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【番外編】じゃんけんなくても離れません


「ナティス、俺の新しいバディのラキだ」


 食堂前で、遠征任務が終わり寄宿舎に戻ったはずのレオが声をかけてきた。その横には名前とは正反対の気の弱そうな男がいた。

 やっと昼になったと喜んでいた腹の虫が止まる。


「新しいバディ!レオ、やっとあそこを出る決意したのか!」


「ああ。でも、俺だけじゃないぞ。この間の遠征に行った奴らはみんな新しいバディを作って出て来ている。きっと、ナティスや他のバディを見て、前に進もうと思ったんだろうよ」


 レオは嬉しそうに自分のバディの頭を撫でる。


「へー!ゼノ、嬉しいな!」


「……そうだな」


 ゼノの表情はあまり嬉しそうではなかった。きっと、オレがレオからギフトを貰ったことがあるからだ。


「ラキって呼んでいいか?よろしくな!」


「……あ、はい」


 小さな声に前髪で隠れた瞳。レオのバディとして彼はやっていけるのだろうか。すごく心配になった。

 そんなオレの表情にレオが笑う。


「こいつはこんなんだけど、剣は意外とうまいぞ!成長が楽しみだ!それに……今度はちゃんと守るから。ナティス、見守っててくれ」


 レオがしっかりと前髪で隠れたラキの瞳を見る。俺が色々言うことではないか、とゼノを見ると頷かれた。

 レオはしっかり前を向き始めている。隣にいるラキによって。オレは嬉しかった。


「うん、また手合わせしたりしよう」


「ああ、そうだな。よろしく」


 レオに肩を叩かれる。ご機嫌そうに尻尾を振って、食堂の中に入って行った。


「ゼノ、なんで不機嫌になってんだよ」


 尻尾で床を叩くゼノは別に、と言う。絶対、何かある。オレはそっと、ゼノの手に触れる。

 何を考えているのか、尻尾だけではやっぱりまだ分からないことが時々ある。せっかくバディとして、いや、それ以上の関係になった。知りたいって思う。

 ゼノはため息をついて、オレの手を握る。


「悪い、俺が勝手に嫉妬した。だから、そんな顔するな」


「え……嫉妬?」


 顔を少し赤めたゼノが顔を隠すようにそっぽを向く。獣人はバディに執着が強くでる。


「ばっか、お前っ……オレまで移るだろ」


「お2人さーん、ここでイチャイチャはやめてよー」


 肩に手を置かれ、横を見るとセオドアとシドさんがいた。


「セオドア!」


「あー、恥ずかしい恥ずかしい。早く中入ったら?……それも、部屋戻っちゃう?」


 にやり、と笑うセオドアの手をオレは払う。


「もどんねぇよ!」


 オレはゼノの腕を引いて食堂に入って行った。






「で、なんでオレのご飯がこーなるんだよ!」


 大好きなオムライスに唐揚げにブロッコリー、ナポリタン、ウィンナーが置かれていた。


「え、なんかおめでとうって感じ」


 さっき横に来たルキとリンネルがニコニコとこっちを見ている。

 ゼノは目の前で黙々と食べていた。


「そうそう、おめでとうだよ。僕達、優しいから」


「お前はただ食べたくなかったブロッコリーをあげただけだろ」


 にやにや笑うセオドアの皿にシドさんが自分のブロッコリーを置く。


「いらないよ!」


 セオドアは悔しそうにシドさんを見つめるが諦めてブロッコリーを口に入れる。


「よくできました」


 シドさんがセオドアに優しく笑う。この2人、久しぶりに会ったけど何か雰囲気変わった気がする。


「そーだ、ゼノにもあげるよー!でも、どうしよう。あげたらボクのがないや」


 リンネルが自分の皿から唐揚げをあげようとするがあと一つしかない。どうしよう、と言っているとゼノが困ったように笑う。


「……気持ちだけ貰って置く」


「ほんとー?じゃあ、たーべよっと」


 リンネルはニコニコと尻尾を振って、満面な笑みで食べ始めた。

 オレはその様子に苦笑していたが、ルキも同じような表情をしていた。


「じゃなくて、なんでこうなってんだって」


 セオドアとルキに聞くと2人ともにやにや笑って、リンネルとシドさんも笑っていた。

 セオドアがオレの耳元に口を寄せる。


「獣人の嗅覚、舐めてもらっちゃ困るよ」


 オレは自分の右耳を押さえる。


「そーそー、ゼノ良かったねぇ」


 ゼノの横にいるリンネルが嬉しそうに笑っていた。


「じゃあ、俺も渡すべきか」


 そう言って、ゼノがオレの皿にクリームパスタを乗せてきた。

 訳がわからない。ルキに目線を送ればため息をつかれた。


「俺もさっきリンネルから聞いたんだけどナティスとゼノの匂いが……前よりも濃いって。つまり、そういうことだろ?恋人も立派なバディだ」


 肩をポン、とルキの手が置かれた。

 良くセオドアに臭い臭い言われていたが、もっとっていうことだろうか。

 顔に熱が集まっていく。もう恥ずかしくてしょうがなかった。


「シドさん、助けて下さい」


「無理だな」


 爽やかな笑顔で返された。もう誰も助けてくれない。


「だけど、大丈夫だよ。俺達、みんな一緒だから」


「ひぇ!?」


 なぜかセオドアが歓喜と驚きの混じった声を上げる。


「獣人とバディってめんどくさいけど、死ぬまで一緒だし。恋人だって、言ったって恥ずかしいことでも何でもないと思う」


 シドさんが爽やかなのに、セオドアはどんどん赤くなって悶えていた。

 リンネルも嬉しそうに尻尾をブンブン振り始めて頷き、ルキを見つめる。


「それにほら、そこの人も」


 シドさんが視線を向けたのは副団長と団長だった。


「お!お前達ここにいたのか!」


 オレだって馬鹿じゃない。薄々気づいていた。セオドアだって、噛み跡とかキスマークこの間つけてたし。ルキも体だるそうな時があった。気づいてはいた。だが、それを面と向かって祝われるなんて恥ずかしすぎる。


「次の遠征決まったから、お前達に行って貰うからなー頼んだぞー」


 団長が横を過ぎて行くと、その後を追うように副団長がオレの顔を見て、目を細めて横を通り過ぎて行く。


「ナティス、ケチャップ付いてる」


 ゼノは笑いながらオレの口に付いたケチャップを取る。指に付いたそれをオレが知っているザラザラ舌で舐める姿に、オレはどうしようもないくらい顔に熱が集まった。


「やっぱバディやだ」


「だめだ。俺達は死ぬまでバディだろ?……俺をまた捨てるのか?」


 ゼノは優しく愛に溢れた微笑みでオレを見る。そんな顔は反則だと思う。

 オレはオムライスに乗せられた唐揚げにブロッコリーにウィンナーとナポリタン。それにクリームパスタが乗った食べかけのオムライスを見下ろす。騎士団に入った当初は朝も昼も夜も一人で食べていた。みんなバディで仲良くしている姿を羨ましく思っていた。

 だが今は、ゼノがいて横にはルキ達がいる。

 オレはクリームパスタを口に含んだ。その味は、優しくてゼノのように濃厚でまろやかだった。


「……捨てるわけないだろ」


 大事なバディで、大好きな人なのだから。

 オレは唐揚げもブロッコリーもウィンナーも食べる。全部美味しかった。

 次の遠征は何だろうか。調査だろうか。それとも討伐だろうか。オレは今ある幸せを噛み締めて完食した。


「……ナティス、部屋に帰ったらじゃんけんするか?」


 ゼノの足が優しくオレの足を突く。


「ナティス、じゃんけんするの!?獣人とじゃんけんはダメだよー!あははっ!」


 リンネルが大笑いする。


「え、なんで」


「僕達、獣人は匂いで分かるからだよー。なんとなくだけどねー!」


 セオドアも楽しそうに笑う。オレはゼノをゆっくり見た。


「バカナティス」


 くすり、と笑ったゼノは一言そう言って食べ終わった食器を持って立ち上がった。


「ちょっと待て、ゼノ!説明しろよ!」


 オレも食器を持って、ゆらゆらと尻尾を動かしているゼノを追いかけた。

 聞きたいことがありすぎる。部屋に帰ったらきっとぐずぐずに甘やかされるかもしれない。前なら怒ってた。けど、今はゼノに騙され続けたことが嬉しかった。

 


 

 






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