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9.遠征部隊


 ギフトの効果が切れた。

 体内にあったゼノの痕跡は綺麗に消えていた。きっとゼノはそのことに気づいているが何も言わなかった。

 もしかしたらまだ任務に復帰していないからかもしれない。

 オレが団長の部屋で仕事をしている間、ゼノは1人で見回りの仕事をこなしている。

 今も書類仕事兼雑用をさせられているオレの目の前で報告書を渡しに来ていた。

 ギフトというものがゼノの中になければオレがいなくてもきっと、あいつは仕事を淡々と熟す。


「……バディなのに」


 はっ、とする。オレは自分でゼノを拒絶しておいて何を言っているのだろう。

 ゼノがオレを見ていた。その横で団長と副団長が少し口元を綻ばせている。

 オレは小さく舌打ちをした。


「団長、少しナティスをお借りしても?ちょうど昼食の時間ですし」


「あー、いいぞ。連れてけ連れてけ」


 ゼノがオレの横に来て目線を合わせて来た。


「昼飯、一緒に食べよう」


「いやだね」


 オレは書類のページを捲るフリをした。しかし、ゼノはその書類を掴み下に下ろした。


「……ナティス、行こう」


 こっちが意地を張っているのが恥ずかしくなるくらい穏やかな顔をしていた。

 舌打ちをしたオレは席を立つ。

 執務室の扉を開けるとゼノが追いかけて来る。


「ナティス、どこ行くんだ」


「…昼飯、行くんだろ」


 オレはちらり、とゼノを見てから部屋を出た。

 ゼノは驚いた表情をしていた。少しだけしてやったりな気分になった。





「遠征部隊、明日帰って来るらしいぜ?」


「本当か?じゃあ、あの大きい獣人も帰って来るのか!うわー、手合わせしてもらいたいなぁ」


 食堂では遠征部隊の話で持ちきりだった。話を聞く限り、今回は山の麓にいる獣鬼とその近隣の街での情報収集らしい。

 ゼノはピコピコと耳を動かし、良く話を聞いているようだった。


「気になんのかよ」


 大好物のオムライスを食べる手を止めて聞いてみた。

 ゼノはクリームパスタを大きな口を開けて食べていた。


「私の知りたい獣鬼の話かもしれないからな」


 尻尾をゆらゆらと動かし、再びパスタをフォークに巻きつけ始める。


「え、お前、倒したい獣鬼いんの?」


「倒したいというのとちょっと違うな……」


 初めて聞いた話だった。オレが食いつくとゼノは嬉しそうな顔をする。


「口のケチャップついてるよ」


「え、どこ」


「ここ」


 ゼノが場所を教えてくれるが分からなかった。


「ここだって、言ってるだろ」


 笑いながら手を伸ばされる。しかし、オレは一瞬夢に見た過去の獣鬼なりかけた獣人の腕と重ねてしまい強張ってしまった。

 ゼノはオレに触れる前にゆっくりと手を下ろす。


「私が怖いのか?」


「いや、その……」


「ギフト、切れてるだろ?」


 オレはオムライスの卵をスプーンでいじる。やはりゼノには気づかれていた。

 過去の話をするべきなのだろう。このままではいけないのだと、セオドアの件を通じて身をもって知った。

 あの時、オレの身を案じてゼノが来てくれなかったらオレは確実に死んでいた。

 今はバディとして少しだけゼノを認めつつある。

 話すべきだよな。


「オレ、過去にさ獣鬼になりかけた奴に襲われそうになったことがあって……」


 ゼノは何も言わなかった。


「それで……耳の大きさとか違うし、尻尾の形も違うけど……」



「わあああああ!」


 急に食堂の入り口で大きな歓声が上がった。



「遠征部隊が帰って来たぞ!」


「明日じゃなかったのかよ!」


 オレはあまりの煩さに耳を塞ぐ。そんなに遠征部隊はすごい部隊なのだろうか。

 そんな話、オレは聞いたことがなかった。ゼノも煩そうに顔を顰めて食堂の入り口を見ていた。

 ぞろぞろと部隊と思わしき人達が食堂に入って来る。

 最後の方に入ってきた獣人は一際大きく、白い髪に大きな耳。そして長い毛に覆われた尻尾。

 半分を黒いもやに覆われいたが、顔は覚えていた。

 あいつだった。オレのトラウマとなった元凶のやつだった。


「ナティス?おい、どうした」


 ゼノの声が遠く感じる。

 息が上がっていく。どうして人を殺したのに、その場で笑っているのか分からなかった。

 あの時、あの場所でオレの目の前で鋭い爪で切り裂かれた少年がいた。オレはまだあの場所に囚われているというのに。


「ふっざけんな」


 オレは拳を痛いくらい握りしめ、オムライスにスプーンを突き刺した。腕で口元を拭う。

 許せなかった。ふつふつと湧き上がる怒りはオレを奮い立たせる。


「おい、ナティス」


 立ち上がったオレの腕をゼノが制止するように引き止める。


「…触んな」 


 それを振り払い、オレはそいつに向かって歩いて行った。

 人をかき分け、前へと進む。濁流に揉まれながらやっとその獣人の前にいけた。

 随分と大きかった。ゼノより、がっしりしていて胸板も厚かった。


「あれ、リンネル。そいつ誰?知ってる?すんごい殺意向けられてる」


 その獣人のバディだろうか、オレを指差して聞いてくる。


「いや、知らないけどなぁ…えっ!」


 オレはその獣人に向かって拳を振り上げた。





 

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