3.新しいバディの相手?
「……ここ、だよな」
翌日、オレは渡された地図を元にバディを亡くした獣人の寄宿舎へ来ていた。
ゼノは置いて来た。一緒に行く、と言われたが断った。いたら面倒くさそうだと思ったからだ。
そこは街から少し離れた場所にあった。周りは木々で覆われていて大きな門がなければ見けられなかった。
オレは門番に身分証を提示する。同じ騎士団なのに、とても冷ややかな目を向けられた。
「話は聞いている。入れ」
重たそうな門が開く。外観は美しかったのに、足を踏み入れてみるととても殺風景な街並みが続いていた。
そして何よりも冷たい空気が漂っている。ゼノからは感じたことがないものだった。
街の中を端から端まで歩いて見たが誰も歩いていなかった。
気配はある。だけど、息を潜めてこちらの様子を伺っているようだった。
「……これじゃあ無理じゃね」
団長も副団長の心を開かせるのは大変だったと言っていた。
その現実を目の当たりにし、オレは近くのベンチに腰を下ろして項垂れた。
獣人達の心の傷はオレが思っていたよりも深かった。
ふと、足元に影が出来る。顔を上げるとそこにいたのはゼノと同じ男の獣人だった。クリーム色の垂れた耳にふさふさな尻尾。ブロンドの髪に少し垂れた目尻はゼノとはまた違った意味で綺麗だった。
「君、こんなところで何をしているの?」
あまりにも優しい声で、オレは拍子抜けしてしまう。
「新しいバディを見つけに来たんです」
「そう、君のバディも死んでしまったのかい?僕も亡くしてしまったんだ」
「あ、いや……その」
解消するために、なんて言えなかった。きっとこの獣人もバディを亡くしている。
なぜか言葉に出すのが怖かった。
「ねぇ、僕の家に来ない?お茶出すよ」
「いや、いいです。なんか悪いし」
その獣人に腕を引かれる。元騎士団にいただけあって、大きな手は力が強かった。そしてとても冷たかった。
ゼノ以外に男の獣人に触れられたことがなかったからか、思わず腕を振り払おうとしてしまう。
「だめだよ」
先程までの穏やかな声は影を潜め、低く冷たい静かな声だった。
「大丈夫だから、ね」
「は、はい」
オレは冷や汗が止まらなかった。結構強く腕を振り払ったはずなのにびくともしなかった。
オレは震える唇を噛み締めた。
その獣人の家は小さな家だった。周りには様々な花が咲き誇り、この獣人が世話をしているのだと思うと納得できた。
家の中は質素だったが生活感があり、どこか甘い匂いが漂っていた。
「こんなのしかないけど、どうぞ」
ことり、と目の前に置かれた紅茶は綺麗な茶色を揺らめかせる。
「ありがとう、ございます」
「ここはなんだか冷たい所だなって思ったでしょ?」
ふふ、と笑いながら紅茶を一口飲んだその獣人を見てオレもコップに口を付けた。
りんごのような甘酸っぱいような味がした。
「そうですね。いつもこんなもんなんですか?」
「いや、そんなことないよ。いつもは賑やかかな。みんな傷は抱えているけど、楽しく過ごしているよ。亡くなったバディの自慢をしたりしながらね」
ではなぜ、オレが行ったときには誰もいなかったのだろうか。
「そうだ。僕、名乗ってなかったね。セオドアっていうよ。よろしくね」
「ナティスです。よろしくお願いします」
「じゃあ、ナティス。さっそくなんだけど、僕を新しいバディにしない?」
オレの手に乗せられた手はやはり冷たくてまるで今にもいなくなってしまいそうだった。
「いや、オレは男性の獣人が苦手で……女性の獣人がいいんですよね」
「残念、ここは男性しかいないよ。ギフトを持った女性の獣人はあまり出現しないからね」
「う、うそだろ」
オレは再び項垂れた。まさか女性がいないなんてあんまりだ。他の隊には何人かいたからいるものだと思っていた。
団長はなんで教えてくれなかったのだろう。
「まぁ、まぁ。ナティスは僕のこと怖い?」
「少しだけ。でもすごい怖い訳ではないかもです」
セオドアは笑ってオレの前に来た。尻尾をパタパタと揺らしていた。
ブロンドの髪が窓から差し込む光によって金の糸のように綺麗で目を奪われてしまう。
「見過ぎだよ。ちょっと、試してみようか」
「なにを」
セオドアの顔が近づいて来て、思わず目を閉じると首筋にキスをされた。そこから優しい熱がオレの中を巡っていく。ゼノのギフトが塗りつぶされていくように。
「僕のギフト、届いた?」
「と、どきました。バディじゃなくても渡せるんですか?」
「渡せるけど、本当はだめだよ」
「え、だめって、どういう」
セオドアは立ち上がり、オレの髪を片方耳にかける。
「……僕たち、相性いいかもね。君は僕といて安心するんでしょ?」
「た、たぶん。分からないですけど」
オレの頬にセオドアの手が触れる。ほんの少しだけ温かくなっていた。
ただ、どうしてだめなのか理由は教えてくれなかった。
夕方、部屋に戻るとゼノが驚いた顔をしていた。カツ、カツと足音を立てながら近づいてくるとオレの首筋に顔を近づける。
ゼノの整髪剤の爽やかないい香りが鼻を掠める。
「な、なんだよ」
「何をされてきたんだ」
「別に何もされてねーよ!放せ!」
ゼノの腕を振り払う。
「私のギフトが上書きされてる」
尻尾を思いっきり床に叩きつけるゼノの表情はどこか怒っているようだった。
「じゃんけん」
「はぁ?」
「好きだろう?じゃんけんでどっちが抱くか決めよう」
意味が分からなかった。オレの体の中にはセオドアのギフトがある。今はいらない。
「いや、オレさっき」
セオドアに貰った、と言おうとして口を噤む。
「じゃあ、ナティスの負け、ってことだな」
「はぁ!?んなわけあるか!勝負してやるよ!」
ゼノの尻尾がゆらゆらと揺れ始める。
「じゃんけん」
「「ぽん」」
オレがグーでゼノがパーだった。
「そんなーーーー!いやだ!わー!いやだーーー!」
ベッドの上にうつ伏せで倒され、その上にゼノが覆い被さってくる。
顎を持たれ、横を向かせられるとセオドアにキスされた場所を重点的に舐め始めた。
「お、い…んんっ」
熱くてザラザラとした舌がオレの首筋を往復していく。
「私じゃなかったら下手したら死んでたぞ」
「それ、どういう…あっ」
上着の下から入ってきた手はとても熱かった。
セオドアはあんなに冷たかったのに。
「誰のことを考えているんだ」
ゼノはそういってオレの首を甘噛みした。
オレはセオドアから貰ったギフトがゼノに再び塗り替えられていく。その感覚を味わいながら、やっぱりこいつに抱かれたくないな、と思った。




