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【番外編】帰省 前編


「ナティス、これ美味いぞ」


 星空が輝く下でテントを張り、焚き火で暖を取りながらゼノと夕食を摂っていた。

 オレ達は今、なぜかゴルゴン村に向かっている。街と街の間にある村だ。その村はオレの実家がある所だった。団長が調査のためにそこへ行って来い言ってきた。

 もしかしたらあの会話を聞かれてたからかもしれない。





「ナティス、そろそろ家に帰省したらどうだ」


「いや、いいって」


 報告書を提出に団長の執務室に向かう。ゼノが帰省しろ、とうるさい。オレは家が遠いから、という理由もあったが会いたくない奴がいた。

 過去のトラウマのせいで酷く冷たく接してしまった獣人の友人がいた。今でも忘れられない。酷く傷ついたあの顔を。


「遠いって言ってんじゃん」


「だが」


「しーつーこーいー……失礼します」


 ノックをして入ると書類を見ていた団長が顔を上げる。副団長が静かに側に立ち、書類を整理している。


「2人とも声がでかい。ナティス、帰省したいのか?」


 団長の言葉にオレはしません、と伝えた。


「……残念だな、ちょうどお前のゴルゴン村に行って調査をお願いしたかったのに」


「行きます」


「ちょ、ゼノ!」


 団長からゼノが書類を受け取る。その書類は殴り書きで、今書きましたと言わんばかりのものだった。


「ゴルゴン村にも獣人がいるだろう?ギフトを持ったやつがいないか見てきてくれ」


 えー、と小さな声を漏らすと副団長がオレを睨んで来た。その瞳はうだうだ言わずに行けと言っているようだった。


「承知しました!行ってきます!」


 オレは副団長が怖かった。






 炎に枝がパキッと食べられる音がする。記憶を巡らせていたオレは止まっていた食事を再開した。


「ナティス、これも食べるか?」


「もういいよ。ゼノも食べろよ」


 明日にはゴルゴン村に着くだろう。憂鬱で仕方がなかった。


「セオドア達と遠征から帰ってから会ってないなぁ。ルキ達とも見舞い来てくれてから会えてないし」


「セオドア達なら、また調査に駆り出されてる」


「えー、またぁ……」


 オレが戻る頃には来る頃には帰って来るだろうか。無事に帰って来てくれたらいい。


「それより、実家がそんなに嫌なのか?」


 ゼノが心配そうに顔を覗いてくる。


「いや、嫌いではないけどさ……ほら、オレって男の獣人苦手だったじゃん?」


 手に持っていた食べかけのご飯を見つめる。思い出すのは茶色い耳にフサフサした大きな尻尾。あの尻尾に顔を埋めて寝るのが好きだった。


「たまたま街に遊びに行って、たまたま獣鬼になりかけたリンネルに出会ってさ、小さかったからかなり堪えてさ……傷つけたやつがいるんだよ」


 今、そいつは何をしているのどろうか。もうオレを忘れていて欲しい。


「……会いたくないんだ」


「なら、尚更会った方がいい」


 ゼノは微笑んでオレの横に座る。


「ナティスはもう獣人を嫌ってないこと、もう大丈夫だっていうこと……あと、あの時はごめんって今なら言えるだろ?」


「……たぶん」


 ゼノの尻尾が優しくオレの背中を叩く。


「お前なら大丈夫だよ」


 そうだろうか。オレはゼノに寄りかかった。整髪剤の香りが鼻を掠めていく。安心する香りだった。


「それに、今は俺がいるだろ?何かあっても1人じゃない。もし酷いこと言われたら慰めてやるよ」


「うん」


 オレは炎を見ながら小さく笑った。








 翌日、日が高く登る前にはゴルゴン村に着いた。実家に行くと畑仕事をしていた母さんは、オレと目が合った。手に持っていた鍬を捨てて、オレに駆け寄ってくる。


「わー!ナティスじゃないかー!騎士団に入りたいって行って、ずっと帰って来ないから心配したよー」


「ただいま。母さん」


 母さんは隣にいるゼノに気づき、オレを守るように抱きしめる。


「この人は誰だい?ナティス、男の獣人はだめだったろ?」


 そっと母さんの腕を解き、ゼノの肩を寄せた。


「オレの大事なバディなんだ。かっこいいだろ?ゼノって言うんだ」


 母さんが大きく目を見開く。


「初めまして、ナティスのバディをさせて貰っています」


 ゼノの顔をまじまじと見る母さんは、笑って涙を流し始めた。


「……母さん」


「良かった。あんたはあんなに獣人嫌いだったから……騎士団で上手くやってるのか心配でね」


 オレはゼノから離れて母さんを抱きしめた。こんなに小さかったっけ。騎士団に入りたいと行って、知り合いの所で剣を学ぶためにこの村を出たのは数年前だ。たまに手紙は送っていた。


「母さん、ごめん」


 こんなに心配させていたなんて知らなかった。


「ーーナティス?」


 顔を上げれば茶色い三角耳にフサフサの大きくて長い尻尾を持った男の獣人がいた。身長も高くなり、声も変わったがオレはその懐かしい顔を覚えていた。


「……シンラ」


 オレが傷つけた友人だった。小さく息をつく。心臓が高鳴る時とはまた違う緊張感に脈打つ。

ゼノがオレの横に立ち、背中に手を置く。それだけで心臓の鼓動が落ち着いて行った。

 そうだ。オレにはゼノがいる。


「久しぶり」


 オレはシンラに向かって、声を掛けた。


 


 





 

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