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厄年の代わりに得たもの

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/03/22



目黒悠真大学一年。

月城なつめ大学四年。

※厄年の年齢に違いあり



 


大学4年の秋、なつめは22歳になったばかりだった。


「はぁ、厄年だ・・・。」


「なつめ先輩、大丈夫ですか?」


ある日、図書館の自習室で悠真が小さな声で聞いてきた。


「どうもこうも・・・厄年過ぎて・・・」


風邪を引くわ、バナナの皮で滑って転ぶわ、家電が壊れるわ・・・。


それから悠真がいる時にも事故が起きるようになった。

元々、一緒に帰っていたこともありその頻度は増えていた。

なつめに危険が及ぶ度に悠真が庇う。

そんな悠真を見てなつめは不安になる。


転びそうになったのを庇って手を擦りむいたり、ホースで水を撒いていたおじいさんから通りすがりに水を頭から被ったり。

まだそこまで大事にはなっていないがこの先もっと酷いことが起きた時、

悠真が大怪我をしたらと思うと耐えられなかった。


自分はあと半年で卒業だ。


だからある日の帰り道になつめは言った。


「ねえ、悠真くん。

私たち一緒に帰るの辞めようよ。」


悠真の足が止まり、なつめも同じように止める。


「え・・・どうしてですか?」


「悠真君が私のせいで傷つくのなんてやだよ・・・。」


「嫌ですよ。ただでさえあと半年しか一緒にいられないのに。」


「悠真君はまだ1年生なんだから、もっと自分のこと、勉強とか、サークルとか、

新しい出会いとか、そういうのに時間使ったほうがいいよ。このままだとあと半年、厄祓いで終わっちゃうよ。」


「なつめ先輩がいなきゃ意味ないじゃないですか。」


「え」


「なつめ先輩がいつも自分のこと後回しにして、

誰かのために動いてるところ見てたら、

俺も誰かのためにちゃんと頑張れる人間になりたくなったんです。

俺は、ただなつめ先輩の隣にいたいだけなんです」


「でも、今よりもっと悠真君が深い怪我でもしたら・・・。」


「なつめ先輩、それが自分ならいいやって思ってません?」


「え、それは・・・」


「だったら尚更ダメです!離れません。

先輩まさか、俺が子どもだから卒業したらさよならしようなんて思ってませんよね?」


「子どもだなんて思ってないわよ」


「いつも可愛い可愛いって言うじゃないですか。

本当は男として見てないんじゃ・・・。そうですよね、

俺が無理矢理好きって言わせたようなものですもんね。」


「男として見てなかったら、会いたくて泣いたりしないわよ。」


「え、泣いてたんですか?」


キョトンとした表情で悠真がこちらを見る。


こくりとなつめは頷く。


「ふーん・・・そっか、そっか・・・。」


「何がそっかそっかなの」


「今決めました、俺、ずっとなつめ先輩を守るって」


「え、今?」


「なつめ先輩、さよならしないって言って下さい。」


「しないわよ。私からは。」


「ダメですよ?ちょっとでも考えたら。俺が卒業したらなつめ先輩は俺と結婚するんですから。」


「え、結婚!?」


「はい」


至極当然という空気でしれっと悠真は言う。


「そこまで考えてたんだ・・・」


「だから、突き放そうとしても無駄ですよ」


圧が凄い・・・。


「じゃあ、厄年だけど隣にいてくれる? 」


悠真はこくんと頷いた。


「来年も、再来年も、俺はずっと隣にいますよ。あ、卒業したからって浮気の心配もいりませんからね。」


全てを見透かされなつめは白旗を上げる。


「もう、参りました。」


二人は顔を見合わせて笑い合った。


結局その年、

なつめに大きな厄は降りかからなかった。


悠真が神社に行って作ったというミサンガを腕に巻いていたのだが、

離れている間になつめが事故に遭い、ミサンガは切れたものの本人は擦り傷だけで済んだのだった。


「ミサンガどこの神社で作ったの?」


「隣町にある大きな桜の木があるとこです。」


「え!?」


「なんですか急に」


「悠真君、知らないの?

あの桜の木は駆け落ちして事故で一緒に死んだ恋人が埋まってるって有名な場所だよ。

だからもの凄い縁結びの力が強いって噂なの。」


浴衣を着た二人が夜な夜な現れるという。


「あー、知ってますよ。」(さらりと)


「知ってて行ったの?」


「だから行ったんじゃないですか。

なつめ先輩の虫除けも含めて」


「虫除け?」


「男が寄り付かないようにって」


「やーね、私になんか誰も来ないわよ」


「なつめ先輩は鈍いから気付いてないだけです。」


「そうかなぁ・・・」


「なつめ先輩を好きな人もいると思いますよ?」


「うーん、でも言われたことないし」


「言われてなくてもいるんです!」


「でも、言わなかったら最初から何も無いのと同じじゃない?」


「ま、まぁ、確かに・・・でも、俺はちゃんと言いましたよ。」


そう言う悠真の顔はいつもより大人びて見えた。


真面目で優しくて、向上心があって自分に厳しくて、

可愛いのにカッコよくて。

本当にずるい。


「最初はびっくりしたよ。夏のイベントで話すことになっていきなり告白してきて。

まさかって。何かの罰ゲームかと思ったわ。」


「この人しかいないってすぐにビビッときましたから。」


「何がそんなに良かったのか分からないけど

嬉しかったわ。」


「良いところ沢山あるじゃないですか」


「たとえば?」


「優しいところ、他人を優先できるところ、

料理が上手なところ、笑うと可愛いところ、

それから・・・」


「ちょっと待って!」


「なんですか、まだ終わってないんですけど」


不服そうに悠真が言う。


「これ以上は恥ずかしいから・・・」


「照れてるとこも好きですけどね。」


「もー・・・先輩をからかわないで。」


「からかってなんかないです。

それにしてもミサンガ切れるなんて思わなかったです。」


「ごめんね、せっかく作ってくれたのに。

きっとミサンガが大きな事故を吸い込んでくれたのね。おかげで助かったわ。ありがとう。」


悠真がじっとなつめの腕を見ている。


「悠真君?」


「結構キツめに結んだと思ってたんだけどなぁ・・・。次はもっと太く作ってもっと強く結んどがないとダメですね。」


悠真から何やらドス黒い何かが放たれている。


いつも朗らかな悠真君がなんかこわい!


その瞬間、悠真がにぱっと笑う。

その笑顔を見てなつめはにへらにへら。


ま、好きだからなんでもいっか。


1週間後、前回より一回り太いミサンガを渡されたのは言うまでもない。


 

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