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5.危機的状況


「大丈夫、僕は優しいよ」


「やめろ!いやだ!」


 オレは必死に体を動かした。ゼノの時は怖くなかったのに今はとてつもない恐怖と焦りがあった。


「もう、ほんとうるさいな」


 首筋に強烈な痛みが襲う。セオドアに噛まれていた。歯が皮膚のその下にくい込んだ気がするとそこから入ってくるはずのないギフトが入ってくる。

 それはゼノのギフトと混ざり合うことなく互いで拒絶し合っている。

 腹の底でぐるぐるしていたものが全身に巡り攻防戦を繰り返している。


「あーあ、ほら暴れるからー」


「な、んで…」


 セオドアのギフトが流れたのだろう。オレは体を繋げていないはずなのに。


 オレはゼノの顔がこんな時になって浮かぶ。

 シーツを握り締め、どうにか逃げ出そうとするが体が思うように動かなかっいた。


「体を繋げるってここだけだと思ってた?」


 ズボンの上から臀部を撫でられる。


「違うよ。こうやって」


「ぐっ…!」


 今度は腕を強く噛まれ、うっすらと血が滲む。

 セオドアのギフトが再び流れ込んで来る。それも大量に。


「あ、ぐっ……」


「繋がるんだよ。あまり知られていないけどね」


 ゼノのギフトが体内でセオドアのギフトに飲み込まれそうになっていく。


「僕、もう疲れちゃったな。このまま君に流しまくって枯渇してもいいな」



 ーーどうか安らかに。


 ゼノが同胞にかけていた言葉が頭の中で囁く。


「枯渇したらお前が獣鬼になるじゃねぇか!ふっざけんな!」


 オレはゼノの残ったギフトを使ってセオドアを蹴り飛ばす。

 壁に背を打ちつけたセオドアは小さな呻き声をあげてしゃがみ込む。


「くそが!」


 オレはゆっくりと体を起こす。そうにかしてここから抜け出さなければ。


 ゼノが悲しむかもしれない。


「だーーー!くそっ!」


 さっきからずっとゼノのことを思い出し、焦っている。

 ゼノのことは嫌いなのに、あいつがバディの方がマシかもしれないと今は思っている。


「あいつ、迎えに来いよっ!くそゼノ!」


 毒を吐きながら、ベッドから降り、玄関へと向かう。壁伝いに歩かないとまともに歩けなかった。

 早く、早く、ゼノのところに帰りたい。嫌いなのに、側にいて欲しかった。



 やっとの思いで辿り着いたこの家から出れる場所。

 扉の取っ手に手を掛ける。

 しかし、それは開かなかった。


「な、んでっ!」


 首筋に柔らかな毛が触れる。甘ったるい匂いにオレの心臓は跳ね上がった。



「……逃がすと思ってるの?」


 背後から聞こえた声に嫌な汗がどっと出始める。

 セオドアの声は冷たくて、圧が込められていた。

 扉の取っ手を掴んでいる震えるオレの手を大きな手が包み込む。


「もう、僕のギフトしか残ってないね」


 耳に囁かれる声に逃げれないことを理解する。

 オレの息が上がっていく。


「与えすぎちゃったかな。気持ち悪いでしょ?」


 セオドアが首筋の噛み跡に舌を這わす。痛みが体内にまで響く。


「僕のギフトもそろそろ枯渇しそう。あと2回くらいかな。ねぇ、今どういう気持ち?」


 騎士団の服の留め具を取られていく。

 オレはもう動けずにいた。


 どうすればここから抜け出せる?


 窓はどこも鍵が掛けられているようだった。やはり出口はここしかない。


「騎士団の服ってさ、首元大きく開くからいいよね。あえて、そうしているんだよ。緊急時に噛みやすくしてるのかもね」


袖から腕を取られ、音を立てて騎士団の上着が床に落ちる。


「抵抗しないの?このままだと僕に抱かれちゃうよ?まぁ、もう動けないか。ギフト貰いすぎて気持ち悪いもんね」

 

 下に着ているシャツのボタンにも手が添えられる。


「やめ、ろ」


 オレの目頭は熱くなっていた。床に流れたものが静かに落ちていく。


「お願い、だからっ」


 オレはセオドアに抱かれたくなかった。塗り替えられていく気持ち悪さはゼノで十分だ。


「……ゼノっ、助けて」



 ガシャーン!

 近くの窓ガラスと壁が大きな音を立てて崩れ落ちた。

 そこからゆっくり入って来たのはゼノだった。

 ゼノはオレをセオドアを見て、大きな息を付く。


「……情けない顔だな、ナティス」


 剣をセオドアに向ける。ゼノの尻尾は大きく膨らんでいた。



「…ちょうどいいね、じゃあもう1回」


 セオドアは大きく口を開けて、オレの首筋に向かって歯を突き立てようとした。

 しかし、それはゼノによって阻止されオレはゼノの腕の中にいた。

 嫌いなのに、ゼノの爽やかな整髪剤の匂いにオレはとても安心した。


「だから一緒に行くって言ったんだ、バカナティス」


 悪態を付きながらもオレの肩をしっかり抱き締めている。

 その手はとても力強くて温かかった。



「……ゼ、ノ…おせぇんだよ」


 オレは緊張の糸が切れたかのようにぶつり、と意識を飛ばした。




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