まっていた一磨の足が急に軽くなったように軽妙な動きを見せて、祠へと走り出す。

 一磨に化け物が襲い掛かる。ラーレは一磨の背中、死角を守るだけで手一杯のようだった。右手から、怪しく光る禍々しい化け物の爪が一磨の身体に飛んでくるが、その攻撃をしゃがんで避け、そのまま飛び込むように祠の中心へ入っていく。

 一真の視界には、薄暗い石造りの壁に模様が刻まれている光景は広がっていた。先ほど見た光景と同じだったは、それが突然揺らぐ。一真の身体が丁度、その光景と交わった瞬間の出来事だった。

 眩い光が一層激しさを増す事に、斬り結んでいたラーレは、化け物の首を刎ねると振り返った。背中から光っていた光源に揺らめきが起こり、それを不審がってのことだったがラーレの顔に皺が出来る。

「教会ではない?」

 ここにきて初めてラーレの顔は焦りに眼が開かれ、口を開けた。先ほどと光の中心から見えていた光景が変化していたからだった。

 額から一筋の汗が流れるが、それを拭う隙など今の彼には無かった。

「やはり、不安定で場所固定が……」

 その呟きは敵の攻撃で消えて行く。

 二体が一斉に飛び掛ってくる攻撃の内、左手から迫る化け物の攻撃を受け止めながら捌くと、右手からの攻撃は避けきる。

「有象無象の化け物めが、ここを通りたければこの私を超えてゆけ。我が名はラーレ・ライヒェンぞ」

 祠のすぐ前に立つラーレは大きく向上を述べた。視野一杯に瞳を動かしながら、何かを探るようにしながらも、襲い掛かって来る化け物への対応は素早かった。

 迫り来る凶器となった爪とラーレの握る刃がぶつかり合う。その打ち合いからは想像も出来ないほど甲高い音が響き渡った。それはまるで、化け物の爪は鉄と同じだと言わんばかりに盛大な音を轟かせたのだ。

 身体の軸を移動させながら、化け物体勢を崩すと、その迫り合いから一瞬にして抜け出し、隙を見せた化け物の足を斬り裂く。姿勢を維持できなくなった化け物を一先ずは無視をする。

 倒れこんだ化け物の後から迫る化け物が勢い良く突進してきていたからだ。その一撃に対し、ラーレは身体を横に向けながら、膝を折り曲げた。化け物には恐らくラーレの姿が消えたように錯覚しただろう。それほどの早業かつ低い軌道で交錯し、その胴を斬り裂いた。

 抜き胴の返しの刃で、足を斬られながらも必死に起き上がろうとしていた化け物の頭部に剣を突き立てる。

「残り、五体」

 言葉の余韻があるまま、何かがラーレの周りを漂い始めたかと思うとラーレは白い膜に覆われる。

 化け物どもがその膜に攻撃するも、何かに反射され吹き飛ばされてしまった。その攻撃の刹那に、膜が霧散するとラーレが現れる。

 暗闇に妖しく光る灰銀の鎧――まるで甲殻を纏ったような姿。太くしなやかな尻尾が大地に垂れて、鋭利さを持つその顔は竜を連想させてあまりある。まるで、竜が二足で立っているほどの、まるで竜を模した甲冑を着込むような姿とでも言えば良いのだろうか。

 変身を終えて、ラーレは動いた。

 空気が変わる。

 夜空に浮かぶ月明かりを反射したのか。はたまた祠の光をそうしたのかは判らない。ただ、光り輝く一筋が化け物の横を通り抜けた事だけは確かだった。

 一閃。その言葉が似合うほどの素早い胴斬りが化け物を真っ二つにされ、ラーレに最も近かった化け物だった上下の肉塊が崩れ落ちる。

「四体」

 低い呟きが僅かにそよぐ草木の音色に溶ける。それ以上でもそれ以下でもない。ただ低いだけの声に、化け物は僅かに気圧されるように動きを止めていた。

 ラーレの背中では、祠の光は弱々しくも未だに健在であった。


序章終了。


壊れたPCに改稿したデータとプロット、最終章まで書いたものがあるのですが、あいにくと小説家になろうの方に保存してあったのは、初期物で改稿も、プロットも初期状態。


また改稿し直すという作業に苦心中。

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