22.バディ
あれから数日かけて帰還したオレは、熱を出した。傷口が痛み、メソメソと情けなく泣いて医務室のベッドの上で過ごしていた。
「バカだなー!獣人に噛まれるの2回目なんだってぇ?」
見舞いに来てくれたルキはオレの頭をベシベシ叩く。痛かった。
「だめだよ!ルキ、もっと優しくしてあげて!」
リンネルはルキを抱き上げ、オレの頭を優しく撫でてくれる。
「それにしても無理したね」
オレの姿を見てリンネルは耳を垂らす。
「……お前はどうやって戻ったんだ?」
「ボク?ゼノとは反対でボクは満帆になっちゃってたんだよね。それで、団長さんに助けて貰ったよ」
「団長が?」
「そうだよ。ボクのギフト、沢山減らしてくれたの。命の恩人だよ。だから団長さんのこと大好きなんだぁ」
嬉しそうに尻尾を揺らす。
「団長はどうやって」
「お前と同じだよ」
団長が医務室に入って来た。副団長が入ってくるとリンネルの尻尾の動きが止まった。ゆっくりと床に落ちていく。
「団長も噛まれたんですか?」
「脚をな。で、吸えるかなーと思ったらできたんだよ。で、体調はどうだ?」
「全然です。痛いです。無理です」
痛み止めをもらっても痛いままだ。
「まあ、しばらくはゆっくり休め。お前の大好きなゼノもそろそろ見回り終わって帰ってくるだろうし、仲良くな」
「……大好きじゃありません」
「はいはい」
団長はオレの頭を撫でると医務室を出ていった。副団長もその後を追って出ていく。
ルキとリンネルもまた来る、と言って部屋を出ていった。
誰もいなくなった医務室は静かだった。ゼノは見回りでいないし、暇になった。窓のカーテンが揺れ、時々差し込む光が子守唄のようで瞼が重くなっていく。団長にああ言ったが、本当はゼノに会いたいし、触りたいと思っている自分がいる。
オレはゼノの顔を思い出しながら、視界はゆっくりと閉じていった。
次に目を覚ますと窓が閉められていた。明るかった窓の外は熟した果実のようなオレンジ色に染まっていた。だいぶ寝ていたのだろう。ゼノは無事に見回りから帰ってこれただろうか。
「……会いたいな」
心の中で呟いた声が口から漏れた。
出してしまった言葉に一人で緊張してしまう。
ふと、横を見るとゼノが椅子に座っていた。聞かれてしまった、と一瞬心臓が跳ね上がるがすぐにその心配はないと安心した。腕を組みながら静かに寝息を立てて眠っていたからだ。
見回りが終わって、ずっと側にいてくれたのだろう。嬉しかった。
オレはどんどんおかしくなっている。ゼノがいるだけで嬉しくて、胸が熱くなる。動悸もする。
その気持ちの答えをオレは薄々気づいていた。あの戦いでゼノを失う怖さを知ってからだ。
ゼノに触れていたい、と思ってしまう。今もそうだ。そっと手を伸ばし、ゼノの膝に触れてしまう自分がいる。
起きてオレを見て笑って欲しい。
「……起きたのか?」
ああ、この声だ。
「ナティス、おはよう」
ゼノはオレの顔を見てふわり、と笑う。薄々気づいていた感情はゼノの声によって波紋のように広がり、確実なものにしていく。
好きだ。
好きだ。
大好きだ。
頬をゼノの指が撫でる。その手をオレは抱きしめて胸の内に溜め込んだそれを伝えたかった。
「……ギフト、まだ大丈夫か?そろそろ危ないだろ?」
オレは何を言っているんだろう。だけど、これはバディとしておかしくはないはずだ。
ゼノは頬からオレの唇をそっと撫でる。
「キス…してもいいか?」
「やだって言ったら?」
「それは困るな」
椅子から立ち上がったゼノの手が、オレの顔の横に置かれる。ベッドが小さく軋み、ゼノの顔が近づいてくる。
目を閉じると唇に柔らかくてほんのり熱いものが触れる。同時にギフトが流れ込んできた。それは相変わらず激しくてどこか優しいものだった。
そっと、離れていく唇を目で追ってしまう。ゼノにオレの気持ちを気づかれてしまっているのだろうか。
「ごめん、もう少しさせて」
「んっ……」
ゼノが再びオレに口付けをし、今度はザラザラした舌がオレの口内に入ってくる。
オレはそれを当たり前のように受け止め、舌を絡めた。
ギフトは流れて来なかった。これは普通のキスだ。もう何度もしたことがあるが、いつものキスとは何か違う熱を持っていた。
知ってしまった感情はオレの胸が痛いくらい、息が苦しいくらい高鳴っていく。
唇が離されるとオレの手は震えていた。
「あの約束、覚えているか?」
ーーーこの遠征が終わったらナティスに言いたいことがあるんだ。全てが終わったら聞いてくれるか?
忘れるはずがない。オレはそれが知りたい。期待したい。
「怒られることじゃなければ聞く」
「またそれか。怒るわけないだろ」
ゼノは笑ってオレを見下ろす。その笑顔が堪らなく好きだ。
ゆっくりとまたその優しい顔が近付く。鼻と鼻が触れる場所で止まる。
「……好きだ、ナティス」
「……っ」
嬉しいのに胸は苦しかった。好きだって返したいのにその言葉は、喉に詰まって返せない。どうすれば自分の気持ちが伝わるのだろう。
オレはゼノの襟を掴んで引き寄せたてキスをする。
これが今のオレの精一杯の返しだった。
ゼノはそれを皮切りに溺れるような口付けをし始める。
オレもそれに精一杯答えるようにゼノにしがみ付いた。オレたちは時間を忘れるくらいキスをした。




