【番外編】先祖はなんだ?
オレは騎士団に用意されている図書室にいた。
本の独特な匂いが部屋に充満している。誰もいない部屋はオレの足音がやけに大きく聞こえた。
「……あった」
棚の上の方にあった一冊の本を手に取る。それは「獣人の先祖」という本だった。ほぼ資料に近いかもしれない。
獣鬼になると獣人は全身が変化する。騎士団に入った時に「獣」の存在を聞いた。いや、両親からも少しだけ聞かされたことがあった。獣人には先祖の「獣」がいると。
ツノがある獣鬼やゼノの父親のように三角耳に尻尾が長い獣鬼に出会うことがある。元は何なのか知りたくなった。
ペラペラ捲っていくと、手が止まった。「オオカミ」と書かれたページにはリンネルに似た耳と尻尾が描かれたていた。喋らなければリンネルは確かに体が大きくかっこいい。
次のページを捲るとセオドアの尻尾と耳に似ている絵があった。
「……分類は、イヌ」
種類が意外といるんだなと思った。鳴き声は「わん」。
「ぶふっ」
セオドアが「わん」と鳴く姿を想像して面白くなった。今度お願いしたらやってくれるだろうか。
扉が開く音がする。カツカツと足音が聞こえ、オレは必死で笑いを堪えた。
「何読んでんだよ」
「……わ!ゼノ!」
背後から聞こえた声に思わず声を上げてしまう。
「へー、先祖ね」
「……ゼノの先祖は?」
ゼノはオレの後ろから腕を伸ばして、ペラペラと捲る。
「これ」
ネコ、と書かれたページには様々な種類の姿があった。綺麗なフォルムで美しかった。鳴き声は「ニャー」。
「ぶふっ……ニャー、ふふ」
ゼノの尻尾がオレの脚をペシリッと叩く。
「ニャーって言ってみろよ」
ふざけて言ってみた。ゼノに怒られるかもしれないが、聞いてみたかった。
「……にゃー」
ゼノがオレの耳元で鳴く。絵の感じはもっと可愛いのに、何か違った。色気があるというか、艶があるというか。振り返ると耳をピコピコさせたゼノがにやり、と笑う。
「にゃー……」
団服の下から手を入れられて、シャツを上げられる。
「ばっ!おいっ」
「にゃー?」
「は!?」
耳を甘噛みされ、ざらざらした舌で首筋を舐められる。
「……っ」
肌に触れる指が腰を撫で、腹部へ進み上の方へと上がってくる。
「ちなみに副団長はこれ」
本を捲られ「クマ」と書かれたページが出て来た。見た目が怖く、しかしどこかつぶらな瞳が可愛かった。何より、小さな尻尾が可愛い。
副団長の尻にもそんな尻尾が付いているのだろうか。想像してしまう。笑ってしまいそうになるのを耐える。
バカにしているつもりはない。ただ、あの怖い人の尻に可愛い尻尾があると思うと耐えられなかった。
「尻尾みたい、かもっ……ぶふっ、くくっ」
「副団長がそれ聞いたらきっと怒るな」
それを聞いたら笑いが一気に収まった。あの人の睨みは本当に怖い。それに手合わせも尋常じゃない力で吹き飛ばされる。オレは本を閉じて元の場所にしまった。またゆっくり、見よう。
今日は何だか、読む気が失せた。
「ゼノ、見回り行こう」
「……そうだな」
肌に触れていた手がオレの服を整えていく。
「帰ったらまた、にゃーって言って」
ゼノの手が止まり。オレを見る。さっきのあの声が耳に残っていて、体に残る熱がそれを要求している。ゼノは笑って、唇にキスを落とした。
「とりあえず、ナティス。絶対、報告書出しに行く時……笑うなよ」
「わ、わかった」
だが、見回り後の報告書提出時、オレは耐えられず笑ってしまい副団長にこってり怒られた。もちろん、ゼノにも怒られて「にゃー」という言葉が嫌いになるくらい啼かせられたのだった。




