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17.初めての拒絶

 清々しい朝日が差し込むの食堂ではオレとルキ、そして何故かセオドアがテーブルに上体を預けていた。

 ゼノにリンネル、シドさんはご機嫌な様子だった。


「今日もだろ、ギフトの練習」


 ルキがカタカタと震えながら自分の手を見つめる。


「もう、俺いやだよ!体がもたない!色々と!」


 ルキがオレの肩を揺らす。それはオレも一緒だった。ギフトの練習をレオとすればする程、ゼノがしつこい。

 じゃんけんも負けてしまうし、散々だった。


「もう僕、暫く独房に帰りたくなってきた。みんなで一緒に行く?」


「俺行きたいかも」


 セオドアの提案にルキが乗ろうとする。もう色々と限界なのだろう。

 他の団員達も噛まれたり、喧嘩をして絶交状態が出てきているらしい。

 もう遠征の日は目前と控えているのに大丈夫なのだろうか。

 オレはレオと剣術や立ち回りの練習もしている。しかし、毎度毎度、ギフトの上書きとなると日中の練習にも響いていた。


「ゼノ、あのさ…オレ、今日と明日はレオの所に行ってくる」


 ゼノが食べようとしていたサラダを皿に戻す。尻尾が激しく揺れていた。顔には出していないが怒っているのだろう。

 リンネルが怯えた顔でゼノを見ていた。


「ちょっと、体がもたないっていうか。レオと練習したいことがあるんだ」


「やめてー、もうやめてー!」


 リンネルが青くなって首を振っている。シドさんはにやり、と笑ってオレを見ていた。


「そういうことだから!」


 オレはゼノの言葉を聞く前に残りのスープを飲み干し、パンを咥えて席を立った。


「あれ、ナティスじゃないか」


 下膳しているレオがいた。


「レオ、今日と明日泊めてくれ」


「え、それはだめだろう」


「でも、オレ、体キツくてせっかくレオに訓練付けて貰ってるのに。全然だし」


 大きなレオの手がオレの頭を優しく撫でてくる。

 レオはゼノとはまた違った優しさを持った獣人だった。年上だからだろうか。年の離れた兄のようだった。リンネルとの誤解が解け、男の獣人に嫌悪と恐怖を抱かなくなったオレはレオにすぐに懐いた。

 最初はすごい厳しい雰囲気を出していたのに話してみると優しかった。

 包容力がある、というか安心する。


「俺は構わないが、ちゃんと相手のバディと話しておいで。ほら、こっち睨んでるじゃないか」


「いやだ。行きたくない。どうせ行くなって言われる」


「……だろうな。分かった。俺が話してくるから、ちょっと待ってな」


 ニカッと笑ったレオがゼノに向かって歩いて行く。

 暫く何かを話した後、レオはゼノの肩を叩いていた。

 オレの所に戻ってきたレオはニコニコと黒い尻尾を振って戻って来た。


「許可が出たぞ。ただし、明日の朝までだ、いいな?」


「やった!ありがとう!レオ!」


「よし、今日は厳しく行くぞ」


 オレは大きく頷いてレオの後を追った。







 剣の練習を終え、レオとベンチで休んでいた。

 オレは遠征のことを聞いてから、ずっと試したかったことをレオに聞いてみた。


「なあ、レオ。ギフトって獣人から人間に行くだろ?じゃあ、人間から獣人へ譲渡できないのか?」


 レオの尻尾がゆらゆらと動いている。ゼノより少し丸みを帯びた三角耳がピコ、と動く。


「聞いた事ないな」


「やってみてもいいか?」


 この時、いや朝食からだろうか、オレはまた選択を誤っていたことにまだ気づいていなかった。

 その行為はゼノにとっても、バディを亡くしたレオにとっても嬉しいものではないことに。


「……いや、それはバディとやった方がいい」


「あいつを驚かせたいんだ。それにもしゼノが危なくなったらオレが助けてあげれるだろ?」


 レオは困った顔をしていた。オレはレオの手を取る。体に巡っているゼノのギフトを感じてそれを口から出すようにして口付けを落とそうとした。


「それは、許した覚えはない」


 オレの口元はゼノの声と共に手で覆われていた。


「ナティス、それはだめだ。お前は私のバディだろ」


 辛そうな顔をしているゼノの耳は垂れていた。

 バディ、という言葉にオレは自分がしようとしていたことが、レオにとっても不快だったかもしれないこと気づく。

 自分でもゼノ以外と行うギフトの譲渡は、ぞっとする行為と考えていたのにそれをしようとしていた。ゼノがどれだけ苦しい思いをしているのかも知っているつもりだった。

 ただ、オレは、ゼノの力になりたかっただけだった。


「ご、ごめん。レオもごめんな」


「いや、いいよ。俺もきっと止めていただろうし。あんたが来てくれて良かったよ。今日はもうやめよう。泊まりもなしだ。どうやら俺たちは近づきすぎたらしい」


 レオは、剣を持つと訓練場を出ていった。大きな背中が見えなくなった。レオは、獣鬼にバディを殺された獣人の一人だ。団長に頭を下げられて寄宿舎から出てきたと言っていた。

 そんなレオをオレは自分勝手に傷つけてしまった。

 そしてまた、ゼノも傷つけた。


「何をしようとしたのか自分でも分かっているよな」


 ゼノは声を荒あげることなく冷静にオレの目を見て話す。


「悪かった。でも、オレはお前のために」


「そんな別の獣人と練習したものなんて私はいらない」


 ゼノがオレの手をそっと離す。


「私もナティスを無理させすぎた。少し、距離を置こう。遠征ももうすぐだ。お前の体力を考えなくて悪かった」


 いつもなら笑ってバカナティスと言ってくれるのに、今日は違った。ゼノはオレの頬と唇にキスを落とす。

 ゼノのギフトがオレの中に入ってくる。


「無理させて悪かった」


 ゼノはそう言って立ち上がってオレに背を向け訓練場を出ていった。


「…ギフト、やっぱキスでできるんじゃん」


 ゼノとレオを傷つけたはずなのに、自分にもついてしまった傷が痛かった。それは焦りと罪悪感、そして何か別のなにか。

 オレはそれを抑えるように胸元を握りしめた。


 


 


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