25.じゃんけんの勝利の行方
ウォーキャット家の夕食はそれはそれは豪華だった。まだ少し赤身が残った肉が出て来た時は驚いてしまった。そんなオレの様子を見て、ゼノは楽しそうに声を出して笑っていた。
食後、ゼインがオレと話をしたいと言ってきた。食事マナーがよろしくなかったのだろうか、と身構えているとゼインの尻尾がゆっくり揺れていた。
どうやらそういうことではないのだろう。
「兄さん、少し借ります」
「早く返してくれるとありがたい」
ゼノはひと睨みをすると食堂を出て行った。2人だけになった空間は居心地が悪かった。
「兄さんがあんなに笑うなんて、思いもしなかった」
ゼインは手の中にあるティーカップの中身を覗き込みながら言う。
「母と弟が獣鬼になった父に殺されてしまったのは知っていますか?」
悲しい記憶を思い出しているようだった。幸せだった生活が一変した過去はこれからもゼノとゼインについて回る。
「ええ、一応」
「兄はそれからあまり笑わなくなったんです。でも、それが今日、笑っていた。きっとバディという貴方に出会えたからですね」
本当に良かった、と小さく声を漏らす。
「兄さんが父を弔ってくれたお陰で私も前を向けます。兄さんの横には貴方がいますし……ね」
意味深な溜めと眼差しにオレは獣人の嗅覚を鋭いことを思い出す。きっとゼインにはオレ達の関係はバレているのだろう。
「困ったことがあったらいつでもウォーキャット家に来てください。我が家は貴方を歓迎します」
満面の笑みを浮かべ、ゆらゆらと尻尾を揺らすゼインは嬉しそうに笑うゼノの顔と良く似ていた。
ゼインと別れ、部屋に戻ると尻尾で床を叩いているゼノがいた。
「……遅い」
「いや、そんな遅くはなかったと思うけどな」
オレに近づいて来たゼノは待っている間にどうやら入浴を済ませていたようだった。風呂上がりのいい香りがする。
オレを抱きしめ、キスをしてこようとするゼノから逃げるように顔を背けた。ここはゼノの実家でもある。きっとキスをしてしまえばずるずると流され、またゼインに気づかれてしまう。
オレは恥ずかしかった。
「オレも入ってこよーっと」
オレは逃げるようにゼノの腕から逃げて風呂場に向かった。
風呂を出るとゼノがオレの行く手を阻んでいた。顔の両サイドに手を置き、オレを見下ろしていた。
「どうして逃げる?」
「いやさ、なんかゼインに色々バレててさ。これ以上、なんだろくっついたらバレるかなーって」
ははは、と笑うとゼノはオレの耳にキスを落とす。
「今更だろ」
囁かれた言葉にオレは顔に熱が集まっていくのを感じた。ゼノを見るとそのまま唇を奪われた。
「……っ、んんっ」
腰を抱き寄せられ、ベッドへ連れて行かれた。2人で横になっても全然余ってしまうくらい大きなベッドだった。
オレはゼノを弱々しく押し返す。いやではない。人様のベッドでしている気分で恥ずかしかった。
けれど、ゼノの瞳は早くオレを食べたいと言わんばかりの熱を宿していた。
「じゃんけん、しない?」
少しでも雰囲気を壊そうと思った。ゼノは少し考えるフリをする。
「……やろうか」
まさか乗ってくるとは思わなかった。
「じゃんけん、ぽん」
オレがパーでゼノがグーだった。
初めてオレが勝てたのだ。
「わ!え!やった!」
「じゃあ、しょうがないな。どうぞ?お好きに。今日やらないと次はないかもな」
ゼノは笑ってオレを自分の上に乗せる。オレが押し倒しているようだった。
「優しく抱いてくれよ?」
何をどうやってやればいいんだ。この機会を逃したらもしかしたら今後、ゼノを抱くことはないかもしれない。でもベッドを汚したら。でも、もうこの機会はないかもしれない。
オレはでもでも、と葛藤を繰り返す。
「よしっ!」
抱こう。
オレはいつもゼノにされているようにキスを落とす。
次は、耳にキスを落として、三角耳の横を甘噛みする。
ゼノにしているはずなのに、自分がされている気持ちになってきた。
「……っ」
ゼノが楽しそうにオレを見上げている。
「……っ、くそっ」
オレは身を屈ませ、ゼノの耳にキスをする
「ゼノがいい…抱いて、くれ」
オレの視界が反転し、ゼノに見下ろされる形となった。
「逃げるなよ」
髪をかき上げ、欲望を剥き出しににした瞳がオレを捉える。
どうせ逃すつもりははいくせに。こうなると分かってたくせに。
「やっぱ、嫌いだ」
ゼノはオレに覆い被さると、悪戯な笑みを浮かべてオレの羞恥を飲み込んでいった。
朝日が眩しくて起きたオレは胸に付けられた赤い跡に気付き、昨夜の情事を思い出す。
あれは激しかった。横を見ると綺麗な顔をして眠るゼノがいた。
憎たらしいほど顔がいい。それに悔しいが剣も強いし、性格もいい。
オレは最初から態度が悪く、嫌悪も剥き出しにしていた。ギフトを渡せない相手に獣鬼になったらどうしよう、と考える時もあったはずだ。それなのにずっと待っていてくれた。
オレはゼノの頬を指先で撫でる。
「……オレのバディはゼノだけだ」
唯一無二と言っていいだろう。ゼノ以外、考えられなかった。獣人が他のバディでは無理だという理由が分かった。替えがきかないからだ。
眠っているゼノの顔に近づける。
「嫌わないでくれて、ありがとう」
オレを待っていてくれるのはいつだってゼノだけだ。
そっと、閉じられた唇にキスをする。
「好きだ」
腰を抱き寄せられる。
「お、起きてたのか!」
「あんな可愛いことされたら普通起きるだろ」
ゼノはオレの頬にキスをする。
「……もう一回言って」
甘い声で囁いてくる。オレは勝ち誇ったようなニコニコとした顔にいらっとした。
「……やだね」
オレは笑ってゼノの唇にキスをした。
ありがとうございました!
番外編もお楽しみ下さい。




