16.ギフト譲渡の練習 side:ゼノ
遠征部隊のメンバーに選ばれた。やっと私は父を楽にしてあげられる、と嬉しかった。
「お前達、バディは他の獣人からギフトをもらう練習を今日から始めてもらうことになる」
獣人だけが別の部屋に呼ばれた理由が分かった気がした。副団長は怒りを孕んだ瞳で私たちを真っ直ぐ見てくる。
きっと誰もが副団長と同じ瞳をしているだろう。
獣人にとってとても大切な家族、友人、恋人、どこかのカテゴリーに分けられるバディ。そんな相手が知らない相手にギフトを貰うなど、殺してしまいたいくらい苦痛だ。
「いいか、耐えろ。お前達のその気持ちは倒す獣鬼に当てろ。バディではない」
自分に言い聞かせるように私達に伝えてくる。
横にいるリンネルは今にも獣鬼になってしまうのではないかと思うくらいその瞳には怒りを含んでいた。
私も沸騰してしまいそうな血を拳の中に全て押さえ込んだ。
副団長が宣言された通り、訓練場にはセオドアが過去にいた寄宿舎から10数名の獣人が来た。皆、嫌そうな顔をしていた。しかし、彼らにも騎士団としての誇りを持っているのだろう。そうじゃなけれはこの嫉妬と執着にまみれた訓練場には来れない。
私達、獣人は上の階からバディの姿を見下ろす。共にいたら危ないからだ。
ナティスが私を見上げる。不安そうな顔をしていた。セオドアの件で獣人の気持ちを身を持って知ってしまったからだろう。
「ボク、どうしよう。耐えられないかも」
リンネルは歯をギリギリと鳴らし、今にも飛びかかりそうだ。私は分厚い肩を優しく叩く。
「お前がギフトを食べられて死にかけた時、ルキがギフトを取られた時、どうする。死ぬぞ」
「分かってるよ。だけど……ゼノは嫌じゃないの?」
嫌に決まっている。
どこぞの獣人に手をつけられるんだぞ。
「部屋に帰ったら上書きするに決まってる」
「それはいい考えだね」
リンネルの横にいたセオドアがニコニコとしていた。
「僕なんか上書きさせてもらえるかどうか。シドはひどい人だから僕の嫉妬する姿を見て楽しむだろうね。どうやったら逃さず上書きできるんだろ」
手錠かな、と変なことを言い始める。セオドアも必死で耐えているのだろう。
「お前達、気の合う奴と組め」
下の階から団長の声がする。ナティスはきっと優しそうな獣人を選ぶだろう。
しかし、選んだのは体が大きく強そうな獣人だった。たてがみのよう黒い髪。隠れた小さな耳がよく動いている。そして鋭い瞳。
そして何か楽しそうに話をしている。私以外の獣人に手を触らせ、頭を触らせていた。
今すぐ下に降りてそいつから引き離して抱きしめてぐしゃぐしゃに泣かせたい。
ナティスが私を見上げる。その獣人も私を見ていた。何か耳元でナティスに伝えている。それを聞いたナティスが顔を赤くし慌てていた。
その獣人とはあっという間に打ち解けたようだった。
そして行われるギフトの譲渡。どの獣人がナティスの手を取るとキスを落とす。体が僅かに光る。
ナティスは喜んでいた。
セオドアの時に体内で攻撃し合っていたギフト。今回は馴染んでいるのかもしれない。
リンネルやセオドア、他の獣人たちが唸り始める。
「お前達、うるさいぞ」
歯を剥き出しにした副団長に怒られる。副団長もギフトを受け取っている団長を見下ろし耐えているようだった。
私は喜んでいるナティスを静かに見下ろした。
「んんっ……おい、待てって」
私は部屋に戻ってすぐナティスを扉に押し付けて口付けをしていた。先程の獣人のギフトと私のギフトがしっかり混ざって、ナティスの中を巡っていた。
これは仕方がないことだと分かっていてもやはり耐え難い。
「んっ…、ん゛ん゛ー」
息継ぎが上手くできないのかナティスは私の体を離れさせようとしていた。
そのまま首筋に舌を這わし、先ほどキスを落とされていた手の甲を私の服で拭ってから舐めとった。
「ゼノ、待てってば……ゼノ!」
両手で私の頬を掴んだナティスは真っ直ぐに私を見る。
「オレ、強くなるから。お前の親父、絶対に楽にさせてやろうな!」
嫉妬でどうにかなりそうな私の目の前で、ナティスはそんなことを考えてギフトを貰っていたのだろうか。
私は思わず笑ってしまった。
「ありがとう。ナティス」
私が微笑むとナティスは嬉しそうな顔で、余計なことを話始めた。
「あの獣人、レオって言うんだって。今度、剣とか教えて貰えることになった」
「バカナティス」
「え、なんで」
私はナティスの腕を引き、ベッドに押し倒す。
「じゃんけん!じゃんけんしよう!」
拳を出してくるナティスは顔を真っ赤にしていた。
そういえば、とあのレオという獣人と話をしているナディスが顔を真っ赤にした瞬間を思い出す。
「レオっていう獣人と何を話していたんだ?耳元で何か言われていただろう」
ナティスは私から目を逸らし、うつ伏せになるとベッドのシーツに顔を埋めた。
「……なんか、愛されてるな、とかよく分かんないこと言われた」
小さな声だった。私は赤くなったナティスの耳を舐める。
「オレ達、バディなのに。愛されてる、とか意味わかんねぇよな」
私はナティスの拳を手で包み込む。
「……私の勝ちだな」
「それはずるいだろ!」
体を上げて、こちらを振り向き騒ぐナティスの頬にキスを落とす。
「ずるくない」
ナティスは悔しそうな顔をしていた。全てが愛おしい。
顎にそっと手を添え口付けを落とす。
ナティスは気づいているのだろうか。
今すぐ抱かれたい。
そんな顔をしていることに。
だから、私はキスでギフトを流さなくなった。もっと私に溺れさせたかった。
「ナティス、上向いて」
私は、込み上げる欲に耐えながらナティスを仰向けにし口付けを落とした。




