2.抱かれたくない
「ぎゃあああああ!」
黒いモヤに覆われ、獣となった獣鬼を薙ぎ払う。
ゆっくりと灰となり空高く散って形を残すことなく消えて行く。
獣鬼は魂をギフトで燃やされていると言われている。そのせいか倒すと跡形もなく消えてしまう。
だから彼らには墓がない。
オレは自分の手を見た。初めて獣鬼を軽々倒すことができた。今までは倒せす傷を負い、医務室へ直行だった。
「騎士団の兄ちゃん、ありがとな!」
街の人々がオレを取り囲む。こんなことは初めてだった。オレはみんなをやっと守れたのだと1人感動していた。
だが、気に入らないことがある。肩に手を置かれる。
「ナティス、体は大丈夫か?」
こいつだ。
ゼノはオレを心配そうな顔で上から見てくる。
昨日、オレたちは体を繋げた。ぶっちゃけ全然大丈夫じゃないし、腰は少し痛い。ギフトのお陰で平気な顔をしていられる。
「うっせ、話しかけんな」
肩に乗せられた手を払いのけ、オレは街の見回りを再開する。その後ろをゼノが付いてくる。
「くっそ、どうして一緒に行動なんだよ」
頭の中ではバディだから仕方がないということは分かってる。じゃんけんを提案して負けて、抱かれてゼノにあんな醜態を見せたのが恥ずかしかったのかもしれない。
未だに体に残るゼノの痕跡が嫌ではないのが癪に障る。
そして貰ったギフトで獣鬼を初めて倒せたという事実。
全てが重なって自分を許せなかった。
街の巡回が終わり、団長に報告をしに行く。
「どうだ、ギフト。すごいだろ?」
キラキラとした視線でオレを見てくる団長に顔を顰めると、その横にいる副団長に睨まれる。
「はは、いやぁもう、初めて獣鬼倒せました。ギフトってすごいですね」
「そうだろ、そうだろ。でも、ギフトを貰ったからって調子に乗ってはだめだからな。お前が死んでしまったら片割れは困ってしまうからな」
実際、バディが死んでしまい悲しみに暮れている者を一度見たことがある。
「このカイも一度、バディを亡くしている」
団長は副団長の頬に触れる。
「獣人はバディをとても大事にする傾向がある。そのせいで次のバディは受け付けられない。この俺もカイの傷付いた心を開かせるのには苦労したよ」
副団長は幸せそうな顔で団長の手にキスを落とす。
ゼノも同じなのだろうか。だから昨日もあんなに優しくオレを抱いたのだろうか。
ちらり、とゼノを見るが何考えているのか分からない表情をしていた。
「だからお前が死んでしまったらゼノは獣鬼になる可能性がある、ということだ。まぁ、すでにゼノがお前のことを大事に思っていたらの話だがな。実際にバディを解消して新しく組んだ者もいる」
ゼノと視線が合う。オレはすぐに逸らした。
「……ナティス。まだ男の獣人が苦手か?ゼノは嫌か?」
副団長が団長の耳元で何かを言う。それを聞いた団長が頷く。
「このままだとゼノが可哀想だ。一度、バディを失った獣人の元へ赴いて来なさい。幸い、まだバディを組んで日が浅い。解消もしやすいだろう」
ゼノとバディを解消できるのか?
オレは嬉しかった。容姿端麗でオレより身長高くて何よりも強い。男の獣人が嫌というのもあるが、自分がゼノと比較されるのが嫌だった。
今だって団長はゼノが可哀想だと言う。可哀想なのはどう考えてもオレじゃないか。
男の獣人は苦手だ、と伝えたのにこんなやつと組まされて、こんな劣等感の塊になってしまった。
拳を強く握りしめる。
「是非、その方々と会ってみたいです」
団長はため息をつき、ゼノを見る。
「私もそれで構いません」
ゼノの声はいつもより低かった。
「ギフトが切れるのは1週間くらいだ。それまでに新しいバディを見つけないさい」
団長からバディを亡くした獣人達が暮らす寄宿舎の地図を貰った。
団長の執務室を出てからゼノはずっと尻尾をブンブンと左右に振っている。
時々当たるもんだからオレはその尻尾を毟り取りたくなった。
「おい、その尻尾うるさいんだけど」
「……ナティスがそうさせてるんだよ」
「はぁ?意味わかんねぇんだけど、オレ別に悪いことしてなくね?」
ゼノがピタリ、と足を止めた。尻尾が少し膨らんでいる気がする、
「それ、本当に言っているのか?」
低く唸るような声で近づいてくる。そのまま襟元を掴まれて通路の壁に押し付けられた。
「さっきも聞いただろう。私はもうバディはお前だけだと思っている。それなのにお前は別の奴を選ぶ。そう言ってるんだぞ?」
ゼノは歯を剥き出しにして唸る。
「お前、そんな顔もできんだな」
オレは鼻で笑った。いつもただ澄ました顔してオレの横にいるのに、今は怒りで満ちた顔をしていた。笑いが込み上げてきてしまう。
「今度の相手は優しくて可愛いやつがいいなぁ」
ゼノはオレの顎を掴む。その指先に込められた力に思わず眉を顰めた。
「なんだよ、殴りたければ殴れよ」
「殴るわけないだろう」
ゼノはオレにキスをした。
無理矢理割って入ってくる舌はザラザラしていて、昨日の残っている熱を思い出させられる。
抵抗するがギフトがある状態でもやっぱり獣人の力には敵わないと思い知る。
「~~~っ!離せ!」
ゼノの舌を噛んでやった。口元を抑えるゼノの瞳はオレを鋭く射抜く。
オレは口元を拭いて口内に残った鉄の味の元を吐き出す。
このキスでゼノからギフトがオレに巡ることはなかった。
やっぱり、オレはゼノを信頼できないのだろう。
「1週間後、お前と離れられることが楽しみで仕方がねぇよ」
ゼノは悔しそうに尻尾を床に叩きつける。
「勝手にしろ、バカナティス」
わざとらしくオレの肩を押して去っていくゼノにオレは舌打ちを漏らした。
オレはもう一度、口を拭う。けれど、思い出した熱は消えることはなかった。




