【番外編】3.ギフト練習のその裏で side:カイ
「バディのいない獣人を呼ぼう」
遠征部隊の報告書を読んだ後、そう言い放ったエレンさんの言葉に私は固まってしまった。
数日が経った頃、私は訓練所の2階から他の獣人からギフトを受け取るエレンさんを見下ろす。
唸る部下達に睨みを効かせる。練習が終わるとエレンさんは執務室へ行き、仕事をし始めた。私は抑えられそうにない衝動を拳を握り締め耐え凌いでいた。
私以外の臭いがするエレンさんを今すぐに組み敷いてしまいたかった。
エレンさんはペンを机の上に置くとため息をつく。きっと苛立っている私に気づいたのだろう。
「カイ。すまない」
立ち上がったエレンさんが私に手を伸ばす。それは、さっきまで口付けをされていた手だった。
パンッと乾いた音が部屋に響く。
「……あ」
私はエレンさんの手を払い退けてしまった。傷付いた顔をしたエレンさんは私に叩かれた手を握りしめる。
「あ、あのすみません。少し、外へ出てきます」
執務室を出て、少し離れた場所で立ち止まり壁を殴る。
私は何をやっているんだ。今、一番辛いのはこの選択でしか勝機がないと判断したエレンさんだ。寄宿舎の獣人達に頭を下げてお願いしていた姿を知っている。
なのに、側で支えないといけないのに、他の獣人の臭いに耐えられなかった。
過去にも一度だけ、エレンさんは獣鬼になりかけた獣人に脚を噛まれながらギフトを吸い出したことがあった。私はその臭いに耐えられずその正気に戻った獣人を殴り倒したことがある。
そのせいでリンネルには今でも怖がられていた。
今日も同じことをしてしまいそうだった。あの獣人の襟首を持って地面に叩きつけてしまいたかった。
「くそっ!」
それでも私はすぐに戻れなかった。外を眺め、他のバディの様子を確認し、あっという間に日が暮れかけていた。こんなに一緒にいないのは初めてだった。
執務室に戻るとそこにはエレンさんの姿はなかった。仄かに残る煙草の匂いが残っていた。
「禁煙、してたのに」
私が側にいなかったから。傷付けてしまったから。
執務室の扉が開く。
「戻ってたのか」
エレンさんの声が聞こえた。その声はいつもより明るさはなく、弱々しかった。
私は執務室の扉を閉め、エレンさんを抱きしめる。その唇にキスを落としギフトを流し込む。上書きを半分だけ済ませ、唇を離すと団服の胸元を掴まれエレンさんから口付けをしてきた。
私は差し込まれた舌を口内に迎え入れ、エレンさんの後頭部を掴んで深く口付けを繰り返す。
あれからどれくらい経ったのだろう。窓の外はいつの間にか暗くなっていた。灯りの灯っていない執務室のソファで私達はまだ互いの唇を貪っていた。互いの息遣いが執務室に響く。
「煙草、吸ってなかったんですね」
最初にキスをした時に思った。口内から煙草の匂いはしなかった。
「吸おうと思ったけど、カイとの約束だから」
私はエレンさんを抱きしめる。
「あの時、手を払ってしまってすみません」
「いいよ。しょうがないだろ」
エレンさんは私から離れていく。拒絶されたようで悲しかった。エレンさんはすぐ戻ってきて私の膝の上に乗ると何か付けられた。シンプルなシルバーのチェーンだけのネックレスだった。エレンさんはもう一つ出して自分の首にも付ける。
エレンさんは何も言わず、私の頬にキスを落とし、膝の上から退く。
「さて、部屋に帰ろうか」
私は付けられたネックレスに触れ、エレンさんの優しさを知る。こみ上げてくるものがあった。私は腕の中にエレンさんを閉じ込める。
首筋にキスを落とし、団服のボタンに手を掛ける。
「待て待て、部屋に帰ろう」
「無理です。待てません」
慌てるエレンさんの唇を塞ぐように舌を這わす。
「……んっ」
団服が床に落ちる音がする。私も団服を脱いで床に落とす。私はエレンさんの唇に口付けをした。
「今度は部屋でゆっくり、したい」
「そうですね」
私はとても楽しかった。
「……キスしてくれ」
私は一度、バディを亡くした。殻に閉じ籠る私を出してくれた彼は私の最愛になった。こんなに甘えられるのもこの人のお陰だ。
「愛してるって言ってくれますか?」
そう言うと恥ずかしいのか小さく唸る。
「……愛してるよ」
照れくさそうな顔をする。
「私も愛してます」
そっ、と口付けを落とす。
結局、私たちは執務室で一夜を過ごした。




