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18.決戦前夜の約束


 あのままゼノと気まずいまま、遠征に出ることになってしまった。

 ルキ曰く、その山までは数日かかるという。

 前を歩くゼノの代わりにレオはオレの横にいた。レオとはまたギフトの練習も再開していた。オレ達の様子を見て、普段通りに接してくれていた。

 何日か野営を繰り返すと山に程近い街で宿泊することになった。もちろん、部屋はゼノと一緒だった。

 入浴を済ませ、少し話がしたいと思った。


「ゼノ、やっとここまで来れたな」


「……そうだな。明日も早いから、もう寝よう」


 ゼノはベッドに入ってしまった。オレは意を決して、ゼノのベッドに入った。


「何、してる」


 少し上擦ったような声だった。


「寒いから」


「いや、今はまだ暖かいだろ」


 そう言いなからもゼノはオレに布団をかけてくれる。

 数日ぶりにゼノとしっかり目があった気がす


「頭、撫でてもいいか?」


「どうぞ」


 差し出された頭に付いている耳がピコピコと動いている。オレはそっとその耳に触れ、頭を撫でる。ゼノの髪は普段使用しているシャンプーやコンディショナーでないため、別の香りがした。

 甘い花のような香りだった。オレも同じ匂いをさせているだろう。

 嫌いではないが、いつも使用している物の匂いの方が好きだった。


「……私には、父と母と下に弟が2人いたんだ」


 ゼノがオレの背中に腕を回す。


「父はギフトを持っていたが、騎士団に入ることを拒んだ。貴族、という立場もあったかもしれない」


 垂れて来た耳に触れる。


「その日は一番下の弟の誕生日だった。私と弟は飾り付けをしていた。そんな時、大きな音が聞こえ玄関に行くと母と一番下の弟が無惨に引き裂かれていたんだ」


 オレを抱きしめる腕が強くなっていき、少し息苦しかった。


「私はお前に甘えてしまった。すまない。怖かったんだ。レオの手に口付けをしようとする姿を見て私がそうさせたんだって思った」


「違う、あれはオレがいけない。ギフトの譲渡がどれほど大事なことなのか知っていたのに」


 ゼノの頭を抱きしめた。ゼノもそれに応えるように抱きしめ返してくれた。傷付いて痛かった胸が温かくなっていく。


「明日、絶対にお前を守るから。側にいてくれ」


「いいよ。お前となら一緒に死ねるかも」


「絶対に死なせない」


 ゼノはオレの腕の中から顔を上げる。その顔は決意が固まった顔だった。


「私は、この遠征が終わったらナティスに言いたいことがあるんだ。全てが終わったら聞いてくれるか?」


「怒られるようなことじゃないなら、聞いてやってもいい」


 ぶはっ、と吹き出したゼノは肩を震わせて笑った。


「やっぱり、バカナティスだな」


「なんでだよ~」


 布団の中でゼノの尻尾がオレの足に巻きついて来た。その感触に胸が熱くなった。


「明日、がんばろうな」


「ああ、がんばろう」


 その日の夜、オレとゼノは緊張と恐怖を抱きしめ合って眠りについた。



 




 この遠征がとても過酷なものだと

オレ達は分かっていた。


「ゼノ!しっかりしろ!」


 雨が降る中、漂う鉄と獣の臭い。泥でぬかるんだ地面が弾けるとその上にオレは倒れる。これからくる衝撃に耐えるように剣を構えた。


「ぐるるるる!」


 剣に噛みついて来たのは黒いもやに半分覆われた白い三角耳に長い尻尾の獣鬼化が進んだ獣人ーーゼノだった。


「ゼノ、一緒に帰るんだろ!」


 まさかここまでとは思いもしなかった。


「くそがーーー!」


 オレの声は雨と共に地面へ落ちた。

 


 


 

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