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14.不穏な予感


「すみませんでしたぁぁぁ!」


 オレは今、食堂でリンネルに向かって土下座をしていた。


「やめて!元々、獣鬼になりかけたボクがいけないんだから!ずっとトラウマになってたんでしょ!ごめんねぇ」


 リンネルは勢い良く席から立ち上がると、大きい体を縮こませて一緒に土下座をするという変な空気になった。椅子に座っているルキはその様子をため息をつきながら見ていた。


「俺も悪かった。2人ともすまん」


 後ろで見守っていてくれた団長がオレ達に頭を下げる。

 オレが食堂に入って来た時、他の獣人達は嫌そうな表情をしていたが、朗らかな表情に変わっていく。


「あ、あのさ…ボク達、友達になれないかな?」


「え、ああ、うん」


 リンネルは嬉しそうに尻尾を動かしていた。


「わーい!嬉しいな」


 オレを抱きしめてきたリンネルの腕は太く、硬かった。ゼノとは全然違う。


「そろそろ、離れてくれないか?」


 ゼノの声がすると腕を引かれ、オレはリンネルの腕から解放された。


「団長、もういいですよね」


 尻尾を小刻みに揺らすゼノに団長が笑う。


「お疲れさん、これで大丈夫だろう」


 後ろに立っている副団長は耳を横に動かしたりして期限が悪そうだった。副団長と視線を合わせないように逸らした。

 賑やかな空間に戻った食堂はオレ達のことを気にする様子もなく、いつも通りになった。

 団長の提案に乗って良かったと思う。

 オレ達は食事を取り、リンネル達の横に座る。


「お前のバディを傷付けてごめん」


 オレはルキにも謝った。


「いや、いいよ。リンネルが植え付けちまったトラウマだしな。それより、俺とも仲良くしてくれよ」


 綺麗な白い歯を見せて笑うルキはオレの肩を抱く。嬉しかった。オレもルキの肩を抱く。

 ゼノとリンネルはその様子を微笑んで眺めていた。

 ルキとうまがあうのか馬が合うようで話が盛り上がった。


「……なあ、遠征の話聞いてもいいか?」


 ゼノが真剣な表情でルキに話をかける。スープを飲み干したルキはいいぜ、と返事を返す。


「山にいた獣鬼は見たか?」


「そうだな。見たな。お前のような三角耳に長い尻尾だったな。今度、その獣鬼を倒すメンバーが組まれるらしいよ」


 ゼノが持っていたパンがぐしゃりと握りつぶされる。

 昨日言っていた父親なのだろうか。


「その話、僕も聞いてもいいかな?」


 甘い香りは鼻を掠める。聞き覚えのある声に横を見るとセオドアがいた。そして眼帯をつけた赤い髪の人も一緒だった。


「セ、セオドア!?なんで!?」


 昨日まで独房にいたはずなのにニコニコと憑き物が落ちたような顔をしていた。


「やあ、ナティス。昨日ぶりだね」


 あまりの変わりように驚いていると肩を抱かれる。


「バディと仲良くなれたようで良かったね。すごいよ匂いが」


 耳元で囁かれ、わなわなと震えながらセオドアを見る。意地悪そうに笑っていた。


「あの、私のバディにちょっかい出すのやめてもらっていいですか?」


「いやぁ、ごめんね。昨日、僕のところに来てたからさ」


「……ナティス」


 ゼノがどういうことだ、と言わんばかりの顔でオレを見てくる。


「色々あんだよ」


 オレはそれだけ伝え、パンを豪快に食べる。

 赤い髪の人はパンと一口に千切って静かに食べていた。初めて見る人だった。


「あ、紹介するね。この人、僕のバディのシドニクス」


「よろしくな」


 とても爽やかで優しそうな顔をしていた。艶のある長い髪は綺麗だった。


「あれ?でもセオドアのバディって」


「僕も昨日まで生きてたなんて知らなかったんだよ。この人、すごく性格悪いかた気をつけるんだよ?」


「こらこら、セオ。余計なことを言うんじゃないよ。ナティス、だっけ?ごめんね、俺の駄犬が。首、まだ痛いだろ?俺のことはシドって呼んでいいよ」


 オレの背中に悪寒が走る。目が全く笑っていなかった。

 さっきまで優しそうだったのに。


「ナティス、この人、怖いの本当だよー。遠征の時、ギフトないのに獣鬼を倒してたよ」


 リンネルが耳を垂らしながら野菜を口に含む。


「それで、そうだ獣鬼だっけ?シドさんもアレ見ましたよね」


 ルキがシドさんを見るとゼノの耳がピコピコと動く。


「アレってなんですか」



「共食いをしてた」


 シドさんがパンを豪快に千切り、スープの中に入れていく。

 パンはスープと混ざり合っていく。


「それって…白い髪に俺と似た三角耳ですか?」


 ゼノの声が僅かに震えていた。


「……そうだよ。奴はギフトを食べているようだった」


 ドロドロに溶けたパンはゆっくりと底へと沈んで行った。







 シドさんの話を聞いたあの日から、ゼノはどこか焦っているようだった。鍛錬をいつもより倍熟すようになっていた。

 オレはそんなゼノが少し心配になった。


「なあ、ゼノ、大丈夫か?」


 風呂上がりのゼノの尻尾はだらり、と尻尾が落ちていた。


「大丈夫だ」


「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ」


 ゼノがオレの腕を引き、抱きしめる。濡れた髪の雫が首筋を伝って服の中に入っていく。


「……父さんを早く楽にしてあげたいんだ。共食いなんて、化け物がすることだろ」


 やはり、ルキとシドさんが言っていたのはゼノの父親だったのか。


 こんな弱々しいゼノは初めてだっ

 オレはぎこちなくその背中に腕を伸ばし、ぽんぽんと軽く叩く。


「……癒しくれる?」


 弱々しい声だった。

 癒しとは何をすればいいのか、と考えたが、オレは耳を触った時に気持ちよさそうな顔をしていたゼノを思い出した。


「……いいけど。髪の毛乾かしたら、頭、撫でてやるよ」


 ゼノは小さく頷いた。



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