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24.ウォーキャット家

 翌日、ゼノが行きたいところがある、と街の見回りのついでに寄ることになった。


「でっか、すご、うざ」


 目の前には貴族です、と言わんばかりの大きな屋敷が建っていた。


「バカが出てる」


 ゼノはため息をつき、門番に手を挙げ中に入っていく。


「ここが、ゼノの家か」


「元、な。今の家は騎士団の寄宿舎だ」


「あ、そっか。ギフトか」


 だが、ゼノは気にすることなく中へずんずん進んで行く。貴族社会とは無縁の場所にいたオレはある物全てが豪華に見えた。


「そういえば、ナティスは実家に帰省しないな」


「オレの家、遠いんだよ。別に帰らなくても向こうは気にしないだろ」


 ゼノはオレの肩に手を置いて、小さく笑う。


「今度、一緒に行こう。会える時に会っておけ」


 ああ、そうか。ゼノにはもう会いたくても会えない人達がいた。

 無神経なことを言ったな、と無意識に後頭部に手を置いてその居心地の悪さを払う。


「これは、ゼノ様」


 老人の執事が話をかけてきた。ゼノは久しぶりだな、と言って普段と違った笑みを見せていた。

 どこか遠い存在に感じた。


「そちらは?」


「私の大事なバディだ」


 大事なバディ、と言われオレは嬉しくなった。


「それは、それは、ということはまさか……あの方は安らかに逝かれたのですか?」


「ああ、それを今日、ゼインに伝えに来たんだ」


「ああ、それは誠に」


 執事は肩を震わせ泣いていた。この間、討伐したゼノの父親のことだろう。

 父親を楽にしてやることはウォーキャット家の悲願だったのかもしれない。

 涙を流す執事に連れられて歩いて行き、とある扉の前で足を止める。ノックをして、中に声をかけていた。


「どうぞ」


 ゼノよりも少し若く、高い声だった。執事が扉を開けてくれ、オレたちは中に入った。書斎だろうか、机の横にゼノに似た白い髪に三角耳と長い尻尾の獣人がいた。

 ゼノが綺麗としたら、その若さを残した獣人は愛らしさがあった。


「兄さん、お久しぶりです」


「ああ、ゼイン、元気そうだな」


「兄さんも」


 2人は抱擁を交わす。ゼインと呼ばれたゼノの弟は愛らしさを残しつつもやはり貴族。しっかりと当主としての風格があった。

 オレは作法もあまり知らないし、ガサツだ。ボロが出る前に早く帰りたかった。


「ゼイン、父はやっと逝くことができた」


「ああ、やっと父様は……ありがとう、兄さん」


「いや、礼なら私のバディに言ってくれ。ナティスのお陰で父を楽にしてやれた」


 余計なことを言いやがって、と思った。礼を言われたらなんて返せばいいんだ。


「彼、ですか?」


 ゼインが疑惑の目を向ける。尻尾が少し速くゆらゆらと揺れていた。ゼノはゼインの頭に手を置く。


「ナティスがいなければ私もここにいなかった。父との戦いで私は獣鬼になりかけたんだ」


 驚いた顔をしたゼインは慌てた様子でこちらに向かって来て、両手を掴まれる。


「ナティスさん、先程は失礼しました。兄さんを助けてくれて、本当にありがとうございます」


 ゼインの目尻から一筋の涙が零れる。


「兄さんまでいなくなってしまったら……もう、僕の家族は誰もいなくなってしまっていた」


「えっと、はい」


 オレはどう返事をしていいのか困ってしまった。どういたしまして、もおかしいし。グルグルし過ぎて考えるのを止めた。


「2人がまたこうやって笑って会えるお手伝いが出来てよかったです」


「そうだ!今日、泊まって行ってください!夕食、ご馳走しますよ」


 それは食べたいかも、と思ってしまう。あんなに帰りたいと思っていたのに。頭の中でどんなご馳走が出るのかな、と思っているしまう。

 ゼノと目があった。笑いを堪えているようだった。


「くくっ、わかった。ではとりあえず、一度騎士団に戻って報告書とかを出して来よう」


 オレとゼノは一度、屋敷を後にした。残りの見回りを済ませ、報告書を出した。その帰り、セオドアに会った。急に腕を掴まれたかと思うとにやにやしていた。


「なんか君達の距離、近くなってるね」


 耳元でこそり、と言われる。顔に熱が集まるが、オレはあるものを見つけてにやりと笑った。

 屈んでいるセオドアの首の付け根に赤い印があるのが見えた。


「うっせぇ、それはお前もだろ」


「え、何が」


 指で突ついて場所を教える。


「オレ、それ知ってる。キスマークだろ。ついてんぞ」


 セオドアはバッとその場所を手で覆う。少し顔が赤かった。

 いつもセオドアにはやられてばかりいたせいか、やっとやり返しができた気分だ。


「じゃーなー」


 オレはにやにやが止まらなかった。隣にいるゼノがオレをジッと見下ろしてくる。


「なに」


「今度、付けてやるよ」

 

「は!?」


 ここに、と言って服で隠れた胸元を指で突つかれた。


「キスマーク」


 にやり、と笑ったゼノはオレを置いて尻尾をゆらゆら揺らしながら歩いて行った。

 オレはその姿を呆然と見つめ、顔に熱が集まっていくのを感じた。


「良かったね」


 首元を隠したセオドアに肩を叩かれた。


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